第3章その4

胆沢の砦から面をつけた蝦夷の一団が出発した

中央には馬に乗り銀狐の面をつけたマナ、左右は 木の狐面のばば様とうさぎの木面のタオ

その後ろにうさぎの木面のサクと猪の木面のコウキそして狼の木面で金色の髪をした、阿弖流為とマナの子のマテルが日輪の幟を付け馬で並んだ

その後ろには多くの若い蝦夷達、その次に都に行かなかった者や対戦で負傷した男達が木面で続いた

マナ達の左右の両端は女達の槍組、弓組、太刀組、荷車隊がそれぞれの部隊の木面をつけて並んだ

翁ばば1人が真紅の猩々面で館を守る為にお付きの年寄り達と残って館の守りを固めた

攻め込まれたら最後には火を放ち、館と共に死ぬ覚悟をしていた

翁ばばは沙華族からこの館に嫁入りして以来、かか様として阿弖流為の父を産み育て、狐母禮(こもれい)を銀山族から嫁に迎えた

阿弖流為が産まれた時には大喜びをした

蝦夷の命が繋がった事を日高見の神に感謝して、すぐにかか様の座を譲り、自らは『ばば』を名乗り 沙華族の孤児となったミヤを育て、館で自分の持つ沙華族の全ての教えを叩き込み、紅花で色付けした

猩々の面を与え、沙華族の長にまで育てた

誰よりも砦や館に長く住み、愛着を持っていたのだ


出発の前夜かか様であるマナは集めた全員の前で

「殺し合ってはいけない、日高見を、蝦夷を、守る為の戦いである、足を狙え、深追いはするな、

己の命は必ず守れ、生きるんだ、

それが、阿弖流為が必死で守ってきたKATANAの為の 蝦夷の戦い方だ!皆 阿弖流為達の留守を守っているんだ、それを忘れるな」

そう言った


蓮台の国守と田村麻呂、国守軍の大将は先頭をユックリ進み、リヨウはそれ以外の者を少し離れさせて

戦いでない事を蝦夷側に分かってもらおうとした


両軍とも土煙から相手の位置が分かる距離になった時、田村麻呂は後方の軍を停めて控えさせた

蝦夷も3人だけ進んで後ろの隊は停まった

隊の殆どが離れてしまった事に国守ほ怯えきって震えていた

更に両軍の3人が歩を進め、国守にも蝦夷の姿が見えた、

馬に乗り面をつけた…

「ん?なに?おんなか… おんなではないか!

おのれ!国守を愚弄するのか、なんと無礼な!」

国守は今まで蓮台の端を掴んで震えていたが、髪をなびかせる姿を見て女と分かった途端 安心と同時に勝てそうな気がしてきて、態度が変わった

田村麻呂は馬から降り

「違う、頭は男達を連れて都に行ったのだ、妻が頭を継いでいるのだろう、愚弄している訳では無い」

そう説明したが、国守は怒りに任せ

「女の継いだ蝦夷の隊など全滅させてやるわ」

と震えながら大将に向かって

「戦いじゃー全滅させいー!」

と言い放ち、扇を持った手を大きく振りながら

かかれー!と合図した

国守の命令を聞き大将は後ろの国守軍に

「かかれー!戦いじゃー!」

と声を掛けた

リヨウは驚き、蝦夷達に

「駄目だ!戦ってはならん!蝦夷、皆を止めろ!

国守軍、止まれ!動くな!軍師安倍リヨウの言葉が聞けぬか!」

そう言ったが国守軍は止まらない

ショウは慌てて、馬達に進まぬ様唄うと騎馬隊はピタっと止まったが、国守の徒士隊は槍や弓を構えながら走り出し、国守の蓮台と田村麻呂を追い越した

「マズイ!クロ、クロ、行け!そのままかか様の所まで突き進め、振り向くな、必ず手紙を渡すんだ」

リヨウはそう言ってクロの馬の尻を叩き、蝦夷の徒士にはその場で国守軍を留まらせろと命じた

そしてミヤとショウと共にそれぞれの面をつけ、

クロを守るために国守軍の徒士隊を追って、国守を説得する田村麻呂を追い抜いて行った

コオは何が起こったか分からなかったが、田村麻呂の陣から3人に続いたがリヨウに来るなと言われた

コオは田村麻呂の居る所で馬を止めた

「蝦夷が離反したぞ、あの4人を撃て、帰すな!」

面をつけた3人が走り抜けるのを見て国守が叫んだ

国守軍は4人を弓で射ようと構えた、

コオも行きたかったが、リヨウに『田村麻呂から離れるな』と言われていたので我慢していた

でもこのままではみんな撃たれると思い、泣きながら指笛を吹いた

山から沢山の猪がコオと4人の間に割って入った

それでも徒士は矢を放った

何頭かの猪が矢に撃たれ倒れた、こうなると分かっていた、でもコオは今の自分には4人の為に、これしか出来ないと思ったのだ

コオは倒れた猪を見て泣いていた

しかしクロは約束通り後ろを振り返らず、走りながら自分の面をつけ、巾着に入った阿弖流為とフカの面を握りしめて、かか様の居る蝦夷の陣近くまで必死に馬を走らせ続けた

                  つづく










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