少女幻想怪奇録・外伝 ー 退魔師 土宮真優 ー

秋乃楓

第0話 憎 復讐 -にくしみとふくしゅう-

夜、街中で悲鳴がこだまする。

炎に包まれる見慣れた景色、壊された車、へし折れた街灯、陥没したアスファルト。

そのどれもが争いの衝撃を物語っている。

事態の収拾へ当たっていたのは黒いスーツ姿の若い男達。

そして彼等が対峙するのは──


だった。


それも相手はまだ年端のいかない16、7歳の少女。

腰まで伸びた髪を靡かせて歩く彼女の容姿は上下紺色の学生服、胸元には赤い紐を蝶結びしている他に左右足元は膝下迄の黒い靴下と焦茶色の革靴をそれぞれ身に付けていた。

もう既に彼女の手で先方隊として駆け付けた退魔師が手に掛けられていて

そのどれもが無残な殺され方をしていた。そして少女が向かった先に居たのもまた

嘗ての同僚だった。


「和泉...お前、自分が何をしたのか解っているのか!?」



「...ええ。解っているつもりよ?」



「今すぐその刀を捨てろ!でないと──!!」


だがその言葉を放つ前に和泉という少女は駆け出しその刃を振り翳し

狂気を剥き出しにした笑みを浮かべていた。防御すべく引き抜いた刃物を

用いてそれを受け止めた。


「ぐッ─!?」



「でないとどうなるの...?本当に私を殺せる?お前自身の手で...この私を!!」


和泉が刃へ更に力を込めて競り合った末に弾き飛ばす、

無防備となった彼へ再び襲い来るは和泉本人。

刺突が放たれる瞬間、叫び声が響いた。

彼の背後に居たのはもう1人の少女...赤いスカーフが巻かれた白い制服に紺色のスカートを身に付け、茶色い髪を首元で切り揃えた人物。


「もう止めようよ!!もう...止めて...和泉ぃいいッ!!」



「真優...!?くそッ!」


悠一は咄嗟に式神を用いて辛うじて攻撃を退けた。舌打ちした和泉は

真優という少女の方へ向き直る。


「あら...来たのね?意気地なし。」



「和泉...お願いだから話を聞いてッ!!」



「...話す事なんかない。これが私の宿命、私の運命。最初から決まっていたのよ...何もかも全部。」



「ッ...!!」



「戯言は終わり。さぁ抜きなさい?抜かないなら...抜かせてあげた方が良いかしら!!」


襲い来る和泉相手に真優は間合いが詰まる瞬間に抜刀しそれを防ぐ。

こうなる事は避けたかった、気付いてあげるべきだった...彼女が抱える

想い、苦しみ、憎しみに。


「......優しさと甘えを抱えながら戦い、それでいて強い。けれどその双方が貴女の弱点。でも事実、貴女は私より優れてる...それだけが許せない!!」



「和泉!!」



「真優...貴女と一緒に居て楽しかった、毎日こうして居たいと思った。でも私と貴女は所詮相容れない存在...真優、あんたの事が大ッ嫌い!」



「なんで...どうして......ッ...どうして...どうして...どうして...和泉お義姉ちゃん!」



「違う!!私はお前の敵だ...それ以外の何者でも無い!!」


離れ、お互いが放った一撃が衝突し大きな衝撃音が響き渡る。

そして構え直すと共にそこからは互いに刃を交えて切り結んでいた。


戻らない、戻れない、優しかった日々。

いつもいつも、貴女が傍に居た。

本当はこういう形になるのは嫌だった。

こうなるのは一番避けたかった。

家柄とか、宿命とか、役割とか、退魔師とかでもなく、

ただの親戚同士、仲の良い関係でありたかった。

でも、そうはならなかった。


私は...私は生まれて初めて人を、この人を斬ろうとしている。

友人以上に深い関係となってしまったこの人を。


-本当は心の底から貴女の事が大好きだった。強くて、優しくて、真っ直ぐな貴女の事が。-


もう......後には引き返せない。

何処で道を踏み間違えてしまったのだろう?


「「──霊獣解放!!」」



「白狐!!」



「雷牙!!」


 出現したのは白い九尾、そして猿の頭に虎の様な四肢と胴に蛇の尾を持つ

2体の獣が舞い降りる。彼等もまた少女達と同様にお互いに激突を繰り返しながら

暗雲立ち込める天へ上り熾烈な戦いへと身を投じていった。


出会いがあれば別れもある...例えそれが永遠の別れになったとしても。



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