「模倣する影」
人一
「模倣する影」
「あ~今日も疲れた~」
バイトが終わった俺は、足早に帰宅していた。
「今日は待ってたゲームの発売日……早く帰らないと。」
人が流れる川を遡上するようにかき分けて進んでいた。
――ドンッ。
「あっ……すいません。」
「……チッ」
俺がぶつかってしまった男性は小さく舌打ちをして、人混みに消えていった。
モヤッとしたが、いまは気にしてる気分ではなかった。
街は夕暮れが去り夜が席巻していた。
信号待ちの最中、何をするでもなくボーっとしていた。
ふと、隣にある店のガラスに目をやると綺麗な鏡のように反射していた。
そこには気の抜けた顔をしている自分が映っていた。
瞬きをして見るとそこには、ボロボロの格好をした武士……落武者というんだろうか。
とにかく、あり得ない男がこちらを見ていた。
自分の姿だけじゃない。
周りにいる大人たちの姿も、銃を背負った兵士・貴族のような人・雑な着物の着方をした人……様々な人が立ちこちらを見ていた。
目の前には異常な光景が広がっているが、誰も気づいていない。
……いや気にしていないだけか?
「信じられない。」と、ばかりに目を擦りもう一度見るも、もう落武者たちはおらず驚いた顔をした自分と大人たちの姿がただ映っていた。
すると突然足下を素早く小さな影が通り過ぎていった。
去った方向に目をやると、横断歩道を無謀に渡るアライグマ?いやタヌキか?
そんな動物が人混みに消えていくのが見えた。
人混みの中で立ち止まったままの俺を周囲の人は邪魔そうに避けていく。
「タヌキに化かされた?……いや、そんなまさかな。」
俺はガラスに目をやることなく、再び歩き出した。
「模倣する影」 人一 @hitoHito93
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