895番目の欠片(ピース)
アーキス.895
欠片を集める者.
勇者の持つ剣はこの世界の物ではない。
それが今、魔王ガディルァの心臓を止めた。
死闘が始まって27時間22分47秒だった。
勇者側が4人パーティーで挑んだのは、
余裕を持った構成だったからこそ、
最初から拮抗していた戦いも、想定内だったのだろう。
だが、それが崩れたのは、勇者のミスからだと思われる。
戦闘開始から15時間20分32秒。セデラ死亡。
後衛にいた、踊り子兼、占い師兼、
治療師のセデラの死因は、
魔王からのデグサンダーの攻撃を受けた直後、
同じ攻撃がもう一つ飛んで来た為だと思われる。
※勇者が反射した角度を計算したが、
誤差が残り、正確な軌道は特定できなかった。
これ以上の介入はこれまでの観測が無駄になるため、
私、アーキスは見守る事にした。
***
「勇者よ、大変でしたね、よく頑張りましたよ。」
「ああ、精霊アーキス様のおかげです、
これで世界に平和が戻ったのですね。」
「そうですよ、
この世界に魔王がいない事を既に皆知っています。
帰るといいでしょう故郷へ」
「はい、ラキードの魔力が回復すれば、
セデラも生き返せますから
それから皆で帰りたいと思います。」
「いいえ、私が故郷まで一瞬に送りましょう。
そこで皆を――あなたも休憩しなさい……
ですから私の水晶を返してもらえますか?」
「あ、はい。この水晶……このおかげで、
どれだけ助かったか……
数年におよぶ旅でこれがなければ、
ここまでこれなかったはずです
セデラに占なってもらった時など、
外れた事がないほどでした。
――アーキス様!この水晶をいただく事は
出来ないのでしょうか?
これを覗き込むと、今までの記憶、友情、努力、希望、
約束や夢なども思い起こすのです。
僕ですらこうやって覗くと……」
「それは無理です!…………。」
「…………。」
「まだ若いあなた方には、
もっと見なければいけない未来があるのです。
……ですから。」
「わ、わかりました。お返しします。
ありがとうございました。」
「いいのですよこれで――では帰りなさい故郷へ」
***
「……アーキス様。もうよろしいですか?」
「ええ、よろしいですよ魔王ガディルァ。
ちょっとだけあなたを消してしまおうと
思いましたけどね。」
「申し訳ございません。あれは勇者だけにやるべきでした。」
「いいのですよ、セデラでよかったです。
思いの外、勇者たちも持ちましたからね。
気にしないでくださいね。」
「はい、次に私が復活するのは、いつ頃になりますか……」
「1000年後でどうでしょう?」
「それほど早く……?感謝いたします。」
「はい、ではまたあいましょう。」
***
最後、勇者が笑っていたようだ。
それが、私にとっての895番目の欠片だった。
***
「……次は、どんな笑顔と出会えるのだろうか。」
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