第6話:表面的解決
善悪を語る際、よく利他的か利己的かの話になる。
誰かのために動くものが善で、自身のために動くものが悪であると。
だとするのならば、俺やクイナは悪党で──あの男は善人だ。
まぁ当然と言えば当然だろう。
「自身のため」に動くためのやつになんて好き好んで仲間になろうというやつらが集まるはずもない。
特にこんな……決死の目をしている連中は。
クイナを置いて学校の外に出て、数人の異能力者に目を向ける。
服装も年齢もバラバラだが、一様に同じ使命感に駆られた瞳を俺に向ける男達。
命を懸ける……というよりも命を捨てるといったような色を顔に乗せていた。
「……やめとけよ。勝ち目がないことは分かっているだろ」
そんな言葉が通じるとは思ってなかった。
その中の一人が俺を見て口を開く。
「マズローの欲求階層説って知ってるか?」
「……あれだろ、生理的欲求とか安全の欲求が満たされない限り別の欲求は出てこないみたいな」
「なら忘れた方がいい。ありゃ嘘っぱちだ。俺は命よりも、大義を優先する」
ああ、随分と利他的だ。
……本当にやりにくいなと思いながら5人の異能力者が俺を囲む。俺はポケットからナイフを取り出して、自身の手のひらを斬り裂く。
傷口から吹き出てきた無限の赤い血液により敵を一斉に斬り裂こうとしたが、同時に出現した半透明の壁によって防がれる。
「ぐっ、ぐう……今だ!」
バリアのような異能力を使った男の合図により、他の異能力者が動き出す。俺の周りのアスファルトが粘土のように溶けて触手のような形を取ったかと思うと俺を捉えようと動く。
刃物のような形を取らないのは、おそらく前の雷の男が負けたことで斬り裂く攻撃は通じないと判断したからだろう。
おそらくあのときの男が生き延びていることに安心しながら、もう一度手を切って出血による攻撃をしようとするが、俺が手を切るのと同時に切ったはずの場所が光って回復する。
回復されたせいで出血までいかず、血の攻撃が出来ない。
「……対策はしてきましたよ。最強」
そのままアスファルトの触手が俺にぐるぐると巻きつくが、出血による反撃を恐れてか痛めつけるようなことはなく拘束するだけだ。
「なるほど。けど、これぐらいならなぁ」
ただの腕力で触手を振り解こうとした瞬間、唐突に腕から力が抜け落ちる。
見れば異能力者の一人が俺を模した人形の腕に釘を刺していた。
「呪術系か。徹底的だな」
初手を防ぐ防御役に、メインの拘束役、こちらの攻撃を抑える呪術と回復、そうなると……。
俺の頭上に巨大な火球が生み出される。
「──燃え、尽きろ!」
先程話していた男の手によって火球が俺へと落とされる。
出血させてはいけないなら燃やし尽くす……それなりに分かりやすい手だ。
まぁ焼かれてもダメージにはならないが、それなりに痛いので防ぐとするか。
「フッ」
と、俺が吐いた息が頭上の巨大な火球を消し飛ばす。
あまりのことに異能力者達は瞬きを繰り返す。
それなりに優秀な異能力者が集まって対策を練ってきたのだろう。けれどもその程度でしかない。
火球に全力を込めていた男は膝をつきながらも叫んで指示を出す。
「切り替えだ! 囲め!」
俺を掴んでいたアスファルトが増えて、半透明の壁が俺の周りに現れる。
殺すのは無理だから封じ込める……か。まぁ、そうなるよな。
「……俺の能力って、手加減が面倒なんだよな。雑に振るえば地球どころか宇宙ごと破壊してしまう」
「脅しか? お前が臆病ものなのはよく知っている。このまま封じさせてもらう──!」
「……いや、お前達の立場を案じて、情報をあげているだけだ。俺の奥の手のひとつぐらい教えてやろうってな」
異能力を使う。
その瞬間、俺を囲んでいたアスファルトがボロボロに崩れ去り、囲んでいた壁が消え去る。
囲んでいた半透明の壁も、腕を封じる呪いも。
