知ってる? (『#90秒で恋がしたい』)

「桜の花びらを三枚、掴めると恋が叶うらしいよ」そう言って彼女は、桜の木の下で手を伸ばしていた。

校庭に風が吹いて、彼女のポニーテールがゆらゆらと揺れた。

俺も踵を上げて、宙を舞う桜の花びらに手を伸ばした。

「勝負は一回」

そう言って彼女は、手のひらを開いた。

彼女の手のひらの中には一枚だけ、桜の花びらが入っていた。


俺の手のひらの中にも、一枚だけしか花びらはなかった。 

「一枚だと、どうなるの?」

そう俺が訊くと、彼女は、「頑張れば、叶うらしい」と手のひらを閉じた。

彼女の頭の上には、一枚の桜の花びらが載っていた。

俺はそれを見て「二枚だったら、どうなの?」と訊いた。

彼女は顔を上げて「邪魔者が入るんだって」と言った。

それはまるで、俺のことを言っているようだった。

彼女には、俺ではない別の好きな人がいた。

そのことは、彼女の親友から聞いた。


それでも俺は、彼女のことが好きだった。

それを今日までずっと、言い出せずにいた。

風がまた吹いて、俺は手を伸ばした。彼女の頭の上の花びらを、そっと手のひらで包んだ。

彼女が「え、なに」と言って、頭を振った。

「実はさ、ずっと好きだった」そう俺は、頑張って口にした。

俺の耳が、赤くなるのがわかった。

彼女はそんな、俺の顔を見て、「私も好きだった」と言った。

俺は「えっ」と、彼女の目を見つめて、彼女の親友から聞いた男の人の名前を口にした。


彼女は、ほほを赤くして「それは、推しのアイドルだよ」と笑った。

俺は「勘違いしてた」と笑って、手のひらを見つめた。

そんな俺の手のひらには、二枚の花びらがあった。

「これで、三枚」彼女はそう言って、両手で俺の手のひらを包んだ。

「これは、勘違いではないね」風が吹いて、桜が舞った。

ふたりのほほを、ピンク色が掠めた。

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