第54話 師匠との会話、彼の本音、頼りになるカチヤ
ヴィルフリートたちが固まって移動を始めると、シロイもファビーとともにカチヤのいる方へ向かった。
(さて、どうするのかな。おチビちゃん)
「師匠、まだそこにいるんだね。良かったぁ」
嬉しくて笑うシロイに、ファビー姿の師匠がぴたりと立ち止まって見上げてきた。
(やれやれ。まだまだ親離れができないようだ)
「わたし、十歳だよ? 近所のユリアちゃんが『大人になっても家にいるよ、パパとママが寂しがるからね』って言ってた。店主のお父さんも『女の子は結婚するまで家にいていいんだ』って。それって、親離れ子離れしなくていいってことだよね?」
(なんとまあ。では結婚しない場合はどうなるのだろうね。まあでも、それだけ良い親御さんなのかな)
「優しい人たちだよ」
(ふふ、そうかい。シロイにも友人がたくさんできたようだし、やはり人の多い場所に出るよう勧めたのは正解だったね)
「そうかもしれないけど、わたしは師匠と離ればなれになったのは嫌だった」
また走り出した師匠は少しの間、黙っていた。
シロイは併走しながら師匠の言葉を待った。
やがて、小さな声が頭に届いた。
(ごめんよ)
「責めたんじゃない。謝らないで、師匠」
(シロイはやっぱり成長したね。……僕はね、シロイをあの時代に残したくなかった。だから無理をしてでも転生魔法に賭けた。なのに長期睡眠魔道具が失敗だった。何度後悔したかしれないよ。四回の転生で、どれだけ研究しただろうね。途中で、覚醒させても大丈夫だと思ったのに、怖くてできなかった。また失敗するのではないかと不安になったんだ。僕はシロイに生きてほしかった。そしていつか会いたいと思っていたんだ。でも、転生を繰り返したことで心が不安定になっていった。魂がすり減っているのだと考えたよ。この僕が『神の領域に足を踏み入れたから罰を下されたのではないか』と考えたんだ。おかしいだろう?)
「師匠」
(このままでは、元の僕の心でシロイに会えないと思った)
「だから、異世界に転生したの?」
(また、シロイに、娘に会いたいと思ったからね)
シロイはぶわっと涙が溢れるのを感じた。ひくっと喉が鳴る。
師匠が、娘だと言ってくれた。それが嬉しかった。
なにより、また会いたいと思ってくれていたことが分かったのだ。
捨てられたわけじゃなかった。
師匠はずっと、シロイのために頑張ってくれていた。
だというのにシロイは拗ねて、泣いて、せっかく依代を通して来てくれた師匠に「どうして」と詰るような言い方をしてしまった。
「ご、ごめんなざい! わた、わだし、嫌われだのかなって。本当は、邪魔だったのかな……って!」
ファビーが飛びついてきた。慌てて抱き留めると、腕の中のファビー、師匠がシロイを見上げている。
(異世界に転生して良かったよ。擦り切れた魂が復活したような気がする。魔力が溜まるまでには時間がかかるけれど、こちらでも研究を続けているよ。でもおそらく、僕が元の世界に戻るよりもシロイがこちらへ来る方が確実で早い。だから、おいで。待っているよ。僕はシロイを邪魔だと思ったことはただの一度もないんだ)
「う、うんっ。絶対、行く」
(その代わり、こちらの世界の寿命は全うするんだ。父との約束だよ)
「約束する! おっ、お父さんっ!」
ぎゅうぎゅう抱き締めながら、シロイは走った。もうどこに向かっているのか分からなくなってきているけれど、ただただ必死に走り続けた。
カチヤと合流した頃には目が真っ赤になっていたようだ。彼女は驚いたものの、シロイの応援を喜んだ。
「カチヤさん、今から幻獣を召喚するんだけど内緒にしててもらえる?」
「なんか分かんないけど、まあいいさ。シロイちゃんの『とっておき』はいつだって面白い。黙っているだけで見られるなら儲けものだね」
豪快な返事に、シロイは笑った。
そして幻獣召喚の魔法陣を発動させた。
現れたのは鷲獅子、グリフォンだ。
「グリフ! わたし、シロイだよ、覚えてる?」
(覚えているぞ。チビッ子じゃないか。よく喚び出してくれた。おっと、俺様を喚ぶってことは戦闘中だな? どんな大物の敵だって俺様には敵わない。さあ、命じろ。俺様はどんな魔物と戦うんだ?)
相変わらず喧嘩っ早い幻獣だ。シロイは懐かしく感じながら、グリフに命じた。
「この付近にいるラーナを
(なんだ、ラーナか。だがまあ、肩慣らしにちょうどいい。待っていろ。すぐに終わる)
楽しげに答えると、グリフはあっという間に飛んだ。
周りを取り囲んでいたラーナはもちろん、集まり始めていた魔物も次々とグリフの爪で倒れていった。
たった一振りで何匹もが一瞬で消えていく。
更に「ギャオォォォッ」という咆哮だけで魔物の動きを止めてしまった。
咆哮には威圧の魔法が重ねられている。
まともに食らったラーナやエイプは軒並み木々から落ちた。
カチヤには向けられていないものの、グリフォンの咆哮は恐怖だったようだ。彼女も固まった。
シロイは急いでカチヤの傍に行き、手を握った。
「大丈夫、あの子は味方だから。幻獣なんだよ」
「あれが、あんな幻獣がいるんだね」
「うん。昔はいっぱいいたんだよ。でも、今のこの国には召喚した人がいないみたい」
「だから、内緒なんだね?」
「そうなの。わたしの実力で喚び出したわけじゃないし、説明できないことだから」
師匠の契約していた幻獣たちだからだ。そして彼の作った専用の魔法陣を元に喚び出した。
これを国の偉い人に求められても渡せない。古代の技術であり、師匠が長い年月を掛けて生み出した研究成果になるからだ。
そこまで説明したわけでもないのに、カチヤは「任せておきな。あたしは秘密を守れる女だよ。嘘もつけるさ」と胸を叩いた。
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