5日目 遊園地

街を歩くピミイの耳に、どこからともなく音楽が流れてきた。

 

くるくると鳴るメリーゴーラウンドの鐘、歓声、叫び声。

 森にはない、人間の楽しそうな喧騒に、耳がぴくぴくと反応する。


 音をたどって歩くと、そこは遊園地だった。

 カラフルな建物、光るイルミネーション、笑顔の人々。

 ピミイは目を細めて見上げた。


 園内を歩いていると、係員の男が声をかけた。

「お? 着ぐるみのバイトか? 助かるぞ、ちょっと手伝ってくれ」

 言葉は理解できない。でも、指示の意味は体でわかる。


 ピミイはふらりと二本足で歩き、ゴミ箱を押して回り、忘れ物を運び、落ちたチケットを拾った。

 小さな子どもが、ピミイの手を引いてジェットコースターの前まで連れてきた。

 耳をぴくぴく動かしながら、ピミイは無言でにっこり頷く。

 子どもは笑いながら走り去る。


 夕方になると、観覧車が赤く染まった空に浮かぶ。

 ピミイはベンチに座り、クロワッサンを一口かじった。

 頬張る口元から、耳がゆらゆら揺れる。

 森の空気より、街の匂いより、ここは少しだけ、楽しさが濃い気がした。


 夜になると、ライトが一斉に点き、園内は魔法のように輝く。

 係員たちは帰る準備を始めるが、ピミイはまだ歩く。

 無言のまま、光の通り道を進む背中は、まるで小さな旅人のシルエットだった。

 

次の街へ、次の冒険へ。

 遊園地のざわめきが、遠く小さくなるまで、ピミイは歩き続ける。

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