代わりに全員がその場で膝をついていた。
「いったい、なに……が……」
「お前達の異能力を使う際の魔力の消費量を無限にした。異能を使おうとした瞬間に魔力がなくなって発動が出来なくなる」
「……なん……だと?」
「理不尽極まりないだろ? ……だから、積極的に使おうとは思わなかったんだよ」
もはや彼等の異能力は意味がなく、非異能力者と同じだ。
アスファルトが剥げて下の土が見えている中、その瓦礫の上に着地する。
「……馬鹿らしい力だろ? もうやめとけって伝えてくれ、俺も積極的に表舞台に立ちたいわけじゃないんだ」
俺の説得は伝わらなかったらしい。
男はポケットからストップウォッチを取り出して口を開く。
「戦い始めてから、30秒……か。一人当たり6秒。……1000人注ぎ込めば、6000秒、100分もの間、拘束出来るのか」
「……何を言ってる?」
「そのままだ。お前に勝てないなんて、みんな知っているさ。けどな、100分もあれば……俺たちは勝てるぞ」
男はそういうと何かのボタンを押す。
その瞬間に男達の体は黒い渦に吸い込まれて消えていく。……転移系の異能力を仕込んでいたのか。
「ハッタリだな。千人の死兵を別で用意した上で革命を成功させるなんて現実的じゃない。というか、それが出来るなら普通に大人数いるんだから武力じゃなく多数決で影響力あるだろ」
それが出来るほど多いなら国政に出ろ、国政に。
まぁ、けど……地球の裏側で暴れられたら俺には対応しきれないのは間違いない。
日本を拠点にしているのはボスのあの男が日本人で、始まりも日本だから組織に所属しているのが日本人の割合が高いからで……。
俺がここにいるなら適当に俺を足止めしながら他国を狙うのは普通にアリだ。というか、流石にそこまで干渉出来ない。
……世界を潰す……か。
俺はため息を吐きながら近くの自販機で水を買おうとして、札を入れるが何度も戻されて諦めてスマホで決済をしようとするがエラーが出ていて使えない。
……なんか運悪いな。
まぁ飲まず食わずでも死にはしない体だけど……と思いながら待っていると、黒髪の男が慌てた様子で俺の元に来る。
「おい! 無事か!?」
「あー、いや、悪い。結構街に被害が出た」
「そうじゃなくて怪我とか!」
主人公みたいな男、愛知は埃まみれの俺の服をベタベタと触りまわし、俺は男に弄られる気持ち悪さから彼の頭にチョップする。
「平気だ。俺がダメージを受けるわけないだろ……。気持ち悪いからベタベタするな」
「そ、そうか? ……たぶん、狙いはお前だよな? ……勝てるわけなくないか?」
「情報収集のためだろうな。……どうするつもりなんだか。流石に日本を諦めてアメリカとか襲いますって言われたら困るな」
「……アメリカ、か」
愛知は眉を顰める。
「どうかしたのか? 元々愛知達は自警団なわけだし、アメリカに行ってくれる分には、心情は別として戦いも終わって助かるだろ。あっちはあっちで何とかするだろ」
「いや、そうじゃなくてな。俺ってほら、見たものしか信じない陰謀論にハマらないタイプじゃん?」
「そうなのか? それがどうかしたのか」
「アメリカは見たことないからたぶん存在しない」
「!?」
「俺、自分で見たものしか信じないからさ」
「アメリカは……そういうのとは別の括りだろ!?」
「いやでも見たことないし。あ、でもインドとエジプトとグリーンランドの実在は信じてる」
「そうか……行ったことあるのか」
なんか自分探しの旅をしてる人みたいなラインナップだ。
「いや、ミズキが一人で行ったらしい。俺は仲間を信じているから」
「アイツ、そういうなんか洒落臭い大学生みたいな一人旅をするタイプなんだな……」
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