第8話
「ねえ、湊」
「ん」
「わたし、夜に配信してたの、理由があって」
「時差?」
「ちがう。――湊が見てくれるから」
僕は顔を上げた。彼女は目を逸らさない。
「高校入ってから、湊、配信に来なくなったでしょ。忙しいのかなって思って。だから、夜中の遅い時間に、どうしてもやりたくて。湊がたまにコメントしてくれたとき、すごく嬉しかった。次の日、湊、目の下にひどいクマ作ってきてさ」
「覚えてるのかよ」
「覚えてる。――わたし、湊のクマ、好きなんだ」
「どんな性癖だよ」
「努力の跡だから。湊が、何かを好きで、何かに向かってる印」
彼女は照れもしないで言う。僕は頭をかいた。髪が汗でへばりつく。
「でも、最近、湊、がんばってない」
「耳が痛い」
「だから、わたし、仕事を休んだ」
聞き間違いかと思った。彼女は同じ言葉を繰り返す。
「日中の仕事が増えて、夜に配信できなくなったのもある。ファンの前で、夜のわたしを続けていく自信が、一回消えた。でも、もうひとつ。――湊が、立ち止まってるから、戻ってきた。ここで、一緒に、歩きたい」
「勝手……だな」
「うん。勝手」
頷き方が潔くて、笑ってしまった。彼女は相手の同意を大切にするくせに、肝心なところでは自分で決める。昔からそうだ。僕がブランコで「特別になりたい」と言った夜、彼女は先に走った。今回も同じだ。
「わかった。じゃあ、僕も勝手を言う」
「なに」
「僕は、特別になりたい。今も。――いっしょに、やらせて」
彼女の目が、嬉しそうに細くなる。
「うん。最初から、そのつもり」
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