第2話:個人的理由
揺られる電車の中、平日だからか、それとも異能力者が暴れていることで外出を控えている人が増えているせいか乗客は少ない。
「厄神さんって、どんな人ですか?」
「質問がふんわりしすぎだろ」
「学校の先生がふわふわ言葉を使おうって言ってたので」
「そういう意味じゃないと思う」
「貴方に先生の何が分かると言うんですか」
「分からないけど分からないことが……いや、さっきやったな。この流れ」
ガタンゴトンと、電車はよく揺れる。
どうやらちょっとしたアクシデントのせいで低速で運転していることが原因のようだ。
「……いちいち説明するほどのことでもないけど。『無限』の力を持っている。具体的に言うと、任意のものを無限にする……その代償に何かを無限にするたびにランダムで非常に軽い制約が課される。俺はこれで無限の血液と無限の回復力を持っていて、まぁ不死身だ」
能力者は自身の能力を隠すものだが、俺は喧伝もしていないが隠してもいない。
分かりやすく最強であることを理解してもらった方が無謀なチャレンジャーが来なくなって楽だからだ。
「一応言っておくと、アイツ、お前の仲間のミズキの能力無効化でも無効化は出来ないぞ。正確には能力自体は無効化出来るけど、無限の血液と回復力は消せない。というのもこれは能力そのものというよりかは、例えば物質操作の能力で物を浮かび上がらせたものを降らす攻撃は無効化出来ないようなもの……らしい」
一応、新たに何かを無限にすることは一時的に防げるが、それ以外は防ぎきれないのでほとんど意味がない。
だから挑んでくるなよ、と、言外に伝えようとするも彼女は不思議そうに首を傾げて俺の言葉を否定する。
「あ、いえ、能力の説明ではなく。厄神さんのことを聞きたかったんです。……てっきり、世界最強とかいうのですごい秘境にでも住んでるのかと思っていたら、千葉ですし」
「別にいいだろ……世界最強が千葉に住んでても。色々都合が良かったんだよ」
「それで、どんな人なんですか」
どんな人って……。
職業は無職、いや、休業中の傭兵ということになるのだろうか。
他に何か話せることは……と、考えて、言葉に詰まっていることに気がつく。
ガタン、と、電車が揺れて半端なところで止まる。
「……」
「……厄神さん?」
「あー、そうだな。特に、話せるようなこともないかな」
「好きな食べ物とか、将来の夢とか」
「……特に思い浮かばないな。適当に寝て、適当に食って、まぁそれで終わりって感じだ」
つまらない奴だなと自分でも思う。
電車が止まらず進んでくれても、駅に着くまでに俺の言葉は止まっていただろう。
駅に着いてからそのまま彼女の借りているアパートにまできて、生活感のある部屋の中で買ってきた製菓材料を広げる。
それを案外テキパキした様子で用意していく師走川に呆気に取られていると、彼女は俺をつつく。
「ほら、厄神さんも手伝ってくださいよ」
「ええ……お礼って話だったのに」
「働かざるもの食うべからずですよ」
「働いたからそのお礼なんだろ……」
せっつかれて仕方なく手伝うが、正直なところ上手く出来た気はしない。たぶんこの子一人の方が綺麗に早く終わったことだろう。
慣れない作業で不手際が多い……それに、苦労した割に不格好なクッキーだ。
「ふふ、ふふふ、あははは! あんなに最強最強とイキっていた人がこのザマとはね!」
「なんで助けた礼で笑われてるんだ……。はぁ、そりゃ腕っぷしがあってもクッキーは焼けないだろ」
硬いクッキー、ペットボトルの紅茶。
「あはは、まぁでもこういうのは不格好でも味は美味しいもので……こげくさっ! あはは、へったくそー!」
「なんだこのクソガキ……。何をさせられてるんだ、俺は……」
実際に食べてみると、硬いし焦げ臭いしで美味いとは思えない。ガリガリと噛んで、紅茶で流し込む。
俺のそんな様子を見て笑うクソガキはニコニコと話す。
