湖の島に住む頑固なおじいさん
小阪ノリタカ
湖の島の頑固なおじいさん
むかしむかし、とある山あいの湖の真ん中に、小さな島がありました。
その小さな島には「頑固なおじいさん」と呼ばれる老人が、ひとりで住んでいました。
おじいさんは毎朝、湖で魚をとり、畑で野菜をつくり、夕方には囲炉裏でひとり飯という自給自足の生活を送っていました。
そして、村の若者たちが船でおじいさんの住む島を訪ねてきては
「おじいさーん、早く村に引っ越してきなよ!冬場になったら、寒くなって危ないぞ!」
とおじいさんに警告をするのですが、おじいさんは口をとがらせてこう答えるのです。
「わしはこの島で生まれて、この島で死ぬんじゃ。湖の風と波の音、これがわしの子守唄なのじゃよ。村には絶対に行かんよ!」
だから村人たちは、あきれて帰るばかりでした。
そんなとある年のこと。
夏の終わりに、山の上で大雨が降り、おじいさんの住む島の湖に雨水がどっと流れ込んできました。
湖の水は溢れそうになり、島はたちまち水に囲まれて、船も島に近づけなくなりました。
「おじいさん、早く逃げろー!!」
対岸から村人たちが大きな声で叫びます。
けれどおじいさんは、島の大きなクスノキの下で、ゆっくり煙草をふかしながら言いました。
「ワシはどんなことがあっても島からは離れんよ。もしこの島が沈むなら、わしも島とともに一緒に沈む。」
ところが、湖の水が最も高くなったときに、不思議なことが起きました。
島の真ん中にそびえ立つクスノキが、ブルブルと身をふるわせて、根っこをギュッと張りしめたのです。
するとどうでしょう。
島全体が、まるで船のように水にプカリと浮かびあがったのです!
村人たちは目を丸くしました。
「島が……プカプカと浮かんでいる……!」
島は湖の真ん中をゆっくりと漂い、しばらくすると、元の場所にピタリと戻りました。
その間、おじいさんはまるで船頭のようにクスノキの下で煙草の煙をふかし、動じることはありませんでした。
洪水が落ち着いたあと、村人たちはもうおじいさんのことを笑いませんでした。
「やっぱり、あの島の主はおじいさんだな」
「おじいさんがいるからこそ、あの島は守られているんだ」
それからは誰も、おじいさんに対して「村に引っ越して来い!」とは言わなくなりました。
頑固なおじいさんは今日も島で魚をとり、畑を耕しながら、湖と一緒に生きているのです。
湖の島に住む頑固なおじいさん 小阪ノリタカ @noritaka1103
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます