1日目:臼杵城址

「かつてこの地を治めていた、キリシタン大名の大友宗麟は、永禄5年、四方を海に囲まれた天然の要塞であった丹生島に臼杵城を築いたのでございます」



「越智くんその信号右ね」

「あ、あれだよ臼杵城址」

「駐車場は確かあっちから」

「へ~」

「まぁめったに行かないけど」

窓から見ただけ。

行かない。


「ねえさん、下屋敷前でいい?」

「いいんじゃない?」

「そこ左な」

「大型もこっち?」

「うん」

半分研修車。



「ユイ、トイレ行こう」

「はい」

車を降り女子はトイレへ。

臼杵初めての越智さんに一之瀬さんがあっちがなんちゃら、あっちから回るとなんちゃら。

臼杵ドライバー情報を伝授していた。


「あ!かぼすソフト!」

「寒くない?」

「龍子さん、あとあれ行きたいです

 和風な雑貨屋さんあるじゃないですか」

「それ私も行きたかった」

「あとさっき見たんだけど

 いい雰囲気なお茶屋さんが」

「酒蔵もさ」

↑お屋敷とか三重塔とか見る気ない


「俺らあっち見てくるから!」


トイレに行く私たちの背中に声が追いかけてくる。

観光する気がないのをよくおわかりで。


「終わったらラインするね!」


せっかくなのに別行動。


仕事で来てもゆっくり見れないお店。

食べれないスウィーツ。

屋敷は見なくていい。

一方、ガイドが何を案内してるのか、お客様が何を見て戻ってくるのか知りたい二人。

お店の方がどうでもいい。

むしろショッピングに付き合うのは若干ダルい。


利害関係の一致している私たちは

『旅行なのに!ラブラブ歩きたい!』などという思いはなかった。


「ここ~!気になってた~」

「あ、食器可愛いかも」

スウィーツと雑貨屋巡りを楽しむ私たち。

街並みからも少々離れ臼杵の街を大満喫。


ブブー

「あ、一之瀬さんだ」

「終わったって?」


『車で待機してます

 そろそろ出ないとフグが逃げます』

『釣って来て』送信


「そろそろ行くって」

「あらホント、こんな時間じゃん」

「フグで一杯やんなきゃですね!」



ここからはドライバー交代。

臼杵の市街地からすこし北上し、港町の割烹屋さんに予約してあった。

これは龍子さんが仲良い西日本旅行の添乗員さん情報だった。

リーズナブルで美味しくて、なにより板さんがイケメン揃いだと。


「何買ったんだよ」

「えっと、お醤油と小皿と

 あと急須!南部鉄器の赤のやつあったの!」

「臼杵で南部鉄器か」

「あとなんかね

 お煎餅入れたい感じの木の入れ物!」

「お前が煎餅食ってるとこ見たことないけどな」

「お煎餅は入れないかもしれないけど

 さきいかとかじゃがりことか入れるの」

「いいね」

レトロすぎるおんぼろアパートは、和風がよく似合う。



そしてイケメン板さんの割烹は


「うーまーーーい」

「うわ、おいし!」


そりゃもうビールと合う。


「なんで…」

「夕飯じゃないんだこれ…」


私たちの温度差。


ふぐ鍋、ふぐ刺し、ふぐ唐、とり唐、ふぐ皮、とり皮、なんかゼリーなやつ、ふぐの置物、たぬきの置物


「なんかお前らばっかずるくね?」

「じゃあ明日運転してあげるね

 高速やってみたかったんだよね

 鳥栖ジャンクションとかさ」


「や…いいや」

「ユイちゃん俺…運転大好きだからさ…」


大満足な昼ごはんだった。

個室だったから板さんはチラッと遠目に見ただけ。


早起きだった上に、お酒も飲んで満腹すぎて、私と龍子さんは後部座席でお昼寝をした。


「なぁ浩介」

「ん?」

「バスツアーにすればよかったよな」

「それな」

「もしくは公共交通機関で」

「それはそれで勉強になりそう」

「来年あたり中国四国方面でそうしよう」

「でも来年となると

 お宅赤ちゃん誕生したりしてない?」

「してないと思う。

 来年でも21だぞ」

「年の差激しいな」

「そっちの方がベイビー誕生だろ」

「それはないな」

「なんで」



「なかなか吹っ切れないみたい」



「そっか」


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