第8話:スパイと仲良し大作戦

 ラーメンを食べ終えて腹ごなしに歩く。

 制服姿のクイナはお腹を抑えて「ふいーっ」と息を吐く。


「人のお金で食べるラーメンは美味しいですねえ」

「数ヶ月前まで心のない人造兵士をやっていた女の姿か? これが」

「あなたが……私に人の心をくれたんですよ?」

「エモで誤魔化せると思ってる?」


 だいたいそもそも俺と会った時にはもうそんな感じだったろうに。


 制服のスカートから伸びる白い足、性格の割に真面目な着こなしなので黙っていれば本当に清楚な美少女だなと思う。


 ちゃんと着ているのは真中が厳しいからだろうか。


「ん? どうしました? 見惚れてましたかー?」

「は? 違うが? は? 何言ってるんだ? は?」

「慌て方が尋常じゃないなこの世界最強……。というか、途中で学校抜けてきたけど師走川は平気なのか?」

「あっ、忘れてましたね。まぁ元々勉強してないから平気ですよ」

「何も平気じゃなくないか……? あー、俺はこのままパトロールするけど二人はどうする?」


 愛知は『自警団パトロール中』と書いたクソダサいタスキを肩からかけながら俺達に尋ねる。


「んー、学校に戻るのもアレなので、家に帰ろうかと」


 クイナはそう言いながら俺の服の袖をくいくいと引っ張る。

 それが一緒に来てほしいという意味であることは分かるが、今は少し愛知に用事があった。


「いや、少しだけ愛知のパトロールに付き合うよ。クイナは家に帰って勉強でもしておいてくれ」

「えー、なんでですか。私だけラーメンにニンニク入れまくったからですか」

「ああ、まぁ人には臭いからニンニク食うなと言いながら自分は普通にガツガツ食ってるのには引いたけど……それはそれとして、ちょっと愛知と話があって」

「話?」


 クイナは首を傾げ、それから「ははーん」と目を細めて俺を見る。


「男の人が二人ですること……で、私がいると不都合なこと……恋バナですね? 恋愛相談ですね?」

「違う。ほら、さっさと帰った帰った」

「はーい。あ、スーパーに寄ることあったら牛乳買ってきておいてください」


 うりうりーと俺の脇腹を突いてパタパタと去っていくクイナを見送ってから愛知の方を見ると少し困った様子をしながら自分の付けているクソダサタスキを触っていた。


「すまない厄神。このタスキ、今はひとつしか持ってないんだ」

「いや、いらないよ」

「パトロールにタスキは必須だろ? ……今持ってるのはこれしか……」


 愛知は懐から『本日の主役』と書かれた浮かれたデザインのタスキを手渡される。


「これをつけてパトロールしてくれ」

「誕生日で浮かれた若者が徘徊しているようにしか見えないだろ。パトロールに目をつけられる側だよ」


 そう言いながらもタスキを身につけて愛知と話す。


「アスファルトを操る異能力者を探しに行くならアイツらの本拠地の方だろ?」

「ん、ああ、まぁ厄神がいればどうにかなるだろ」

「それなんだけど、俺もそこで調べたいことがあってな」


 愛知は俺の方を見て首を傾げる。


「調べたいこと?」

「ああ、人工異能力者の設計図。現状は不都合が出てないしある程度は把握してるけどちゃんと知っておきたい」

「ああ、師走川のか。なんでわざわざ先に帰したんだ? ツンデレ?」


 ニヤニヤとする愛知の言葉をすぐに否定する。


「違う。……こちらから攻める場合、秩序側としたら真中ミズキの元いた組織とかに許可を得る必要があるだろ。あそこ政府と絡んでるし」

「ああ、それがどうかした?」

「人工異能力者の情報を処分される可能性がある」


 俺の言葉を聞いた愛知がピリッと表情を引き締める。


「アイツらに裏切り者がいると?」

「可能性として。クイナ達、人工異能力者って言っても、まさか工場で製造してるわけじゃないだろ。おおよその仕組みとして遺伝子操作した子供を薬物投与によって強制的に異能力に目覚めさせる……という仕組みなんだが」

「詳しいな」

「一回忍び込んだからな。まぁその話は置いておくとして……。クイナの『異能力をコピーする異能力』と真中ミズキの『異能力を無効化する異能力』。それなりに似てるだろ」


 愛知は俺の言いたいことが分かったのか目の色を変える。


「古くからいる異能の五大名家の一つ、真中家。その血筋は多く『異能力に関する異能力』に目覚めやすい。対異能力者戦闘に特化した家系だ」

「……ミズキの家が裏切っている、と」

「単に遺伝子を抜き取られただけの可能性もあるけど、まぁ真中家の一部が協力した方がスムーズだろうな」


 真剣な表情で愛知は俺を見る。

 俺のことを信じられるか考えている……というような様子ではない。


 パトロールのための足は少し歩幅が小さく歩調が遅くなる。


「……時々、こっちの作戦が割れていることがある。確実にバレているわけではないけど、不自然なことが稀に」

「スパイがいそうなのか……そうなるとややこしいな。こっちの後ろ盾というか正当性を担保する役にいたら、作戦内容を伝えざるを得ないしな」

「……先にスパイの炙り出しをする必要がありそうだ。いなかったらいなかったでいい」


 愛知はそう言ってから手帳を取り出す。


「そうするためにまず……ミズキと仲直りしてくれないか? こういう面倒な作戦って信頼関係ないと無理だろ」

「……仲直りと言ってもなぁ」


 あの保護者、クイナと仲良くしていたら絶対嫌がるわけで……。

 俺はクイナと離れたくないので絶対に合わない。


 まぁ無理矢理引き剥がすみたいなこともされてないけど……。


 俺が歩きながら考えていると愛知はポンっと自分の胸を叩く。


「まぁ任せとけ。俺が仲良し大作戦をやってやるから!」

「……不安しかないな」

「大丈夫だ。これでも高校の頃は文化祭実行委員会だったんだぜ!」

「だからなんだよ」

「あと小学生のころはたっくんの家で毎日集まって遊んでた。仲良しなら任せとけ!」

「誰だよたっくん」


 不安だ……と思いながら、タスキを返して、クイナが住んでいる家に向かう。

 その途中、牛乳を頼まれていたことを思い出してコンビニに寄る。


 カゴの中に牛乳とお茶などを突っ込んで、それからスイーツコーナーの前で腕を組む。


 クイナは勉強を頑張っているはずだからちょっとした差し入れをしてやりたいが、好物とかよく分からないんだよな。

 というか、俗世に出てきてから短いから、本人もどんな食べ物が好きかが分かっていないところがある。


「……まぁ、クッキーかな」


 一つカゴに入れて、それからクイナの家に行って呼び鈴を鳴らす。

 それからガチャリと音が鳴ったのでレジ袋を前に持って見せながら出てきた人物に言う。


「おーい、勉強頑張ってるか? 牛乳買ってきた……ぞ……」


 と、言った俺の目に入ったのは、胸の前で腕を組んだ怒った様子の美少女……真中ミズキの姿だった。


 部屋の奥に……机の上に畳まれて置かれた、クイナが悪ふざけで買ったコスプレ衣装と、その前で正座をさせられているクイナがいた。


「……あー、これ、差し入れです。じゃあ」


 真中ミズキから逃げようとした俺の首根っこが掴まれる。


「厄神さん。正座」

「……はい」

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