未定
Dr.にゃんこ
第1話
荒廃した大地の片隅に、一つの巨大な城がそびえていた。
その名を、ロストキャッスル。
かつて四人の魔法使いが住んでいたと伝えられる城であり、邪悪な魔法使いの登場とともに滅びた廃墟。城の直下には果てしなく広がる巨大な渓谷があり、住人たちは決して近づくなと口を酸っぱくして言い伝えていた。
今では廃墟と化していたが、完全に荒れ果ててはいなかった。崩れ落ちた塔をつなぎ合わせ、残された部屋を修復し、人々はそこを住まいとしていたのだ。
奴隷狩りを逃れた者、家を焼かれた者、家族を奪われた者。居場所を失った人々が最後に辿り着く避難所、それがロストキャッスルだった。
少年リオンもまた、その一人であった。
両親は「漆黒結社(シュヴァルツ・オルデン)」と呼ばれる組織に連れ去られ、奴隷として使役されている。結社は六人の邪悪な魔法使いに仕え、各地を支配する影の軍勢だった。漆黒の鎧をまとった兵たちは容赦なく村を焼き、反抗する者を虐殺し、抵抗できぬ者たちを鎖に繋ぐ。
リオンが生き延びられたのは偶然に過ぎない。両親を奪われ、気づけば城に辿り着いていた。
唯一、彼が心を許せるのは、同じ境遇にある少年カースと少女リンだった。二人もまた、親を奴隷にされていた。三人は互いに痛みを知り、互いに支え合いながら生きてきた。
ロストキャッスルの住人は皆、何かを奪われていた。
だからこそ、互いに助け合わねば生きられなかった。食糧を分け合い、壊れた壁を補修し、夜は交代で見張りを立てる。希望と呼べるものはなかったが、それでもわずかな日常を紡ぎ出していた。
――その夜までは。
◆
轟音が響いたのは、深夜のことだった。
爆発音に飛び起きたリオンは、胸騒ぎを覚え、慌てて窓から外を覗いた。
そこにあったのは、漆黒の鎧を纏った兵の群れ。
松明の炎に照らされ、不気味に光る眼。重い足音が地響きのように城を震わせていた。
「……まさか、漆黒結社……!」
リオンの心臓が跳ねる。
廊下に飛び出し、まずカースの部屋に向かった。扉を開け放つと、怯えた表情のカースがそこにいた。
「リオン! 何が――」
「結社の兵だ! ここに来た!」
「……っ、リンは!? 早く合流しないと!」
二人は顔を見合わせ、崩れる廊下を駆け抜ける。
その先、走ってくるリンの姿があった。髪を振り乱し、必死にこちらへ手を伸ばしている。
「リオン! カース!」
安堵の声をあげた瞬間――城が悲鳴をあげた。
石の床に巨大なヒビが走り、轟音と共に建物が真っ二つに裂けていく。
「嘘だろ……!」
リオンとカースの足元が崩れ、渓谷へと引きずり込まれていく。
咄嗟にリオンはカースを突き飛ばし、リンの方へと駆けた。
「リオンッ!」
伸ばされたカースの手を掴む。だがその瞬間、カースの足場も崩れ、二人揃って宙に投げ出されそうになる。
リンが必死にカースの手を掴み、カースがリオンを掴む。三人は連鎖のように繋がり、渓谷に引きずり込まれるのを必死に堪えていた。
その時だった。
――金属音。
背後に目を向けたリンの瞳が大きく見開かれる。
そこには、漆黒の兵士が立っていた。無言で、容赦なく。
「やめ――!」
叫ぶ暇もなかった。
兵士の一撃がリンを蹴り飛ばす。細い体が宙を舞い、虚空へと吸い込まれていく。
「リン!!!」
カースが絶叫し、リオンも血の気が引いた。
掴んでいた手が離れ、均衡が崩れる。
「クソがぁぁぁッ!」
リオンの身体もまた、崩れ落ちる床と共に渓谷へと落下していった。
宙に舞う瓦礫、耳を劈く風。必死に両手を伸ばし、掴めるものを探す。
――死んでたまるか。
心臓が爆ぜるように脈打つ中、リオンは暗闇の中で必死に光を探していた。
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