EP 51
鉄の巨人と仲間たちの叡智
『ドワーフ・フロンティア開発』。
その壮大な共同事業は、ドワーフの国の全面的なバックアップのもと、驚異的な速さで始動した。大工房の一角に、プロジェクト専用の巨大な開発工房が与えられ、そこはエターナルとドワーフの国の、最高の才能が集う熱気あふれる場所となった。
「違う! そのギアの噛み合わせでは、トルクが2%もロスしてしまうわ!」
「なんと!? だが、これ以上は強度的な問題が……」
「そこは、私が開発した新合金でカバーするの! ほら、親方! 設計図を更新して!」
工房の指揮を執るのは、もちろんエリーナだ。彼女は水を得た魚のように、ドワーフの職人たちと丁々発止の議論を交わしながら、巨大な人型の機械――“魔導マイニングゴーレム”の設計を、驚くべき速さで形にしていく。
その傍らでは、ヴォルフが選抜した元・百狼のメンバーたちを、操縦士として鍛え上げていた。
「いいか! ゴーレムはてめぇらの手足だ! 指先の感覚まで研ぎ澄ませろ!」
一方、モウラは、ゴーレムに搭載される武装のテストに明け暮れていた。
「このドリルは、貫通力は良いけど、横からの衝撃に弱いわ! もっと根元の強度を上げて!」
彼女の戦士としての実戦経験が、ゴーレムの生存能力を飛躍的に高めていく。
そして、その心臓部となる動力源を作成するのは、優斗の役目だった。
「――集え、大地の力。清浄なる魔力の結晶となれ」
《物質変換》によって、ただの岩石が、不純物を一切含まない、巨大な蒼い魔力結晶へと姿を変える。そのあまりの純度の高さに、ドワーフの誰もが息を呑んだ。
数週間後。
試作一号機、コードネーム『モール(モグラ)Ⅰ』が、ついにその巨体を現した。
「すごい……本当に動くのか、こいつが……」
初の操縦士に選ばれた元・百狼の青年が、緊張した面持ちで操縦席に乗り込む。
ガントや大親方衆が見守る中、優斗が魔力結晶をセットすると、ゴーレムの全身に魔力がみなぎり、その目がカッと光を灯した。
ズシン、と大地を揺らし、鉄の巨人が立ち上がる。操縦士は、ヴォルフの指示通り、ゆっくりと腕を上げ、岩盤を掘削するテストを開始した。全てが、順調に進むはずだった。
その時、ゴーレムの動きが、突如としておかしくなった。
「うわっ!? か、体が言うことを聞かねぇ! エネルギーゲージが暴走してる!」
優斗の作り出した魔力結晶のエネルギーが、あまりにも純粋で強大すぎたのだ。エリーナの設計した制御回路が、その莫大なパワーに耐えきれず、暴走を始めた。
『モールⅠ』は、敵も味方も見境なく、その剛腕を振り回し始める。
「いかん! 暴走じゃ!」
「総員、攻撃準備!」
ドワーフたちが色めき立つ中、仲間たちは瞬時に動いた。
「そこをどいてぇぇっ!」
モウラが、暴れるゴーレムの腕に飛びつき、その怪力で動きを封じにかかる。
「エリーナ! 緊急停止コードを!」
「ダメ! 内部回路が焼き切れてる! 外からじゃ止められないわ!」
絶体絶命。その時、優斗が叫んだ。
「俺がエネルギーをどうにかする! みんな、援護を!」
優斗は、暴れるゴーレムの足元へと駆け寄ると、その動力炉に手を触れた。そして、スキルを発動させる。
(――この莫大な魔力エネルギーよ! その性質を変えろ! 攻撃的な力から、無害で、温かいだけの“熱”になれ!)
次の瞬間、ゴーレムの全身の関節から、プシューッ!と、大量の蒸気が噴き出した。暴走していた魔力は、全て無害な熱エネルギーへと変換され、大気中に放出されたのだ。
やがて、全てのエネルギーを失った『モールⅠ』は、ずしん、と音を立てて、その場に静かに膝をついた。
工房は、水を打ったように静まり返る。
失敗だった。だが、誰一人として、下を向いている者はいなかった。
「……すごいじゃないか」
大親方が、ぽつりと呟いた。
「問題点は分かった。あとは、この強大すぎるエネルギーを、完璧に制御するだけじゃ」
絶望的な暴走さえも、仲間たちの完璧な連携で乗り越えてみせた。その事実は、このプロジェクトの成功を、工房にいる誰もが確信するに、十分すぎるほどの輝きを放っていた。
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