「これで私の方が厄神さんに詳しくなりましたね。厄神さんはお菓子作りが下手っぴということです」
何が嬉しいのか……。俺はため息を吐きながら、不格好な不味いクッキーを処理していく。
目の前の少女は何故か嬉しそうにそれを食べる。
「将来の夢、何もないんだったらお菓子屋さんにしましょうよ」
「いや……将来の夢とか言うような歳でもないし、そもそもなんで菓子屋」
「夢はあった方が楽しいじゃないですか。つまんなさそうにしてたから、私が決めてあげますよ。厄神さんの将来の夢はお菓子屋さん、です」
め、めちゃくちゃなことを言う……。
「下手と笑っておきながらよく言えるな……」
「才能がない人が夢のために挑戦……燃えますね」
「そもそも夢じゃないが。甘い物も好きじゃないし」
最後の一枚、師走川は「せいやっ」と横取りして、半分に割って皿に戻す。
「他にないなら、暫定それでいきましょう。お金をとられるものでもありませんし」
「暫定ってなんだよ……」
俺の呆れた言葉を聞いて、彼女はジッと俺の顔を見る。
「だから、死んだらダメですよ?」
なんて。
唐突に、唐突に……俺の内心を見透かしたような言葉。先程までふざけた事ばかり言っていたのに。
「……なんで」
「なんとなく寂しそうだったので」
それだけで分かるようなものではないだろう。人の希死念慮なんて。
分かるのだとしたら……
「お前もか?」なんて問いは野暮もすぎて、言おうとすら思えなかった。
不味いクッキー、安い紅茶。
「勘違いなら、それでいいんです。……でも、お菓子屋さんでもなんでも……この戦いが終わるまでに、何か目指すのもいいと思います」
「……俺が動かなかったことで見殺しになった人たちがいる。……そんなの分かっていたことで、反対に動けば死ぬ奴もいて。……いや、お前に話すようなことでもないか」
紅茶を飲み干して彼女に言う。
「今日はありがとう。美味くは……なかったけど、まぁ久しぶりに人と飯を食えて楽しかった……こともないか。まぁ、うん、ありがとう」
俺はそう言って立ち去ろうとして、すると彼女は俺に言う。
「踏み潰したらいいじゃないですか。死ぬぐらいなら、気に入らない人を踏みつけて、で、夢の洋菓子屋さんを開けばいいんです」
思わぬ言葉に、帰ろうとしていた足が止まる。
止まった俺に、少女は続ける。
「馬鹿馬鹿しいじゃないですか。強いから何もしないなんて、気が向くままとまでは言いませんけど……世界を救って洋菓子屋さんを開く程度の夢を見ていいと思います」
「……洋菓子屋は開かないけどな」
俺は少し笑って、それから家を出る。
洋菓子屋……か、まぁでも、世界を救った後に洋菓子屋やってたら、周りの国々もビビらないような気がする。
……なんて、自分の考えを少し笑って。
今日は少し、日が眩しい。
◇◆◇◆◇◆◇
そんな過去を恥ずかしげもなく語る勇気は俺にはなく……ミズキから目を逸らしながら小さな声で話した。
「あ、あー……俺、将来洋菓子屋を開くのが夢でさ、それで菓子作りを習っていた……というか」
主人公は俺の言葉を聞いてバッとヒロインの前に出る。
「ほ、ほら、健全、健全じゃないか!」
「……いや、洋菓子屋を開きたいなら普通に料理教室や専門学校に行くべきでは? 普通、最近まで悪の組織にいた女子中学生を頼ります?」
「それは……そうだな」
俺の弁護士が椅子に座る。
「そもそも、お菓子好きというイメージもないですけど。まぁほとんど関わり自体ありませんが」
「まぁ、どちらかというと甘いのは苦手だけど」
ミズキは俺の言葉を聞いて反応する。
「なるほど……お菓子作りは言い訳と認めると。いい覚悟です。お墓は作ってあげます」
「墓すら用意してもらえないところだったのか……?」
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