第5話:悲観的未来
「世界を救えたら、どうやって生きていけばいいんでしょうね」
「流石になんか国が出してくれるんじゃないか?」
俺の言葉にクイナは首を横に振る。
「お金に関してはヤクさんにタカればいいので気にしてないです」
「最悪の返答がきたな……。じゃあ何の話だ?」
「……長すぎますよ。人生。……この前まで、半年前には死ぬ予定だったんですよ」
「俺には偉そうに色々言ってたのに……」
「そりゃ、他人事ですもん」
「カス」
なら一緒に洋菓子屋でも開くか、と、気軽に誘えたら楽だったのだろうけど、それを口に出来ずに窓から外を眺める。
「学校さぁ、俺も昔通ってたんだけどな。面倒くさくてサボったりしたんだけど。サボった日にするゲームってあんまり熱中出来ないんだよな。少し罪悪感があって、頭の片隅にそれがあって」
欠伸をして、それから外から飛んできたボールを捕まえて投げ返す。
クイナは曖昧に頷く。
「俺の人生はこれからずっと学校をサボった日の放課後だ。少し後ろめたくて好きだったアイスも味気ない。だから、まぁ、無理なら無理でいいから自分を騙せる程度には頑張った方がいいと思うぞ」
「勉強ダルいです」
「カス。……まぁ、じゃあ……今日教えてやるから」
俺の言葉にクイナは少し驚いたように目を開けてクスリと笑う。
「なんだよ」
「いえ、ヤクさんの方からデートのお誘いは初めてですから」
「デートの誘いとかではなく……。まぁ勉強のやる気が出るならそれでもいいけど」
勉強しろ、と、本気で言っているわけでもない。保護者のミズキに合わせているというのもあるけれど、それ以上に大人ぶっているだけである。
将来、一緒にいたいなんて子供みたいに頼むことは出来ないから、大人ぶって偉そうに出来る言葉として勉強というものを選んでいる気がする。
学校の廊下は細くて遠い。
今は人が少ないが、ちゃんと生徒がいたころには手狭だったのだろう。
いや、まだ生徒の身体も小さいからそこまででもないのかもしれないとクイナの小さな白い手を見て思う。
「そもそも何ですけど、ヤクさんってお勉強出来るんですか?」
「ナメすぎだろ……。時々、クイナの身体診察してるだろ。「人造異能者」の仕組みを理解している程度の脳味噌はある」
「えっ、アレ本当に診察してたんですか?」
驚くクイナにため息を吐く。
「なんだと思ってたんだよ……」
「てっきり……お医者さんごっこプレイかと」
「違う」
クイナは「本当ですかー?」と疑うようなジト目を俺に向ける。
お医者さんごっこプレイだと思ってるならなんであの時うなずいたんだよ……。
「んー、じゃあ、私ってどれぐらい生きられますか? 「きょうだい」は短命だったようですけど」
「……前提、あのラスボスみたいなやつは倫理観がなく、かつ優秀な兵士を求めていた。耐用年数はいいところ30歳まででいいという設計思想だ」
「案外長生きです」
「実際のところとしては普通の人間をベースにしてるから、異能関連の弊害が出なければ普通の人間と同じぐらい……。俺が側にいる限りなんとかする」
「……微妙な感じですね。悲劇のヒロインぶれたらいいんですけど」
俺には生きろというんだから、クイナももう少し気合いを入れてくれたら……と思っていると、クイナは教室に入って席に座って鞄を置く。
ハッキリと「明日も明後日も、それから先もずっと一緒にいたい」と言えたのならよかったけれど、それも出来ずに教室の中に立つ。
「……この戦いが終わったら、きっと人も戻ってくるんでしょうね」
「だろうな」
「髪、白くて目立つから染めるように言われるかもです。勉強ついていけてないのがいろんな人に知られてしまいます」
「……学校、嫌いか?」
「好きなはずがないじゃないですか。自分が出来ないことを見せつけられる場所なんて」
中学生としても体が小さいのだろう。少しサイズの大きい机にもたれて俺を見る。
きっと俺からの言葉を期待しているのだろうと分かる。
「……ああ、その」
俺は少し言葉を詰まらせながら、彼女から目を逸らす。
「……俺は、クイナがいいやつって知ってるから。だから、それじゃダメか?」
「いつまでいてくれるかによります」
俺の方に身を寄せる。
普段のクソガキっぷりが身を潜めているのは、本当に学校という場所が苦手なのだろう。
