ケアン：ネブリムの罪 (Kaern: Niburim no Tsumi)

第一章：存在(そんざい)の揺らぎ... 灰燼(かいじん)からの誕生(たんじょう)

第一話：灰から逃げる足

ヴァイオラ第六地区での生活は、パンフレットや本に書かれているものとはかけ離れていた。

ここでは、誰も銀のスプーンをくわえて生まれてくるのではない。

飢えが夢を食い荒らし、眠りの中でさえ恐怖に追われながら生まれてくるのだ。

ある曇りの朝、少年の足が地面を速く打った。

彼の手に、小さく、柔らかく、震える手が強く握られていた。

「カイレン…待って！」

少年は声を詰まらせ、目に涙をためて言った。

「疲れた…もう走れないよ…」

声は震え、言葉は一つ一つ、まるで空気そのものが冷たくあたるかのように、かろうじて口から出た。

そして彼はつまずき、追いつこうともがく彼の頬を涙が一筋伝った。

弟のその手はまだ兄にしがみついていた。

もし離したら…迷子になってしまうだろうと。

しかし、兄は止まらなかった。

彼の視線は、背後に迫る影と、怒りに満ちた男の叫びに釘付けだった。

「この私生児め！ 捕まえたら、骨を一本残らずへし折ってやる！

お前ら親子と同じで、この界隈の恥さらしだ！」

ネロは怯えてささやいた。

「警察に言おうよ？」

「この界隈で？」カイレンは苦々しくつぶやいた。

「警察は死体を回収するためだけに来るんだ。」

狭い路地の入り口で、カイレンは不意に立ち止まり、弟を壁にもたれさせた。

「ここにいろ。動くんじゃない。」

それから彼は、息を切らして怒る男に向かってきっぱりと振り向いた。

わずかな群衆は、介入する気もなく、慣れたようにただ静かな傍観者として、ゴミを押し分けて進んだ。

「ああ、立って死ぬことにしたか？ 結構だ。その方が楽でいい。」

カイレンは冷たく言った。

「お前は彼に触れるな。二度と近づくんじゃない。」

「誰が俺を止められる？ お前か？ 二人の泥棒の息子め。

この一帯がお前らの正体を知っている。」

しかし、今度、少年の口から出た声は、まるで火花が散るようだった。

「二度と彼らのことを口にするな。もう一度言ってみろ。

この路地に埋めてやる。」

男は激しく突進したが、カイレンは身軽にかわし、膝を男の腹に突き立てた。

男は苦痛にもがきながら地面に倒れた。

誰も介入しなかった。

それがこの街の掟だった。

「倒れる者は、独りで倒れる。」

カイレンは鋭い声で言った。

「もしまた俺たちを追っているのを見たら、誰が本当のクズか教えてやる…

去年、お前が甥にしたのと同じようにな。」

男は脅しを吐きながら後ずさり、カイレンは弟のところに戻り、彼の前にひざまずいた。

「心配するな。俺が守る。

俺が生きている限り、誰もお前を捕まえられない。」

彼の後ろから聞き慣れた声がした。

「カイレン、待って！」

振り向くと、短く茶色い髪と鋭い目を持つ少女、アリシアが心配そうにネロを見つめていた。

彼女は言った。

「見なさい！ そうやってネロを他の人間に目立たせているのよ。」

カイレンは挑発的に叫んだ。

「だから何だ？」

彼女は怒って答えた。

「彼らはネロを殺すかもしれないわ、彼らが気が狂っているのは知っているでしょう！

子供や女なんて気にしないのよ。」

カイレンは自信を持って答えた。

「私がそばにいる限り、彼らは絶対に彼に触れない。」

ネロは微笑んで言った。

「アリシア、兄ちゃんの言う通りだよ。兄ちゃんはいつもそばにいてくれるし、僕は強いから、彼らは近づかない。」

アリシアは優しく言った。

「ええ、ネロ。あなたはとても強いわ。でも、用心しないと。」

彼女はカイレンに近づき、ささやいた。

「もし、あなたが彼から離れたら？ 捕まったら私には助けられないわ。」

カイレンは無関心に、遠くを見つめながら言った。

「アリシア、自分の心配だけしていろ。」

彼女は顔をしかめて言った。

「本当に？ 私は助けようとしているのよ。友達でしょう？」

ネロは陽気に答えた。

「うん、アリシアはカイレンの友達でもあるよ！ 僕はアリシアが大好きだ。」

カイレンはきつく言った。

「そんな言い方をするな。」

アリシアはふざけて笑った。

「どうしたの？ 嫉妬してるの？」

カイレンは皮肉な笑みを浮かべて返した。

「黙れ。」

しばらくして、三人はまばらに緑の草が生えた土の地面に座った。

空は灰色だったが、場所は静かに見えた。

アリシアが尋ねた。

「この街から出ようとは思わないの？」

カイレンは静かに言った。

「お前こそ考えたことはあるのか？」

彼女は熱心に答えた。

「ええ、毎日よ。」

「だったら、そんな夢は見るのをやめろ。」

彼女は挑戦的に言った。

「もしそうなら、私がそれを現実にしてみせる。」

カイレンは皮肉を込めて彼女を見た。

「冗談だろう。この壁が見えないのか？ あの馬鹿たちのせいで、俺たちは完全に孤立している。

向こうに何があるかすら知らないんだ。」

