第17話 ダンジョンの近く、体内検査
シロイはヴィルフリートの応援がしたかった。
「見付けるのは、ファビーがいるから大丈夫だと思う。わたしもたぶん気配は感じられる。あとはダンジョンに行けばいいだけ」
大抵のダンジョンは森の中にある。というより、ダンジョンの周りに草木が生い茂るのかもしれない。豊富な魔力が溢れて豊かになるのだ。植物が一番最初に魔力の影響を受けやすい。
シロイの提案を聞いたヴィルフリートは、顔を歪めて俯いた。
「そんなに簡単に、いいのか」
「簡単ではないよ。だって、ダンジョンまで行かなきゃだもん」
「いや、簡単なんだ」
断言するヴィルフリートに、シロイは首を傾げた。
彼は顔を上げ、困ったような顔で笑った。
「すぐ近くにダンジョンがある。許可さえもらえればいいのだから、簡単だ」
そう言って指で示す。ヴィルフリートの指は王城側を向いていた。
「王都の北にある森の中にダンジョンがあるんだ。魔法学校生なら申請すれば誰でも入れる。護衛のために冒険者を連れていってもいい。他にも世話係や従者を連れていける」
「あ」
「シロイを登録すれば簡単に行ける」
(なるほど、禁足地とはそういう意味だったのですね。ダンジョンがあるとは知りませんでした。僕もまだまだですねぇ)
ファビーの情報網は、二百年前の師匠が残した資料が主になる。その後については、隠れ家近くに住む幻獣たちに頼んだようだ。
シロイたちが王都に来た際、ファビーは「情報通りの場所で良かったです」と怖いことを言った。二百年あれば国がなくなっている可能性もあるし、幻獣の見方も人間とは別だ。
引っ越したあともファビーは積極的に情報収集をしている。優先的に集めているのは近所の噂とライバル店、その魔道具の内容についてだ。最近はヴィルフリートの素行に関しても調べていた。
むしろ短い時間でよくやっている。
なにもできないシロイからすれば「まだまだ」なんて言えない。
「じゃあ、一緒に行く、でいいんだよね?」
「ああ。頼む。シロイ、ありがとう」
「ううん。えっと、いつ行くの? 一応、お店があるから」
「もちろんシロイに合わせる。先に都合の悪い日を教えてほしい」
「分かった。あ、大市の日は出店するから無理だね」
店の営業時間についても簡単に説明する。
それから、忘れないうちに魔力を増やす方法についても教えた。
「ヴィルフリートの体を魔法で検査していい? 魔力の器と回路がどうなっているのか調べてからじゃないと使えないんだ」
アイテムカードよりも大きめの紙を取り出して告げる。コーティングはしていない。その代わり紙は分厚くしている。小さなカードサイズでは収まりきれない魔法陣が複雑に描かれていた。
売り物のカードは魔法陣が見えないように隠しているが、こちらはそのままだ。使い切りだからアイテムカードのように保護シートもない。
「構わないが、その魔法は医療に特化した魔法使いの専売特許ではないのか」
「使っちゃだめってこと?」
「いや、規則には抵触しない。彼等が外に漏らさないから分からないのではないかと思っただけだ」
「ふうん。あ、そうか、ちょっと難しいからだね。魔法陣を間違えると危険だって、師匠に厳しく言われたよ。魔法で直にやるとなるともっと大変なんだろうなぁ」
魔法陣を頭に叩き込んでいれば、その場でぱっと使えるものらしい。
魔力のゴリ押しで、イメージを頼りに魔法を使う人もいる。その代わりに魔力を使いすぎてしまう。イメージだけで魔法が使える人は少ない。
誰もが魔法陣をきちんと覚えて魔法を発動させる。
シロイは魔法の発動が苦手だ。魔法陣を覚えていても上手く使えない。そのため魔法陣をアイテム化して使う。その方が規定通りに使えて便利だった。魔法の発動はその時その時で内容も変わる。
突発的な事態が苦手なシロイにとって、アイテムの存在は助かった。
魔法陣の付与と魔法の発動は似ているのに、どうしても苦手なのは、ワンクッションあることの安心からだと思っている。それにアイテムカードという形であれば魔法をたくさんストックしておけるのだ。魔力の残量を気にしなくてもいい。
「魔法陣を覚えて付与する、というのも大変だろうに。魔法は魔法陣を完璧に覚えていなくても使えるからな。その分、余計に魔力が必要になるから俺も魔法陣を頭に叩き込んでいる」
「覚えるの、大変だよね」
「そうなんだ。っと、悪い、また横道に逸れたな。俺は魔力が増えるならなんでもやりたい」
「分かった。あ、でも、体に使用する魔法だからね。魔法陣に問題がないか、わたしの体で試してみて」
「え、いいのか?」
「うん。ちょっと待ってね。ここに、必要な分だけを書き込めばいいの。これなら見せたくない部分を公開しなくていいでしょ」
「なるほど、この空白はそういうことだったのか」
感心するヴィルフリートに完成形の魔法陣を渡す。ノートよりも少し大きめの厚紙を手に、ヴィルフリートは魔力を流した。向きは紙に書いてあるので問題ない。
シロイは魔法が流れてくるのを感じて目を瞑った。変な感じだ。シロイは只人族よりも魔力が多く、魔法を感知しやすい。師匠も敏感だった。彼は魔法の上手い下手も分かるし、色や感触としても受け止めていた。
シロイの魔法については「こわごわ使うから下手なんだねぇ。色が薄いし不安定に揺れてるよ」と教えてくれた。不安定に魔力を流すから魔法も不安定になる。
全開で放出するか、極小で流す分には問題ない。だから付与術も可能だし、アイテムも使える。
「結果は、裏に表示されるのだったな。ええと、シロイの名前、それから魔力の回路が描かれているのか。緻密なんだな」
「うん。回路は正常みたいだね。器も問題ない。じゃあ、ヴィルフリートにも掛けるよ?」
「頼む」
そうして出た結果は――。
「器が小さめだね。そこに繋がる回路が細い。だから魔力が溜まらないんだ」
見方が分からないようだったから、シロイは紙に指を差して説明した。
途中、ヴィルフリートの顔が不安そうに見えて早口になる。
「大丈夫だよ。回路を治療して、器を広げよう」
笑顔を見せると、ヴィルフリートが無理に口角を上げた。
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