まぁ今までしてこなかった勉強という苦手なことをずっとさせられて、友達もいないような環境だとそりゃ辛いか。
「……クイナの身体の不具合とか分かるの、今は俺だけだからな。誰かに引き継ぐまでは離れられないかな」
「……いくじなし」
「うるせえ。色々あるんだよ、こっちも」
一緒にいたい。
なんてハッキリ言うには立場も年齢も色々面倒で……何よりも気恥ずかしい。
俺が他所を向いていると、クイナが俺の服の袖をつまむ。
「……今日、少し、調子が悪い気がします」
仮病か? と思っていると、クイナは少し顔を赤くしていた。
「保健室、今は先生もいないと思うので……その、診察、しませんか?」
クイナは言い訳が上手い。
生まれ育った環境のせいか、それとも性格が性格だけに怒られたときに言い訳をするのが慣れているからか。
そのせいで用意された言い訳に対しての反論は思いつかず……良くないと分かりながらも二人で保健室にへと歩く。
彼女はキョロキョロと中を見回したあと、鍵を掛けてカーテンで光を遮る。
端から漏れる光をちょいちょいとカーテンを引いて隠したあと、息を吸って吐いて、ベッドの上にポスリと腰掛けた。
「……あ、あー、じゃあ、その……いいか?」
コクリと頷くクイナは自身の制服に指をかける。
俺はクイナの首筋を見て、無意識に喉を鳴らしていたことに気がつく。
クイナが触っていた服に手を触れさせて、首を横に振る。
「ど、どうしました?」
緊張で喉を震わせている彼女を見て、俺はゆっくりと言う。
「……いや、その、ちゃんと「好き」とか「付き合う」とか「結婚する」とか言えてないから」
俺の言葉にクイナはぷくりと膨れて、そのまま無言で俺の頭にゴスゴスと何度もチョップする。
「ヤクさんが、私のこと大好きなのは、知っていて、こうしてるんですっ」
「痛い痛い、すごく痛い。叩かないで」
チョップする手を止めた少女はベッドにゴロリと寝転がりながら俺を見る。
「言えばいいじゃないですか。「好きだから結婚してほしい」って」
「流石に言えないだろ……」
「なんでですか。私がそれを揶揄う気でいるからですか?」
「それもある。一生笑われそう。……まぁメインはそうじゃなくて……その、あるだろ、社会規範とか」
「それは中学校に潜入して生徒を保健室に連れ込んでる時点でアウトでは」
連れ込んだのはお前だろ。
ベッドの上に広がる白い髪を見て、少し見惚れる。綺麗な子だと思う。
本人は美醜に無頓着で気がついていないけど、きっと引くて数多で簡単に呆気なく幸福を得るのだろう。俺がどうこうと構わなくとも。
そんなことを考えていると、そんな彼女はスカートに皺が寄るのも気にせずにベッドの上で丸まって不満そうに俺を見る。
「つまらないことを考えていそうなので言ってあげますけど。私は、他の人がくれる幸せより、貴方がくれる不幸の方が嬉しいんです」
カキン、と、外でボールが打たれる音がする。
誰かが楽器の練習を始めたのか、別のところから笛の音が聞こえて、廊下側からは足音が。
緊張で乾いた喉。上手く作れない表情。
「……好きだよ。クイナ」
なんて言葉をやっとのことで吐き出して、彼女は満足そうに頷く。
「よし」
「……」
「黙っちゃって、どうかしました?」
「いや、返事というか、その……言い返すこととか」
俺の言葉にクイナは呆れたように「やれやれですよ」と口にする。
「好きと言ってほしいんですか? 中学生の女の子に? まったく……大人として恥ずかしくないんですか?」
「こ、コイツ……自分は人に言わせといて……」
クイナは俺の文句に煽るような表情を浮かべて深いため息を吐く。
「言われたら嬉しいけど言うのは恥ずかしい……なら言わせるだけ言わせて自分は言わないのがお得です」
お得です、じゃねえよ……!
俺がクソガキに文句を言おうとしたところで、ふと頬にピリッとした鋭い感覚が走る。
異能力者との戦いに慣れていくうちに自然と身についた……殺気の感覚。
「おいクソガキ」
「なんですか? クソガキにベタ惚れしてる人」
「……。愛知に連絡してくれ、敵が来た。蹴散らすだけなら楽だが、周りに被害を出したくない」
日中から堂々と……。
なりふり構わないようになっているな。
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