第3話:主観的な人物像

 マジで追い出された。

 俺の歓迎会なのに、主役の俺が……。


 いや、まあ、傍観者としては好きだったが、元々仲良くやりたい相手というわけでもないし、そもそも仲間入りもクイナのお願いを断りきれなかっただけだ。


「……と、まあ、それで」


 俺はため息を吐いて、路地裏から現れた男を見る。手には拳銃とゴツイナイフが握られていた。


「……よく俺の存在に気がついたな」

「アイツらはさ、今、楽しい日常を過ごしてるんだ。……見逃してやってくれないか? 俺もお前を見逃すからさ」


 アイツの手のものなのは見ていて明らかだ。

 もう家にまで襲撃されるようになっているのは、随分となりふり構わなくなってきたようだ。


 襲撃者の男はニヤリと笑う。


「お前、最強だとかなんとか言われているらしいが……実際に戦っているところを見たやつはいない。よくいるよ、そういうハッタリが上手い「最強」はこの世界に」


 男は全身に稲妻を纏わせ、ニヤリと笑う。

 バチバチと音を立てる男は目にも止まらぬ速さで突進し、俺の首を切り裂く。


「はは、お前が「最強」なら俺は「最速」だ! 大したこともなかったな!」


 首をかき切られて血を吹き出しながら、俺はごぷりと血混ざりの息を吐く。


「都合のいい奴だ」

「……は? 首を切られたのに、生きて……?」

「本当に、都合がいい。俺を無視して、アイツらを襲いにいっていたら、少し面倒くさかった。クイナは俺を仲間と呼んでいて、他の奴は違う状況だからな、味方してやるか見逃すか迷うところだ」


 男は首を切られたのにまるでダメージを負っていない俺を見て目を見開く。


「回復……能力? だが、スピードでは俺が……!」


 男はそう言いながらナイフを構えようとし、やっと違和感に気がついたらしい。

 男にはすでに腕がなかった、ナイフを構えるための腕が。


「は? えっ、お、俺の手、な、なんで、い、えっ、俺の……」

「あー、俺の首を斬ったときだな。俺が出血しただろ。その出血で、切れた」

「……は?」


 そういう能力だ。

 無限を与える力によって発生した無尽蔵の血液が出血箇所から吹き出して、ウォーターカッターのように男の体を切り取った。


 ……あまりに理不尽な状況であると、自分でも思う。俺は何一つとして動いていないのに、それなり以上の使い手である男は一方的な大ダメージを受けた。


 男に俺を殺す術は存在しないだろう、勝ち目は初めからなく、俺が腕を振るえば倒れる他ない。


「……それ、その腕、拾って帰れよ。治癒系の異能力者ぐらいいるだろ。……無為に命を散らす必要はない」


 本音だった。

 将来、この戦いに一区切りがついたら……クイナと洋菓子店を開くという約束をしているのだ、相手が世界の支配を望む悪党の一派だったとしても、手を血で汚すことはしたくない。


