『私で童貞捨てたくせに』主人公パーティのクソガキに脅されて、世界最強の俺がラスボス討伐に巻き込まれた件
ウサギ様
プロローグ:社会的エピローグ
俺の前にボロボロの姿で跪く若い男女。
彼等は悔しそうに俺を睨む。
「──何故だ、何故そんな力がありながら、奴の暴虐を許す! 答えろ、厄神!」
俺に吠える、まるで主人公のような男に俺は飽き飽きしながら答える。
「俺が動けば、そりゃあの程度は倒せるさ。けど、それは今度は世界が俺に気を遣うようになるだけだろう。『厄神の気に入らないことをしたら武力で潰される』と、世界が知ることになる。国々は全て俺の顔色を伺うことになる」
俺を睨む主人公に、俺は淡々と返す。
「そんなものは独裁と何も変わらないだろう。……俺は傍観者だ、世界に干渉するには強大すぎる」
「ぐっ……」
「応援ぐらいはしておいてやる。無責任な、大衆達と同じようには」
主人公の悔しそうな顔に申し訳なさを覚えながらもその場を立ち去ろうとしたそのとき、主人公パーティの後方にいた少女がボソッと口を開く。
「──私で童貞捨てたくせに」
思わず去ろうとした脚が止まる。
主人公達は「えっ?」という表情でその少女を見る。
若年層が多い主人公パーティの中でも一際小さく、言動も幼い……クソガキとも言える彼女は、俺に言い放つ。
「私で童貞捨てたくせに……!」
「えっ、えっ……?」
「ちょっ、えっ……待って、えっ!?」
主人公パーティはクソガキの言葉に困惑の表情を浮かべて、傍観者をやろうとしていた俺は全身から冷や汗が滝のように流れる。
その俺の反応を見て主人公たちの困惑と疑惑が深まっていく。
「私で童貞捨てたくせに、偉そうなんですよっ! この前はあんなに好き好き言ってきたのによく知らんぷり出来ますね!」
待て、待て待て待て、それは言わない約束ではあるまいか。
いやそんな約束はしてないけど、してないけど、社会的良俗として……! ダメだろ、言ったら!
「夢中になってヘコヘコしてた人がよくそんな説教を垂れられますねっ!」
「い、いや、その、待て、待て。ちょっと待て。落ち着けクイナ。ちょっと待て」
少女……クイナは彼等の中でも最年少で、体型も子供っぽいことや、イタズラ好きであまり女性らしさを感じさせないことからマスコットのような存在として扱われていた。
容姿は端麗だけれど「いろいろ子供だし恋愛の対象じゃないよな」と思われている少女である。
「待たない! 皆さん聞いてください! この人私で童貞捨てましたよ! 私に興奮していたのにこの態度です!」
「や、やめてくれ、やめて」
「やめない! 夢中になってちゅーしてました!! こんなクールぶってるくせに!!」
「っ……お、おま、お前も……初めてだったし夢中になってただろ!?」
「聞きましたか! 自白です、自白しました! この男、私にガチ惚れしてますからね!」
俺は今まで感じたことのない初めての痛みを覚えて頭を抱える。
まずいかもとは、まずいかもとは……思ったんだ。よりにもよってクイナはまずいと……。
でもこう……あのときのクイナは甘えてきて……世界一かわいいと思ってしまって……。一時の気の迷いで……。
「お前も……お前も、俺のこと好きだと言ってただろ!」
「だからこれからも仲良くしようと会いにきたら、知らんぷりして邂逅一番に「俺は協力しない」ですよ! 裏切ったのはそっちが先です!」
「俺のスタンスは先に話してただろ……!」
「どうせ私がピンチになったら助けに来てくれるんだから最初から仲間になってる方が話が早いでしょう! 見殺しに出来ますか? 出来ませんよね、惚れてますもんね」
だとしても……だとしても……。
目の前で言いふらさなくてもよかっただろ……!
「く、クソガキ……」
「そのクソガキにベタ惚れしてる人がなーに言ってんだかって話です」
「ベタ惚れなんてしてない……。何度も言うけど、俺は何かに関わるには強すぎて……」
そんな俺の言葉を遮るように彼女は言う。
「じゃあ勝負です。一対一で、あなたが私を倒したら勝ち、私があなたを倒したら私の勝ちです」
「いや、勝負って……」
呆気に取られる主人公パーティ達の間を、クイナはずんずんと進む。
世界最強と呼ばれて久しい俺に対して、何一つの恐れもなく走るのでもなく普通に歩いて……。
俺の目の前に辿り着く。
今まで、どんな敵であろうとくることが出来なかった俺の前に……クイナという、賢者でもなければ勇者でもない、ただの女の子がいた。
「……倒さないんですか?」
「いや、それは、その……」
クイナの長い白い髪が揺れる。
桃色の唇が動いて、綺麗な瞳がじっと俺を見つめる。
彼女はゆっくりと手を上げて、それから俺の頭に「ていっ」とチョップする。
「では、倒れてください」
「……」
痛みを与えるつもりですらない動き、ただ女の子の手が俺の頭に乗っただけ。
けれども、じっとクイナが俺を見ていて……。
「倒れてください」
「……。や、やられたー」
と、やったこともない下手な演技で、俺は地面に膝を付いた。
少女は自信満々に振り返り、腕を振り上げて仲間達に言う。
「倒しました! いえーいです!」
「お、おお……」
「わ、わー、すごい」
「こ、これは絆の勝利だね」
微妙な反応の中、彼女は俺に手を伸ばす。
「と言うわけで……敗者は従ってもらいます」
世界最強。
そう呼ばれているし、その自覚もある。
世界のどこの誰よりも強いと……。
けれども、弱点はあったらしい。
弱点というか……弱みというべきか。
俺、厄神ヨウは惚れた弱みで人生で初めて敗北した。
異能力者として最弱……どころか、普通の人と比べても弱いだろう少女、師走川クイナという女の子に。
物語に関わりのない存在。ただそこにいるだけの最強。
そうでであった俺は、唐突に呆気なく、世界の中に招き入れられた。
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