第7話:人的資源は大切に
瓦礫を二人で端に寄せていく。
この道路の整備も事態が解決するまでなかなか出来ないだろう。
「……さっさと解決したいんだけどなぁ。こっちから攻め込める戦力もないしな。機関の連中は頼りないし」
「【異能対策機関】だったか? まぁ古くからあるところとは言っても、今みたいな異能力者だらけの世界は想定してないだろ」
俺が軽く庇うと愛知は小さく息を吐く。
「あ、そうだ。今から暇か?」
「ん、まぁ……クイナ次第かな」
遠くからパタパタとやってきていたクイナを見ながら答えると、愛知はへらりと笑う。
「なら丁度いいか。ラーメン食いに行こうぜ、ラーメン」
「この街にまだラーメン屋とかあったんだな」
「ああ、と言ってもちょっと遠いけどな」
クイナは仲良しアピールをするように俺の隣にくっつく。
「ラーメン! いいですね、ヤクさんの奢りならもっと嬉しいですね」
「はいはい。そういや真山ミズキは反対として、他の二人はどうなんだ?」
「ん? ああ、まぁ割と歓迎って感じかな。まぁ今まで戦ってきたのに急に最強が加入して解決ってのにはちょっと抵抗感があるみたいだけど」
そういうものだろうか。
愛知を中心として出来た『自警団』は、五人のメンバーで構成されている。
リーダー……というのが適切なのかは分からないが、それを始めたのはこの男で、詳しい話は知らないが昔から異能力が使えたらしく住んでる地域を守るために動き始めたとのことだ。
真中ミズキは元々別の治安維持組織から監視のために派遣されてきていたエリートの少女だ。愛知と仲良くなって自警団に移籍し、今はその影響もあり、元の組織と自警団は協力関係にある。
師走川クイナは……ラスボスのような男の組織で作られた人造人間だ。人工的に異能力者を作る実験により生まれた。
……それなりに不幸な生い立ちだと思う。
彼らのことを考えながら、まだ営業をやめていないラーメン屋に入って券売機の前に並ぶ。
「あっ、ヤクさん、ラーメンはニンニク抜きにしてくださいね。餃子とかも禁止ですから」
「いいだろ別に……好きなもの食べて。というかなんで……あっ」
クイナの唇を見て意図に気がつく。
一瞬だけ愛知の方に目を向けると、彼はわざとらしく気が付かないフリをして「あー、ラーメン美味そうだなー」などと口にしながら券売機に金を入れていた。
「……違うからな、愛知」
「な、何がだ? 俺は何も察してないが?」
「察してるやつしか言わないだろその言葉は……!」
それにしても……なんというか、クイナは少しそういうことにハマりすぎではないだろうか。
いやまあ……俺も中学生ぐらいの頃はそういうことばかり考えていたし、実際にそういうことを経験してしまったらハマるのも仕方ないことなのかもしれない。
他に娯楽も知らないだろうし、死の危険があったりで本能が刺激されるとか、そうでなくとも恋人がいたらしたいと思うのは当然で……。
俺もクイナに精神的に救われているところがあるのだから、そういう欲求にも応えた方がいいのだろうか。
いやでも、本当にクイナに合わせると毎日とかになりかねないというか……流石によくはないような……。
そう思いながらニンニクの入っていないラーメンを頼んでテーブル席に座る。
店内に貼られた『避難要請』のポスターはすでに古くなっていて、中華料理の油が移っていた。
「……私は目を悪くしてましてね」
ラーメンを運んできた店主の声に、ポスターから目を離してそちらを向く。
「慣れた厨房じゃないとラーメンを作れないんですよ。だから、避難なんて出来ませんよ」
「……いただきます。ご家族はいないんですか? 心配してるんじゃ」
「家族よりもラーメンをとっちまったってだけですよ」
愛知は言葉を選んで返して、店主は少し目を細めながら返す。
クイナはヒソヒソと俺に「ヤクさんも料理人として共感するところがあるのでは?」と茶化したので頭をパシンとはたいておく。
クイナは涙目で俺を睨んでから店主に言う。
「ふふふ、まぁご主人。そんな悩みももう解決ですよ。この厄神ヨウさんが悪い人をやっつけちゃいますから」
「ふふ、そうかい。……それはありがたいね」
「はい!」
店主はテレビニュースを見る。
ここ数年通り、ニュースの内容はほとんどラスボスのようなあの男のことだ。
『──深見クノウ氏の声明が出されました』
その言葉に一瞬だけ愛知がピリッとした殺気を匂わせて、それに自分で気がついたのかズルズルとラーメンを啜って誤魔化す。
それにしても深見クノウ「氏」か。
テロリストのリーダーに付ける敬称ではないだろうに。
店主はそのニュースを聞いてポツリと溢す。
「……ラーメンは誰でも食えるだろうに。この国は」
俺とクイナのラーメンもすぐにやってきて三人でズルズルと啜る。
少し古い店構えだったけど、味付けはしっかりと研究されていて、つるりとした麺とスープが絡んでかなり美味い。
今風のラーメン店とは違うが、研鑽を積んだ旨さがある。
美味しい美味しいと食べているクイナを見つつ、ぼーっとニュースで読み上げられる声明を聞く。
昔は切り貼りでの印象操作が酷かったそれも、今はあの男深見の思想がしっかりと伝わるように報道されている。
真実を伝えているのはいいことなのか、それともテロリストの思想を広めるスピーカーになっているのか。
「美味いなー、ミズキも呼べばよかった」
愛知はそんなことを言いながらほろほろとしたチャーシューを口に運ぶ。
本当に気にしないフリが下手なやつだ。
俺はさっさとラーメンを食べ終えてお冷を飲む。
お冷は薄くレモンの香りがして、ラーメンの脂が口の中から落ちていく。
「俺はさ、将来洋菓子店を開きたいんだ。だから平和になってもらわないと困る」
「はは、分かってるよ。迷ってない。……あーさっきのアスファルト舗装直したいんだけど、そういう能力者とかいないかな」
「味方にはいないな」
「……人、道がないと戻って来れないよな」
愛知はそんな言葉を溢す。
「俺は将来、この街を足立区ぐらい立派な街にしたいと思ってたんだよな」
「故郷への愛情と足立区への愛情が渋滞してる。あー、そういや、味方じゃないけどいたな、あっちにアスファルトを操る異能力者。……味方に引き入れるのは無理だろうけど……」
と、クイナの方を見る。
小さい口でちゅるちゅると麺を啜っていた彼女は膨らみの薄い胸を張ってドヤ顔を俺達に向ける。
「ついに出番ですか。私の持つ無敵の異能力……『異能をコピーする異能』の!」
ドヤァ! とばかりの笑みを浮かべるクイナを横目に愛知を見る。
「でも師走川の能力って燃費悪いんだよな。異能をコピーするのにも魔力を使って、コピーした異能を使うにも魔力を使うから。厄神の無限の異能力とか一回も発動出来ないレベルだし」
「あとクイナに頼むと絶対あとで色々ねだられるのがなぁ」
「あれ? もしかしてこの私に頼るしかない場面でしぶられてます? そこまでされてません? 信用」
「……」
「……」
俺と愛知は黙った。
本音を語れば傷つけるかもしれないと思い、ふたり揃って黙ったのだった。
「おーい、聞こえてますか? おーい」
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