EP 14
乙女たちの施療院
ワギュウの里での生活に少し慣れてきたエリーナは、興味津々といった様子で優斗の施療院へとやってきた。中では、熊のように大きな獣人が気持ちよさそうに横になり、優斗がその肩に何かを乗せて火を点けている。
「ふぅ……」
優斗が息を吹きかけると、もぐさの香ばしい匂いと柔らかな熱が、獣人の体に浸透していく。
「はぁぁ……来るぜ先生……! その熱が、たまんねぇや……!」
「うん、これで長年悩まされた肩の痛みも、だいぶ楽になったと思いますよ」
施術を終えると、獣人は何度も優斗に頭を下げ、スッキリとした顔で帰っていった。
その一部始終を、目をまん丸くして見ていたエリーナが、優斗に駆け寄る。
「ねぇねぇ! 今の何!? 杖も魔法陣も使わずに、熱を生み出して治療してたわ! どういう原理なの!?」
「え? ああ、これはお灸といって、体のツボを温めて血行を良くする、東洋の治療法だよ」
「おきゅー!? し、知らない言語だわ! すごい! これもあなたの世界の技術なのね!」
魔工技士としての探求心が、エリーナの瞳をキラキラと輝かせる。
「エリーナもやってみる? なんだか疲れた顔をしてるけど」
「え!? 良いの!? 実はここ数日、新しい発明のことで頭がいっぱいで、全然寝てなくて……肩もガチガチなの……」
「駄目だなぁ、ちゃんと休まないと良いアイデアも浮かばないよ。それじゃあ、眼精疲労も溜まってるだろうし」
優斗は優しく言うと、エリーナをベッドにうつ伏せにさせた。そして、その凝り固まった肩や首筋に、そっと指を滑らせる。
「ひゃっ!?」
「ここ、すごく凝ってる。まずはマッサージでほぐしていこうか」
優斗の指が的確にツボを捉え、心地よい圧力をかけていく。
「はああぁぁ……♡ な、にこれぇ……気持ち、いいぃ……♡」
エリーナの口から、とろけるように甘い声が漏れる。頭の芯まで響くような快感に、彼女の思考はあっという間に真っ白に染められていった。
優斗が施術に集中し、エリーナがうっとりとしていた、その時だった。
「優斗〜? 今日のおやつの相談なんだけど、どうする〜?」
ひょっこりと、モウラが施療院に入ってきた。そして、目の前の光景を見て、その笑顔がぴしりと固まる。
「……優斗。な、何をしてるのよ……!?」
「え? 見てわからない? 施術だよ」
「せ、施術って……! そ、そんな……! 私だって、毎日の鍛錬で体中が疲れてるのよ! 私もマッサージして頂戴!」
モウラはそう叫ぶと、エリーナを押し退けるようにしてベッドに割り込もうとする。
「だ、駄目よ! 今は私が先なんだから! 順番を守りなさい!」
エリーナも負けじと、ベッドの上からモウラを押し返した。
「私の方が先に優斗と出会ったんだから、私が優先されるべきよ!」
「出会った順番なんて関係ないわ! 私の方が、体のコリは深刻なの!」
優斗を真ん中に、一歩も譲らない二人の少女。
それは、ワギュウの里で最も腕の良い施療院が、初めて恋の戦場と化した瞬間だった。
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