第34話 防御用の盾、魔法騎士の乱入、魔物と他の幻獣




 フランクたちと合流し、急いで魔物の討伐証明部位や素材を剥ぎ取っているとすぐ近くに雷が落ちた。

 雷撃魔法だ。


「うっわ、どこ狙ってるんだよ!」


 着弾位置が大きく外れている。シロイとファビーは顔を見合わせた。すぐにアイテムカードを取り出す。


「みんな、こっちに来て!」


 三人に声を掛け、アイテムを使用する。魔法攻撃用防御壁の魔法陣が付与してあるが、一回こっきりの使い捨てだ。それだけ強力な魔法になる。

 発動したらシロイを中心に円形の透明な盾ができた。


「うお、なんだ、これ」

「防御用の盾だよ。魔法攻撃も防いでくれるの」

「そんなすごい魔道具を使ってくれたのか」

「待ってよ、それアイテムじゃないのかい?」

「なんだって!」


 三人が驚く。シロイは次の雷がどこから来るのかを気にしながら、アイテムカードだったものを見つめた。


「これは試作品だから使い捨てなんだ。でも良かった。不良品じゃなかったね」

「お、おう、そりゃ良かった」

「シロイちゃんがアイテムを作ってるって聞いていたのに、あたし驚いちゃったよ」

「俺も。ていうか、そんな貴重なアイテムを使ってくれたのか」

「うん。だって――」


 答えを話す前に雷がまた落ちた。

 続け様に雷があちこちを攻撃する。

 透明の盾は雷に耐えた。


 フリッツは何度も「うおっ」「ぎゃっ」と声を上げていたが、カチヤは平気そうな顔で中から様子を見ている。フランクは呆れ顔だ。


「なんてもんを作れるんだ。すごいな。よし、今度からシロイちゃんの店でアイテムを買おう。攻撃系のアイテムはそれほど置いてないって聞いていたが、それでもすごいわ。この試作品も完成したら売ってくれよな」

「あ、ありがとう。えへへ」

「和んでるとこ悪いんだけどさ、向こうから誰か来るよ」

「嫌な予感がするぜ」


 騒いでいたフリッツが真面目な顔になった。

 フランクとカチヤもだ。

 でも、シロイはそこまで嫌な予感はしていない。何故なら、この雷の攻撃は魔物ではなく幻獣が原因だと思われるからだ。制御は悪いが、雷撃を放てる幻獣ならば強い。魔物がいたとしても早々に倒せるはずだ。

 ファビーも同じように思ったからシロイのやることに口を出さなかった。


(そろそろご対面ですね。魔物の気配は右です。幻獣は、おそらく雷鳥、サンダーバードでしょう。それにしても攻撃が下手くそですねぇ)


 シロイは師匠が契約していた雷鳥を思い出して懐かしくなった。その子も制御が苦手で、師匠に何度も呆れられていた。負けん気の強い子だったから何度も練習しては仲間の幻獣を巻き込み、騒ぎになるのが常だった。

 幻獣は長寿ではあるが、さすがにもう生きていないだろう。当時の幻獣で生きている子はいないはずだ。シロイはなんとなく胸を押さえた。


「来たぞ」


 フランクが身構える。

 ガサガサ音がして勢いよく駆けてきたのは魔法騎士だった。魔法使いでありながら騎士でもある。ローブは羽織ってない。動きやすそうな黒い騎士服だ。魔法騎士の制服である。

 彼等は、拓けた場所で立ち竦むシロイたちを見て「あっ」と声を上げた。立ち止まった人もいる。しかし、後ろから続々と魔法騎士がやってきていたから渋滞した。


「おい、後がつかえてるんだよ!」

「なにやってんだ」

「待ってくれ、民間人がいる」

「は?」

「ヤバい、追いつかれるぞ。サンダーバードはどこに行ったんだよ!」

「攪乱中だ。ツァカリにも追わせている」


 立ち止まった魔法騎士はもう走れないようだった。ぜぇぜぇと息遣いが荒い。一人はその場に屈んでしまった。

 困ったのはシロイたちだ。目の前で休まれてしまった。その上、彼等の会話から危険が迫っていることは明白だ。


 事情はすぐに知れた。

 ツァカリという幻獣の「キャン!」という悲鳴に似た鳴き声がしてすぐ、魔物が低木を蹴散らして走ってきたからだ。


「オーガじゃねぇか!」

「嘘だよね? なんだってこんな王都の近くに!」

「盾、俺の盾どこ行った」


 フランクたちが慌てる。ちなみにフリッツは盾を持ったまま叫んでいた。

 魔法騎士の方も焦った様子を見せたけれど、サンダーバードが飛んできたことで冷静になった。


「カルラ! 戻ってきたか。魔力は溜まったか?」

「ギャッギャッ」

「よし、雷撃を放て!」

「ギャッ」


 答えたサンダーバードがオーガに向かって攻撃する。ただ、やはり精度が悪い。魔法騎士のいる、こちら側には飛んでこないが、オーガ側に向かって放たれる雷撃は滅茶苦茶だ。

 見ていたフランクが「うへぇ」と情けない声を上げた。

 カチヤも「ありゃぁ……」とぼやく。

 聞こえていたらしい近くの魔法騎士が振り返った。苦笑しているのは、彼等も同じように感じているからだろう。

 何匹かのオーガには当たるものの決定打ではないため、起き上がってまた向かってくるからだ。


 オーガの足を止めようと走り回っていたツァカリも駆け込んできた。へっへっと疲れた様子で息を吐く。

 ツァカリは古代では胡狼と呼ばれていた。銀灰狼フェンリルの低位になる。見た目は大きめの犬だ。似たような幻獣に緑犬クーシーもいるが、こちらは牛ほどに大きい。怖い顔をしているから嫌われものだったが、性格はおとなしくて契約相手やその家族に懐く良い子だった。


「デリア、悪い。疲れたよな」

「ガウッ」


 声を掛けているのは幻獣を召喚した本人のようだ。シロイは師匠やヴィルフリート以外で初めて幻獣使いを見た。


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