EP 29
出張専門『百狼堂』
『百狼堂』開業に向けて、優斗による弟子たちへの猛(?)特訓が始まってから、二週間が経過した。
意外なことに、元・盗賊たちはこの仕事に驚くほどの適性を見せた。手先の器用さは盗みの技術で、客の懐具合や体調を見抜く洞察力は裏社会で培われたものだろうか。彼らはスポンジが水を吸うように優斗の技術を吸収し、メキメキと頭角を現していった。
「うん、みんな見違えるほど上手くなったな。あとは、実践を積むための場所さえあれば……」
優斗が腕を組んで思案していると、アジトにエリーナが少し大変そうな様子で、奇妙な木の板の塊を運んできた。
「優斗ぉ! 言われた通り、折りたたみ式のベッドを作ってきてあげたけど……これで本当に合ってるの?」
エリーナがいくつかの留め具を外すと、板の塊は魔法のように展開し、あっという間に一人用の簡易ベッドへと姿を変えた。軽量でありながら、大柄な獣人が寝てもびくともしない、魔工技術の粋を集めた逸品だ。
「うん、完璧だよ、エリーナ! ありがとう!」
優斗は満足げに頷く。
「これさえ持ち歩いていれば、場所代さえ払えば街のどこでもお店が開ける。つまり、『百狼堂』の人たちはお城の前でも、市場の中でも、指圧マッサージができて、自分たちの腕一本でご飯を食べていけるんだ」
その画期的なアイデアに、モウラは目を輝かせた。
「まぁ、素晴らしいわ! これなら、お店を持つ元手がなくても、すぐに始められるのね!」
弟子たちも、自分たちの未来の商売道具を、尊敬と憧れの眼差しで見つめている。
すると、エリーナがポンと手を叩いた。
「せっかくだから、この素晴らしい事業形態を、ちゃんと登録しに商業ギルドへ行きましょうよ! 『出張専門施術院』として正式に認めさせれば、他の街でも営業できるかもしれないわ!」
天才魔工技士は、ビジネスの才覚もあるらしい。彼女の提案に、優斗も大きく頷いた。
「分かった。よし、行こう! みんなの新しい門出のために!」
優斗のその声に、ヴォルフをはじめとする元・百狼のメンバーたちは、「おぉっ!」と力強い歓声を上げた。
かつて街の裏側でコソコソと生きてきた彼らが、今、商業ギルドという経済の表舞台へと、胸を張って歩き出そうとしていた。
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