第1章 その3

「誰か来る!」

砦の見張りが声をあげた

ショウが戻った翌日 黒く煤けた格好で、2人の娘が砦に向かって歩いてきた

焼かれた桜族の村から青龍族の村に逃げ、

そこも追われ 隠れながら山中を歩き、砦を目指した桜族の生き残りマナとタオの姉妹だった

かか様は2人を館に連れて行き、体を洗い抱きしめてやった

「よく生きていてくれた、偉かったな、ミヤ火傷を診てやってくれ」

そう言って髪を結び直すと、サクが知り合いと気付き、村の様子を尋ねた

「大和は全ての家を焼き、御神木を切り倒そうとした、村人総出で阻止したが、私は妹を連れて蝦夷のかか様の所に行くようにトトとカカに言われて走ってきた…あとはわからない…多分トトもカカも殺された…」

サクは自分が砦に来た時の事を思い出し

「サクは絶対に大和を許さない! 皆殺しにして

仇を取ってやるからな」

泣きながらマナとタオに言った

しかし阿弖流為は

「それでは繰り返しになるだけだ、先に逝った者達の為にも大和と戦わず、平和になる方法を考えるのが生き残った者達の務めだ、サクのトトやカカは

お前が死ぬ事を望んでいない、サクが死んだら

幼い弟や妹はどうなる、桜族はどうなる?」

と サクを諭した

何年か前 桜族の村が大和に襲われた時、

サクのトトとカカは、妹を背中に背負わせ、2人の弟の手をサクの手に括りつけ

「走って阿弖流為の所に行け!生きろ!」

そう言っていくさに出て死んだ

またしても大和に、今度は村を焼き払われたのだ、マナとタオの両親も殺されたに違いない

サクはあの時の悔しさと恨みが甦り 蓮沼まで走り、1人で泣いていた

そんなサクの所にクロが来た

クロは初めて口をきいた

「わしは大和に奴婢(ぬひ)に落とされた 物部(もののべ)の末裔だ、翁伯父のじじは蘇我に罪の全てを被せられ殺され、一族は奴婢にされた

その後わしの祖父と父は一族で都を抜け出し、舟で小さな島に渡り密かに神事を続けていたが、そこも大和の手が延び危なくなった

父はここ日高見を目指し舟を出したが嵐にあい舟は沈んだ…みんな沈んだ…

その時父はわしを樽に括り『口を聞くな、時が来たら大和を正せ、生きるんだ』と言った、そしてわしはとと様に助けられてここで育った、だからサクの気持ちは痛い程分かる、大和は許せない、一緒に時が来るのを待とう!」

それだけ言うと又口をきかぬ男に戻った


サクとクロに秘密の友情が芽生えた

口をきくことはなかったが、分かり合えた

若い2人は恨みの矛先が一緒だった為、

組み合いの稽古や騎射の稽古も一緒に励み

メキメキと腕をあげていった

同じ目標を持って努力を惜しまなかった


それが波乱のさざ波だとも知らずに…

                  つづく


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