EP 21
旅立ちの決意
数日後、エリーナは約束通り、寸分の狂いもない見事な金貨200枚を鋳造し、ワンダフ長老の元へ持ってきた。これで、表向きの問題は解決したはずだった。だが、長老の家の空気は、以前にも増して重かった。
「良いな? 優斗先生の力のことは、我らだけの秘密じゃぞ? 決して他言はならん」
ワンダフが、集まった全員に釘を刺すように言う。
「分かってるよ。けどよぉ、長老」
ワイルドが、腕を組みながら苦々しく吐き捨てた。
「あのクソ豚が、金貨200枚を素直に受け取って引き下がるとは到底思えねぇぜ」
「え?」
優斗が驚いて声を上げる。
「お父さんの言う通りよ……」
モウラが、俯きながらか細い声で呟いた。
「そうじゃな。ワイルドの言う通りじゃろう」
ワンダフが、重々しく頷く。
「どうせ『こんな輝きの金貨は偽物に決まっておる』などと難癖をつけて、結局はモウラを奪う算段を立てるに決まっておるわ」
その言葉に、部屋は再び絶望的な沈黙に包まれた。権力者が「黒」と言えば、白いものですら黒になる。そんな理不尽がまかり通るのが、この世界の掟なのだ。
やがて、ワイルドが意を決したように、優斗の前に深く頭を下げた。
「優斗……頼む。モウラを連れて、この里から逃げてはくれんだろうか」
「ワイルドさん……!」
「お父さん! でも、そんなことをしたら、里が……!」
「なぁに。これ、モウラはわしのやり方に嫌気がさして家出した、とでも言うわい」
ワンダフが、しわがれた声で後押しする。
「それで奴らがガタガタ抜かしやがったら、その時こそ、わしが奴らをギタギタにしてやるまでさ」
ワイルドの瞳に、娘を守る父親の、覚悟の炎が燃え盛っていた。
全ての視線が、優斗とモウラに集まる。
「モウラ……」
「優斗……。私と……一緒に、逃げてくれる?」
モウラが、潤んだ瞳で優斗を見つめる。その問いに、答えは一つしかなかった。
「……うん。行こう、一緒に」
優斗が力強く頷いた、その時だった。
「ちょっと! ちょっと待ちなさいよ!」
それまで黙って成り行きを見ていたエリーナが、二人の間に割って入った。
「しんみり二人の世界に入らないでくれる!? 当然、私も行くわよ!」
エリーナは腰に手を当て、ふんっ、と胸を張る。
「優斗のそのめちゃくちゃなスキルは、私の研究対象なんだから!それに、この方向音痴の私を一人里に残して、あなた達だけで行くなんて無責任だと思わない!?」
そのあまりにも彼女らしい言い分に、部屋の重い空気が、ふっと軽くなった。
「……うん。そうだな。じゃあ、三人で、行こうか」
優斗は、頼もしい二人の仲間を交互に見つめ、にっこりと笑った。
それは、ワギュウの里での穏やかな日々の終わりを意味し、そして、三人の本当の冒険が始まる合図だった。
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