 だが、結局のところそれは損得勘定ですらない気分の話だ。

 道端のアリを無視して踏み潰すか少し歩幅をずらしてやるかの違いでしかなく、理由の大半がなんか嫌だ程度の浅いものだ。


 そんな「なんとなく」に生かされている彼は俺の視線の興味のなさに恐怖したように体に雷を纏い、異能力まで使って全力で逃げ出した。


 良かったと思っていると、男が腕を置いていっていることに気がつく。


 ……最近は治安が悪くなってきている日本だけど、流石に腕が転がってるのは事件だよな。

 ゴミ箱とかに捨てるのも気が引けるし……。仕方ないか。


 俺は男の腕を持って異能力を使って走る男に追いつく、男は恐怖と絶望の表情を俺に向け……わざわざ安心させてやる義理もないので雑に腕を押し付ける。


「お、俺の速さに追いつき──」


 絶望の表情を浮かべる男に腕を渡したあと、軽く勢いを止めるために足を動かしてから立ち止まる。


 ……今のうちに殺しておいた方が、結果的な死人は減ったかもなと思いつつも「やらなくていいですよ」とクイナが言いそうだなと思って殺気を収める。


 気分を鎮めるために少し適当に歩いて、それから、さて……帰るか、と思っていたところで、主人公と俺が勝手に思っている男が物陰から顔を出す。


「愛知リュウ。……どうかしたか?」

「いや悪いなと思って。……俺たちからお願いしにきたのに」


 律儀な奴だな……いや、それとも戦力を手放したくないだけか。

 ジリジリとした日差しを感じて目を細めると、それを俺の不快感の表れと受け取ったらしい。


「あー、その、まぁ、悪い」

「いやどうでも。クイナに頼まれただけだしな」


 微妙な空気の中で、愛知は俺から目を逸らす。

 俺はそれを見て、一度ため息を吐いてから近くの喫茶店に目を向ける。


「……そこでいいか? あんまり住宅街で立ち話するもんでもないしな」

「ああ……分かった」


 彼は俺と共に古い喫茶店に入る。

 チェーン店は異能力者のせいで人が減りつつあるこの地域からは撤退していて、あるのはこういう店ばかりになってきている。


 分かりにくいメニュー表を眺めて注文するが「ちょうど品切れ」と言われた。

 結局、ブレンドコーヒー以外はほとんどないらしく、それを二杯だけ注文して届く前にお冷に口をつける。


「……愛知さ、お前、なんで戦ってるんだ?」

「急だな……」

「そりゃな、ゆっくりと交友を深めるなんて柄でもない。……クイナは、選択肢がないからだ。元々あっち側で造られた存在で、常に疑いの目を向けられている。「私は仲間だ」と胸を張るために戦っている」


 愛知は薄々それを理解していたのか、少しだけ眉を顰めてゆっくりと言葉を確かめるように頷く。


「……俺には、戦う理由はないよ。元々異能力者じゃなかったのに巻き込まれただけだし、厄神みたいな力もなかったから戦わずにいるという選択肢もなかった」


 彼は続ける。


「そんなもんだろ。就活で志望動機を聞かれてるみたいな話だ。生きるためにやってるだけで、働きたいわけじゃないし、戦いたいわけでもない」

「……一応、リーダーだろ」

「成り行きだ。ミズキが元々所属していた機関みたいな大きい組織でもないしな。何が言いたいかと言うと……面接官みたいなこと言うなよ、俺はさ、仲良くしたいと思ってるから」


 ……まあ、そりゃそうか。

 戦う理由なんて大袈裟な話をするもんでもないか。


「……じゃあ何の話をする?」

「恋バナとか?」

「男ふたりが平日の喫茶店でか……? 最悪通報されるだろ」

「世界への信頼が低すぎる」


 通報はされなくても、普通に……クイナとのことはあまりペラペラと話したいものでもない。


「……傍目から見てた感じ、ミズキと仲が良さそうだけど、実際どうなんだ」

「んえっ!? 俺が話すのか!?」

「俺はさっき話しただろ」


 愛知は少し嫌そうに、けれども言い出した手前少しは話さないといけないと考えたのか口を開く。


「……規範意識が強い、真面目な奴だよ。さっきの態度もだからって感じで……だからあんまり怒らないでやってほしいかな。……というか、師走川が帰ってきたら厄神を追い出したことで喧嘩になりそうだから夕方までに戻ってきてほしい。切に。アイツら揉めたら長いんだよ……」

「恋バナというか、お父さんの悲哀だな……。お前はどうなんだ、俺の加入」

「そりゃ「突然最強の異能力者が入ってきて全部解決しました」みたいなのに抵抗がないわけでもないけど、楽に終わるならそれに越したことはないだろ」

「いや、そうではなく仲間として認められるのかって話で」


 クイナとのこともあるが、それ以上に俺は今までそれを知っていて何もしてきていなかった奴だ。


 死闘を重ねてきた彼等にとって、傍観者気取りなんて気分のいい存在ではなかっただろう。


 彼は俺の表情を見て察したように口を開く。


「自分がしんどかったからって、別の誰かが楽してるとは思わないよ。……というか、反対してるっぽいミズキもさ、本当に反対してたらこうやって追い出したりはしないだろうから、内心認めてると思う」

「……どういう意味だ?」

「仲間にするつもりがないなら、表面上だけ歓迎して敵と戦わせたらいいだけだからな。臭い言い方になるけど「本当の仲間」になるつもりがあるから、こうしているわけだ」


 熱血漢に思えたけれど、少し違うというか。冷静……とも違うか。

 そうだなコレは……。


「愛知、お前、案外斜に構えてるんだな」

「うぇっ、変なこと言ったか? 俺」

「いや、イメージと少し違った」

「そうか? まぁ、そろそろ帰るか。適当にケーキでも買って帰れば機嫌もよくなるだろうし」


 そんなに単純だろうかと思いながら、コーヒーの会計と共にメニューにあったテイクアウト商品を注文する。

 今日はないらしい。逆に何ならあるんだよ、この店……。

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