アリシアは目を輝かせて言った。

「素晴らしい場所だと聞いたわ。法律があって、とても清潔で、裕福な家族がいるの。

あそこの貧しい人たちでさえ…私たちのような暮らしはしていない。」

カイレンは微笑み、ふざけて言った。

「探検してみたいか？」

彼女は熱心にうなずいた。

「ええ！」

「じゃあ…本当に挑戦したいのか？」

彼女はためらいながら言った。

「でも、どうやって？ 捕まったらどうするの？」

「心配するな。誰にも見つからない。登って見て…それから戻ってくるんだ。」

「いつ壁を登るの？」

「今登るか？」

「今？ ネロはどうするの？ 彼はここにいる…一緒には登れないわ。」

カイレンは地面の小さな棒で遊んでいるネロを見て、優しく言った。

「ネロのことは俺が面倒を見る。心配するな。」

それから彼は立ち上がり、ズボンの埃を払い、アリシアに手を差し出した。

「小さな冒険の準備はいいか？」

彼女は笑いながら彼の手を握った。

「いつでもよ。」

その瞬間、彼らは壁よりも大きな夢と、廃墟の中で叫ぶ希望を抱き、

世界の淵に立つただ三人の子供だった。

たぶん…ほんのたぶん、灰の向こうには何か他のものがある。

三人はしばし黙り込み、地平線に立つ、打ち破れない刑務所の壁のような、

高くて灰色の壁を見つめた。

壁は沈黙していたが、その存在は絶えず「そこにいろ」と叫んでいるかのようだった。

アリシアは壁の表面に反射する光のまぶしさから目を覆うように手をかざし、かすかに微笑んで言った。

「ねぇ、時々、壁が私たちを監視しているように感じるの。

私たちが超えることを夢見ているのを知っているみたいに。」

カイレンは軽く笑い、小さな小石を地面に投げた。

「壁は監視していない。俺たちを恐れているのは、その向こうの人間だ。

俺たちがどれほど疲れているか知っていれば、最初からこの壁など必要なかっただろうに。」

「そうかもしれない。あるいは、私たちが彼らの清潔なシステムを乱すのを恐れているのかも…

私たちが混沌の子だと言われているようにね。」

ネロは二人に近づき、いくつかの木の葉を持って二人の間に座った。

彼は子供っぽい声で言った。

「でも、僕たちは混沌じゃないよ！ ただ違うだけ…そして僕は壁なんて怖くない。」

アリシアは笑って言った。

「もちろん怖くないわ。あなたの兄ちゃんがいるからよ。

あなたは自分のボディーガードを持っているんだから。」

ネロは小さな手で手を振った。

「カイレンは宇宙で一番強い兄ちゃんだよ。」

カイレンはだるそうに体を伸ばしながら言った。

「ああ、大げさに言うなよ、坊や…俺はただトラブル好きな兄貴なだけだ。」

アリシアは空を見上げ、突然尋ねた。

「この灰の向こうに、星はあると思う？」

「どういう意味だ？」

「空のことよ。ここでは霧と舞い上がる灰しか見えない。

でも、壁の向こうの別の世界には、青い空があるの？ 星が見えるの？」

カイレンは微笑み、穏やかな眼差しで彼女を見た。

「たぶんな。だが、誰にもわからない。

この地獄の、もっと行儀のいいバージョンがあるだけかもしれない。」

「行儀のいい地獄でも、この街よりはマシよ。」

彼は突然立ち上がり、声のトーンを冗談めかした調子に変えた。

「それじゃ、アリシア、脱出計画を立てよう。

ロープと運試しのルーレット、そしてもちろん…たくさんのサンドイッチが必要だ！」

アリシアは笑い、軽く彼の足を蹴った。

「冗談はやめなさい、アナーキスト。

私たちは警備された壁の話をしているのよ、ピクニックじゃない！」

しかし、彼女の瞳には別の何かが宿っていた…

信仰か、希望か、あるいは瓦礫の下から立ち上がり始めた夢のような小さな輝き。

カイレンは一瞬黙り込み、それから静かに言った。

「いつかお前に壁の向こう側を見せてやる…

たとえ歯でトンネルを掘ることになったとしてもな。」

アリシアは優しく皮肉を込めて言った。

「私を連れて行ってくれるの？」

「サンドイッチを持ってきてくれるならな。」

そして二人は笑い、ネロも理由を理解せずに一緒に笑った。

ただ、笑い声が美しく感じられたからだ。

その瞬間、険しい顔をした男が引く、焼けた金属や錆びた缶を積んだ木製の荷車が通り過ぎ、

続いて排気ガスを上げて今にも止まりそうな古いパトカーが続いた。

カイレンは立ち上がりながら言った。

「巡回が始まったようだ。戻らなきゃ。」

ネロはため息をついた。

「でも、まだ遊んでない。」

カイレンは彼の頭を撫でた。

「今夜遊ぼう…そしてまた壁の夢を見るかもしれない。」

アリシアは再び灰色の空を見上げ、自分にしか聞こえない声でつぶやいた。

「でも、ただ夢を見るだけじゃ嫌だ…本当に外に出たいの。」

街は再びくすんだ静寂に戻り、まるで恐怖から息をひそめているようだった。

一方、三人の子供たちは、かすかな希望と、まだ口には出されていないが、

心の間にひそかに忍び寄る決意を胸に、裏路地へと姿を消した。