魔王を倒した俺なら
何台もの馬車が、荒れ果てた街道を王都へと急いでいた。
道は荒れ果て、ひび割れた地面には雑草が生い茂り、馬の蹄が叩く音が虚しく響いていた。周囲には人の気配はなく、静寂が支配する中、ただ馬車の車輪が砂埃を舞い上げて進んでいく。
馬車の中で、勇者アレンの胸には期待と緊張が静かに入り混じっていた。
「アレン様、お昼過ぎには王都に到着します。そのままパレードが始まりますので、国民の皆がアレン様たちを心待ちにしています。どうか、それまでごゆっくりお休みください」
御者の騎士ルーンが振り向かずに、はずむ声で話しかけた。
その言葉を聞いた瞬間、アレンの胸が高鳴った。
魔王を倒したという実感が、彼の心にじわりと湧き上がってくる。これまでの長い旅路を思い返しながら、彼は自らの役割を果たすために心を整えようとした。
*
道を進むにつれて城門の外にも、歓喜の声を上げる人々の姿が見えた。彼らの顔には期待と喜びが溢れ、手を振りながら「勇者アレン!」と呼びかける声が響いてくる。子供たちは興奮し、両親の手を引いて、アレンを一目見ようと前に出てくる。大人たちも、彼の帰還を祝うために集まり、温かい笑顔を向けていた。
馬車の帆が畳まれると、アレンはゆっくりと手を振り、観衆の歓声に応えた。
もう何日も馬車に乗ってきたが疲労は完全には戻ってはいなかった。しかしこの心地よさは何事にも代えられないほどだった。後ろにいる仲間たちも、きっと同じ思いだろう。これこそが、彼らの信じた平和なのだ。
「お母さんみて!一角獣騎士のバーンだよ勇者様たちを見に来たのかな?」
この国を守る騎士たちが、パレードのあちこちに姿を見せ手を振りながら、アレンたちを見守っていた。
中央広場に降りた勇者アレンたちは、そこに建てられているテントに招かれて各自着ていた戦闘服を脱ぐと金銀刺繍や宝石で装飾された衣装を着た。
ああ、俺達の旅は終わったんだな……
その瞬間、アレンの心にはさまざまな感情が渦巻いた。長い旅路の中で経験した数々の戦い、仲間たちとの絆、そして多くの犠牲。彼はふと、これまでの道のりを振り返った。数え切れないほどの試練を乗り越え、彼は今、ここに立っている。
平和の象徴として迎えられる喜びが、同時に重圧としてのしかかる。人々の期待を背負い、彼はその重みを感じずにはいられなかった。仲間たちの笑顔が、彼に勇気を与える一方で、彼自身の心の奥には不安も潜んでいた。
空を見上げた勇者アレンに影が落ちた。あれは竜騎士か……。
南を守っている紅き竜騎士レジェッド。彼らがいなければ魔王討伐する前に王都は魔物に滅ぼされていただろう。その竜騎士たちも来てくれたのか。もし今ここに魔王が現れたとしてもこの王都はゆるぎないだろうな……。
その魔王はこの手でやっつけた。まだその感触は残っている。いや一生消える事はないのかもいれない。
「なあアレン、ここには知っているだろうけど、ナンバー1レジェッドにナンバー2のバーン。そしてお前がナンバー3になるんじゃないのか?そう噂をみんないってるよ……俺たちやったんだな」
「ああ、……やったな」
その時、広場の中央に大きな声が響いた。王が姿を現し、威厳ある表情でアレンたちを見つめていた。人々の歓声が一瞬静まり返り、緊張感が広がる。
勇者アレン、そしてその仲間たちよ。 お前たちがこの国のために命を懸け、幾多の困難を乗り越え、ついには魔王を討ち果たしたこと――その偉業は、我が王国の歴史に永遠に刻まれるであろう。 民は歓喜し、我らは誇りに思い、未来はお前たちの勇気によって守られた。 その献身と勇気に、王として、そして一人の人間として、心より感謝を捧げる。
だが――ここにいるお前たちには、もう一つ、極めて重要な話がある。
その言葉に、アレンの胸がざわめいた。 王の表情には、祝福とは異なる影が差していた。
「○○村での虐殺容疑について、お前たちを捕まえる。証拠は揃っている。お前たちが魔王を討伐したことは認めるが、その裏で何が起こったのか――真実を明らかにしなければならない。」
アレンの心に冷たい恐怖が走った。仲間たちの顔を見渡すと、彼らもまた驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。
「まさか……俺たちが……?」
アレンは言葉を失った。彼の心の中で、平和の喜びが一瞬にして崩れ去る音が聞こえた。
その時、アレンはふと視線を横に向けた。バーンが、動きを見張るように立っているのが目に入った。彼らの表情には祝福の色はなく、むしろ警戒心が漂っていた。アレンはその視線が、彼らを逃がさないためのものであることを察した。彼らはただの観客ではなく、アレンたちの行動を監視する存在なのだ。
人々の視線が一斉に彼らに向けられ、歓声は不安なざわめきに変わっていった。
アレンは心の中で葛藤した。
果たして、彼らの旅の終わりはこれで本当に終わるのか?
それとも新たな試練の始まりなのか?
「……そんなんでいいのか。いや、魔王を倒せた俺なら――」
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