EP 8

ワギュウの里の先生

長老の歓喜の声が響き渡る中、優斗の頭の中にだけ、あの無機質な声が再び響き渡った。

《システム:指圧による治療行為を確認。善行ポイント、500Pを加算します》

視界の隅に浮かぶ表示が『現在ポイント:600P』に変わる。

(500ポイントか……! 鹿を助けた時の5倍だ。結構貯まったな)

専門的な知識と技術を活かした人助けは、より高く評価されるらしい。これは、この世界で生きていくための大きな希望の光だった。

「優斗さん、すごいわ! あんなに元気になった長老様、私、初めて見た!」

モウラが興奮した様子で、目をキラキラさせながら優斗に駆け寄ってきた。

「そう? 良かったよ」

優斗は少し照れくさそうに答えた。人の役に立ち、感謝される。それは、引きこもっていた頃には決して得られなかった、温かい充実感だった。

すっかり元気になったワンダフが、満面の笑みで優斗の肩を叩く。その力強さは、先ほどまでの老人とは思えないほどだ。

「いやぁ、優斗先生のおかげで、この通り! 腰の痛みもすっかり消えましたわい!」

いつの間にか、呼び方が「優斗殿」から「優斗先生」に変わっている。

「いえいえ、まだまだ治療したばかりですので、無理は禁物ですよ。定期的にマッサージをしますから」

「おお! それは助かります! 優斗先生は、まさにこのワギュウの里の希望ですな!」

長老ワンダフの、その太鼓判とも言える一言が決定打だった。

彼の奇跡的な回復劇を遠巻きに見ていた他の獣人たちが、我先にと優斗のもとへ殺到してきたのだ。

「先生! わしは長年の狩りで、この膝が痛くてのう!」

「先生! 俺は斧の振りすぎか、右腕の調子がどうにも……!」

「私は肩が上がらないんだよ!」

屈強な獣人たちが、まるで迷子の子どものように、次々と自身の体の不調を訴えてくる。彼らは日々の過酷な労働や戦闘で、常に怪我や体の痛みと隣り合わせだったのだ。

その必死な形相に、優斗はかつて自分が治療院で患者と向き合っていた頃の気持ちを思い出していた。

「……分かりました。順番に見ていきましょう」

優斗は穏やかに微笑んで頷いた。

それは、彼がこの異世界アナステシアで、自分の居場所と、進むべき道を見つけた瞬間だったのかもしれない。松田優斗の「ワギュウ施療院」が、予期せず開業した一日だった。

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