EP 47
アイアンハンドの慧眼
優斗たちは、街の中心部にそびえ立つ、巨大な鉄の門を構えたビルディングの前に立っていた。ここが、ドワーフの国でも五指に入る大商会、『アイアンハンド商会』の本部だ。
入口でガントにもらった通行証を見せると、受付のドワーフの態度が一変した。一行はVIPとして扱われ、他の商人たちが行列をなすのを横目に、最上階にある会頭室へと通された。
「おお、お待ちしておりましたぞ、優斗殿!」
豪華ながらも、壁には設計図や鉱石が飾られた、いかにも仕事人らしい部屋で、ガント・アイアンハンドが満面の笑みで一行を出迎えた。
「先日は、誠にありがとうございました。おかげで、わしも護衛も、ピンピンしておりますぞ」
「いえいえ、お元気そうで何よりです」
「さて、口約束は致しましたな。わしからの『最高の礼』をさせていただきたい。……ついては、優斗殿。わしと一つ、商売をなさいませんか?」
ガントの目が、優れた商人のそれへと変わる。
「わが社の鉱夫や鍛冶師たちは、皆、屈強じゃが、日々の過酷な労働で、体はボロボロじゃ。肩や腰の痛みを抱えておらん者はおらん。貴殿のあの不思議な『癒やしの技術』は、彼らにとって、何よりの福音となるはず。わが社の福利厚生として、その技術を導入させていただきたい!」
彼は、驚く一行に、さらに驚くべき提案を続けた。
「つきましては、この商会の向かいにある、最高の立地の空き店舗を、一年間、無償でお貸ししよう。そこで、癒し処『百狼堂』のドワーフ支店を開いていただきたい! 我が社の従業員は、必ず通わせることをお約束しますぞ!」
それは、あまりにも破格の提案だった。優斗も、商人としての血が騒ぐのを感じていた。
「素晴らしいご提案、感謝します。では、こちらからも一つ。我々は、癒やしの技術を提供する代わりに、アイアンハンド商会が扱う希少な鉱石や魔道具の素材を、優先的に取引させていただきたい。そして……」
優斗は懐から、醤油と、ドワーフ向けに少しスパイシーに調合した焼肉のタレを取り出した。
「この、我々の世界の“調味料”も、ぜひ試していただきたいのです」
話は早かった。
ガントに『百狼堂』仕込みの肩もみを施すと、彼は「わしの人生で最高の快感じゃ……」と椅子から崩れ落ちた。
そして、会頭室で焼いた最高級の肉を、優斗のタレで食べた瞬間、彼は叫んだ。
「我が鍛冶場の炎に誓って! こんな美味い肉は食ったことがない! この“たれ”とかいう液体は、肉を食うために神が創られたものに違いない!」
商談は、即決だった。
『百狼堂・ドワーフ支店』の開店準備と、アイアンハンド商会との独占調味料貿易の契約。二つの巨大なビジネスが、同時に動き出したのだ。
ガントはさらに、エリーナを国の宝である『大工房』の親方衆に紹介することも約束してくれた。
「優斗殿。わしの慧眼に狂いはない。貴殿は、このドワーフの国に、癒やしと食の二大革命をもたらすお人じゃ」
優斗は、力強くその手を取り、握手を交わした。
道中のささやかな善意が、今、大陸有数の大商会をパートナーとする、最高の形で実を結んだ。
優斗たちの、ドワーフの国での挑戦は、これ以上ないほどの追い風を受けて、今、帆を上げたのだった。
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