第33話 他店のアイテムや魔道具を検証、森の奥のざわめき




 他店の商品について口出ししたくはないが、あまりにひどい。

 フランクは他のアイテムや魔道具も見せてくれた。どれも見てくれはしっかりしている。攻撃系は棒状になっており、手で掴んで使用する形だ。握りやすい大きさで的も狙いやすい。

 その分、重量はある。あえて重さを付けたのかもしれないが、冒険者にとっては荷物になりそうだった。保管庫の中も有限だ。保管庫を持てるとはいえ、そもそも数が少ないから高価である。フランクたちの持つ保管庫も一番小さいタイプだから幾つものアイテムを入れておく余裕はない。


「形はいいのにね」

「だよなぁ」

「さっきのは不良品にならないんだね?」

「店主はそう言ってるな。俺らにしたら、魔物に逃げられるようなヘボい攻撃だ」

「一瞬の間があったし、ぶれてたもんね。ゴブリンにも逃げられそう」

「それだよ。逃げられたんだよ。アイテム代の分、損したぜ」


 西の森にはゴブリンやコボルトがたまに出るらしい。王都から徒歩で半日は歩かなければならないところに山があり、夜中になると魔物が王都近辺の森にやってくるそうだ。塒にしているわけではなく遠征のようなものらしい。

 そのため、中級以上の冒険者は西の森を中心に依頼を受けている。


「あいつら、最近ちっと増えすぎててな。ギルドからも気を付けるようにと言われているところさ。だというのに不良品が増えてる」

「魔道具だと大掛かりになるし高いんだよね?」

「ああ。攻撃型の魔道具自体が少ないし、何度も使える武器となりゃ高価にもなる」


 基本的に魔道具は大型で使用頻度も「年」単位で作られている。その分、高い。

 アイテムは数回単位の使い捨てだから安くて小さい。フランクが持つ棒状のアイテムも男性の手で握ったら端が出るか出ないか程度の長さだ。

 とはいえ、値段を聞くと想像以上に高かった。


「やっぱ、おかしいよな。他の冒険者とも話したんだが、専門じゃないから誰も上手に説明できなくてさ」

「そうそう。職員からも魔法使いか技術者に見てもらった方がいいと勧めてくるもんでよ」

「それで、わたし?」

「あ、だからってシロイちゃんの名前は出さないぞ。同業者の問題に巻き込まれたくないもんな?」


 シロイは小さく頷いた。フランクは分かってる、という顔で笑った。


「魔法使いの方にも一応、検証は頼んでいるらしい。だからこっちは冒険者の意見として提出するつもりなんだ。で、悪いんだけど、報告書の作成も手伝ってほしくてさぁ」

「へへっ、悪いな。その代わり、西の森に生えてる薬草なんかの場所を教えるぜ」

「あ、それは嬉しい」


 名前を出さなくていいのなら否やはない。

 シロイは他の業者のアイテムをしっかり観察させてもらった。もちろんギルドから検証用にと渡されているので試す。

 不良品の割合は多く、これは確かに問題になるなとシロイも思った。



 そんな風に西の森で過ごしていたところ、奥の方からざわめきが聞こえた。

 カチヤが皆の足を止めて一人で見にいく。彼女は猟犬のように獲物を静かに追えるらしい。探索が得意で前衛職でもある。

 カチヤが戻るまでの間にフランクとフリッツは周辺の魔物を刈り始めた。

 シロイは検証作業で疲れただろうから休んでおくようにと言われている。

 その間に、ファビーがざわめきの正体について教えてくれた。


(男性ばかりの集団ですね。馬の足音も聞こえます。ふむ。おそらく、兵士のような集団でしょう)


 シロイが「そうなの?」と目で問えば、ファビーは間違いないと頷く。


(ルルを連れてくれば良かったですね。森の探索役なら適任です)

「今日は冒険者の人たちとの合同依頼だったから仕方ないよ」


 小声で返す。

 東の森に行く際はたまにルルも連れていってた。森が懐かしいだろうという気持ちと、独りぼっちで待つのは寂しいと思ったからだ。

 ただ、西の森は遠い。それにシロイの召喚獣だと勘違いされるのも困る。なにしろすでにファビーがいるのだ。師匠に預かった幻獣・・だと説明はしているが、二匹も持っていると目立ってしまう。

 一応ルルにも確認して留守番が嫌じゃないというから置いてきた。


「それに、ヴィルフリートが今週は召喚魔法の授業が多いって言ってたもん。ルルを喚び出すのなら近い方がいいよ」

(距離はさほど問題にならないと思いますがねぇ。本来の場所から転移させることを考えたら誤差ですよ)

「それはそうだけど」


 とはいえ、魔力の少ないヴィルフリートにとっては節約したいはずだ。

 彼にはいまだに「召喚されている幻獣の大半は別大陸に隔離されている」という話はしていない。

 召喚魔法自体が隔離された場所からの「許可を得た上での」転移だとも話せていなかった。


「師匠はやることがすごいよね」

(そうでしょうとも。異世界に転生するぐらいですからね。そしてシロイのために僕を造った)

「だよね。あ、ファビーは依代になると言っていたけど、師匠が『来る』時は分かるの?」


 聞きたくて聞けずにいたことを口にする。

 ファビーに負担が掛かるのではないかと不安もあった。


(あちらの魔力が溜まらないと交信できないんですよ。時期も分かりません)

「本当にファビーは大丈夫なの」

(ええ)


 シロイが安堵していると、カチヤが戻ってきた。

 はたして。


「魔法騎士団だったよ。騒がしかったのは魔物が出たからかねぇ。殺気立ってて近付けなかった」


 殺気立つほどの魔物が出たなら危険だ。カチヤも気になったらしいが、無理をして調べるほどじゃないと判断した。魔法騎士団に叱られるどころか、討伐に巻き込まれて怪我をするかもしれない。


「兄貴たちを呼び戻して帰ろうかね」

「うん」


 シロイも賛成だ。危ない橋は渡らないに限る。


 ところが、向こうから危険がやってきた。


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