雨の日のサマーセール
翠容
雨の日のサマーセール
まだ梅雨が残る雨の日曜日。
わざわざ、雨の中、街に繰り出す。 こんな日だからこそ、
見慣れた道から一本、路地を外れてみる。
道を一本外れてただけなのに、
そこは、なんだか不思議な雰囲気が漂っていた。
表通りとは違って、
ドールハウスのような可愛らしいお店が立ち並ぶ。
傘を叩く雨のリズムが心を浮き立たせ、
ウインドショッピングの楽しさが増していく。
その中のひとつに派手な『サマー・セール』の文字が見える。
私はなんだか、その一文に興味を惹かれて、 お店の中をそっと覗いた。
それからゆっくり扉を開けた。
店の棚のあちこちは、これでもか!というように、
夏を連想させるモノが並んでる。
ビーチボールに水鉄砲。
夏の空のようなブルーのグラスに貝殻のライト。
麦わら帽子に、浴衣に団扇。
お店に吹く風に、涼やかな風鈴の音‥。
と、思えば、お店ではかき氷が食べられるようになっている。
夏っぽいというのを除けば、
全くと言っていいほど統一感がない品揃い。
それでも、なんだか許してしまうのは、
夏の楽しさが伝わってくるからだろうか。
もう、これだけでここに来たかいがある。
改めて店内を見渡すと『サマーセール』のポップを見つける。
なんだか、まだちょっと気が早い気がするが、
これが目的だったことを思い出し、ワゴンの中を漁ってみる。
「ありがとうございました〜」
私はお店を後にした。
雨は上がり、夏を思わせる青空が広がる。
手には今、買ったばかりの『夏』
今年の夏はきっと例年より、楽しめそうだ。
彼女は太陽を見上げた。
一瞬日差しが強くなり視界が白くなる。 彼女が去った後。
次に路地を見た時にあったのは、ただの路地裏だった。
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※本作品は「カクヨム」「エブリスタ」にて同時掲載中です。
雨の日のサマーセール 翠容 @suzu-yo3
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