EP 50
才能の相乗効果
ドワーフの国での日々は、驚くほど順調に過ぎていった。
『百狼堂』は、もはや職人たちの間で「仕事終わりの一杯より、百狼堂の一揉み」と言われるほどの人気ぶり。エリーナも、大工房でドワーフの親方衆と共同で、次々と新しい合金や魔道具の理論を打ち立て、若き天才として絶大な尊敬を集めていた。
その夜、一行はガント・アイアンハンドの私邸で開かれた、ささやかな祝宴に招かれていた。食卓にはもちろん、優斗の醤油やタレをふんだんに使った、ドワーフ流の豪快な肉料理が並んでいる。
「いやはや、見事という他ないですな!」
ガントは、樽のようなジョッキに満たされたエールを飲み干し、満足げに唸った。
「優斗殿の癒やしと食。エリーナ殿の革新的な技術。そして、それを支えるヴォルフ殿の統率力と、モウラ殿の武勇。個々でも素晴らしい才能が、こうして集まっておる。……ふと思ったのですがな」
ガントは、 怪奇の目で、四人を順に見回した。
「もし、貴方たちが全員の力を、一つのプロジェクトに注ぎ込んだとしたら……一体、どんなとんでもないものが生まれるのやら?」
その問いは、新たな可能性の扉を開く、魔法の鍵だった。
「わが国の基幹産業は、ご存知の通り鉱業です。しかし、落盤事故や、地底に潜むモンスターとの遭遇は後を絶たない。もっと安全に、もっと効率的に採掘を進める方法はないものか……長年の課題なのですじゃ」
ガントの言葉が終わらないうちに、エリーナの目がカッと見開かれた。
「……あるわ! “魔導マイニングゴーレム”よ! 大工房の親方たちと話していた、新開発の魔鋼合金を使えば、どんな岩盤も掘り進める頑丈な体と、落盤から坑夫を守るためのパワーを両立できるわ!」
「面白い!」
ヴォルフが、そのアイデアに即座に乗った。
「だが、そいつを動かす操縦士が必要だ。うちの連中は、元は盗賊。狭い場所での状況判断や、危険を察知する能力には長けてる。そいつらを、ゴーレムの操縦士として訓練するのはどうだ?」
「それなら!」
モウラも、興奮気味に身を乗り出す。
「坑道でモンスターに遭遇した時のために、戦闘用の武装も必要よ! 私の新しい斧みたいに、取り回しが良くて、一撃が重い武器を装備させるべきだわ!」
そして最後に、優斗が、散らばった天才的なアイデアを、一つの完璧なビジネスプランへとまとめ上げた。
「――いいね。そのゴーレムの動力源には、僕が《物質変換》で生成した、最高純度の魔力結晶を使おう。燃費もパワーも、既存のものを遥かに超えるはずだ。そして、ヴォルフの言う操縦士チームには、僕の施術も教える。彼らは、ただゴーレムを操縦するだけじゃない。現場で働くドワーフさんたちに、その場で癒やしを提供する、“出張専門のメディカル・サポートチーム”にもなるんだ」
安全、効率、そして健康管理。
その三つを兼ね備えた、完璧なパッケージ。
「……………」
ガントは、しばし呆然としていたが、やがて、その巨体を震わせて笑い出した。
「ぶわっはっはっは! 参った! 参りましたぞ! それはもはや、ただの事業ではない! 我が国の鉱業そのものを、未来へと進める大革命じゃ!」
ガントは立ち上がると、高らかに宣言した。
「アイアンハンド商会、及び、ドワーフ王家の名において、その新事業『ドワーフ・フロンティア開発』に、全面的な資金提供をお約束しよう!」
癒やしと食で人々を笑顔にし、今度は、国の基幹産業にまで革命を起こそうとしている。
優斗と、彼が繋いだ仲間たちの才能の相乗効果は、もはや一つの街に収まりきらない、大陸全土を揺るがすほどの、巨大なうねりとなり始めていた。
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