EP 20
金色の解決策
デブーンが去った後、ワイルドの家は重苦しい沈黙に包まれていた。ワンダフ長老が、絞り出すように呟く。
「……しかし、困ったのう。金貨200枚など、今の里の備蓄をすべて吐き出しても用意するのは厳しい。どうしたものか……」
「決まってんだろ!」
ワイルドが、壁に飾ってあった戦斧を掴み取り、怒りに肩を震わせた。
「ワシが今からあのクソ豚野郎の首を刎ねてくれる! 娘を弄ぼうなんざ、万死に値するわ!」
「お父さん、やめて!」
その殺気に満ちた背中に、モウラが悲痛な声を上げた。彼女は唇をきつく噛み締め、震える声で告げる。
「……私が行くから。私一人が我慢すれば、里のみんなに迷惑はかからないもの。だから、お父さんは早まらないで……!」
その健気な自己犠牲の言葉に、物陰から聞いていた優斗は、拳を強く握りしめた。
(そんなこと……! そんなこと、させられるかよ!)
仲間が、友人が、理不尽な暴力に晒されようとしている。黙って見ていることなど、彼にはできなかった。
「あ、あの!」
優斗は三人の前に進み出ると、はっきりと告げた。
「俺が、その金を用意します」
「……何だと?」
ワイルドが、訝しげな目で優斗を睨む。その視線を真っ直ぐに受け止め、優斗は家の外から手頃な石ころを、両腕いっぱいに抱えてきた。そして、その石を床に置くと、静かに目を閉じて集中する。
「石よ――金になれ」
その瞬間、ありふれた石ころが、まばゆい黄金色の光を放ち始めた。光が収まった後には、ずしりと重い、純金の塊がいくつも転がっていた。
「そ、そんな……元素を、変えた……? ただの石を……金に……?」
エリーナが、信じられないものを見る目で、その金塊に駆け寄る。魔工技士である彼女の目から見ても、それは魔法や錬金術の常識を遥かに超えた、まさに神の御業だった。
「優斗さん……」
モウラの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。自分を救うために、彼はこんな奇跡を起こしてくれたのだ。
「……なんという、力だ……」
ワイルドもワンダフも、ただ呆然と、目の前の黄金を見つめることしかできない。
優斗は、科学者と化したエリーナに向き直った。
「エリーナ、頼めるかな。この金を、あの役人が文句を言えないような金貨にしてほしいんだ」
ハッと我に返ったエリーナは、興奮と畏怖の入り混じった表情で、力強く頷いた。
「わ、分かったわよ! 任せて! 金貨200枚分ね? すぐに鋳造してあげる!」
絶望的な状況は、優斗が起こした金色の奇跡によって、一瞬にして覆された。それは同時に、彼の持つ力の本当の価値と、その危険性を、仲間たちに初めて見せつけた瞬間でもあった。
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