第1章その9

その頃 田村麻呂は都で、調べた昔の事や蝦夷の言い伝えを帝近くの者に告げていた

帝もご存知だったが、貴族達は『それは大和にとって不都合、伏せるべき』と言う考えを崩さなかった

それどころか事実を曲げ、その蛮族を無かったことにしようと画策し、大和全土から兵をあつめようとした

田村麻呂はまたしても征東副将軍に任ぜられてしまった

「何とかしてあの部族長達の優れた知識見識を帝にご覧頂きたい、必ず和睦させます、命をお助け頂きたい、必ず大和の為になる者達です」

田村麻呂は御前会議で必至に訴えた

貴族の何人かは田村麻呂の訴えに対し、

「捕らまえて検分してからお沙汰を頂いてもよろしいのでは?」

とかたむきだした

しかし息子の仇討ちと考える弟麻呂は再度征東大将軍になることを熱望し、一族の領地から殆んどの男達を兵として集め、他の貴族達からも兵を出す様に迫っていた


山桜が満開になった日コオがお使いの猪から、大和の兵が東に進み出したと聞いて、阿弖流為に伝えた

ばば様になったかか様は阿弖流為に全ての部族長を集めさせ

「これから話す事は我が遺言として受け取れ」

と言った、皆居住まいを正した

「みな大和に村を襲われた時、親から同じ言葉を言われた筈じゃ『生きろ!』と それはお供の神の血筋が濃いか、その精神が部族一強いという事じゃ、

だから例え村が全滅してもこの子だけは生かさなければと、この地を目指させたか、トト様に託したのだ、 クロ、お前は蝦夷では無いがお前の一族も、その為にお前を生かしたのだとわしは思う」

阿弖流為が続けた

「これから大和と相当長く大変な戦いが始まると思う、しかし『生きろ!』と言われた者達は死んではいけない、一族の願いだ!」

「わしのばばとしての初仕事は、冬の間に5年分の兵糧を蓄えることじゃった、そして離れには今まで大和から取り上げた武器を磨き上げてある、

ミヤには怪我に効く薬を翁ばば様と共に揃えさせた、皆が心置きなく戦いに臨めるよう出来るだけの事はしたつもりじゃ、マナ、いやかか様!後はお前と女達の仕事じゃ頼むぞ」

マナはばば様の算段と仕事ぶりに驚きながらも、

「はい、承りました、ここまで有難うございます」

と答えた、阿弖流為も

「かか、有難う」

と頭を下げて言った

ここから約5年に渡る、阿弖流為たち蝦夷と、

田村麻呂達大和軍の熾烈かつ壮絶な、全面的戦いが幕を開ける事になる

最初の年征東大将軍に選ばれたのは紀古佐美(きのこさみ)だった

戦い方はいつもおなじで、博士と呼ばれるリヨウは直ぐ阿弖流為に戦法を進言した

同じ時間に動き出す大和兵を砦から波状攻撃で攻め休む間を与えず疲れさせ大打撃を与えた

兵達はいつ狙われるかと恐れ、蝦夷の大軍を見ると戦わずに逃げ帰ってしまった

紀古佐美は何ヶ月経っても前進出来ず、都に戻され失脚した

次の年に来たのは10万の兵を連れた大伴弟麻呂だ、

副将軍には坂上田村麻呂が来た

兵の数といい、田村麻呂の巧みな戦法といい、蝦夷達も苦戦を強いられ、長いいくさで仲間も随分命を落とした

3年が過ぎ 阿弖流為は戦法を変えた

今までは日高見に攻め入って来た兵を相手にする様心掛けたがこの戦いで初めて、KATANAの為に日高見の外に打って出ると決めた、

それも田村麻呂の軍とは極力戦わず、弟麻呂の軍を狙い撃ちにした

彼らは弟麻呂の仇討ちに借り出された兵で、戦闘能力も戦意も低いのが分かった

阿弖流為は一斉に戦いを仕掛ける為全部族を砦に集め、手を上げてショウに合図をして、声と共に全軍弟麻呂の軍に総攻撃を掛け、弟麻呂の兵達を驚かせた

蝦夷の兵達は神のKATANAの眠るこの地を守るという気概が有ったが、弟麻呂の兵にはそういったものもなく、何とか生きて帰りたいと思うばかりで先陣を切る隊もなかった

数カ月睨み合いが続いた時、阿弖流為はリヨウの助言を聞き、思い切って大和の陣近くまで攻めてみた

KATANAの為に自ら大和を攻撃する戦法を取った

しかし日高見の外では兵は殺さず足を狙わせた

殺せば蝦夷が大和に攻めて来たと取られる

命を取らず動けなくしたのだ

大和の負傷兵は殺されない恐ろしさを感じた

戦えず逃げられず、面を付けた蝦夷がたくさん走り回り、いつ殺されるかと怯えながら戦場に置き去りにされた

味方は助けに来なかったのだ

それを目の当たりにした大伴の雇兵は恐ろしさから次々逃げ出しした

阿弖流為はリヨウの読みからそれも見越していた

策は見事に当たった

弟麻呂の軍は歯の抜けた様になり、打つ手が無くなり、残りは田村麻呂の兵が大半になった

弟麻呂は仇討ちどころか、失脚をおそれ、言い訳をする為都に帰るしか無くなった

     第1章   終   第2章に続く






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る