第3章 システムダウン

「システムがダウンしたぞ!」

「何だ!?」

「顧客情報をすぐに調べろ!」

影山は、すぐに立ち上がった。

そして、大げさに口を開け、周囲の社員たちに、聞こえるように叫んだ。

「えっ!? システムダウン!? 一体、何があったんですか!?」

近くにいた社員が、血相を変えて答えた。

「ECサイトが…、ダウンしたらしい!」

「顧客情報の漏洩の可能性があるって…」

影山は、さらに驚いた表情を作り、頭を抱えた。

「そ、そんな…、まさか…、そんなことが…」

その表情は、驚愕と、困惑に満ちていた。…ように見えた。

しかし、彼の心臓は、歓喜に打ち震えていた。

(…やった…! …成功だ…!プログラムは、予定通りに実行された…! …これで、あいつは二度と…)

影山は、周囲の状況を確認しながら、必死に平静を装った。

(…落ち着け…、まだ、喜ぶのは早い…)

彼は、他の社員たちと一緒に、騒ぎの中心へと向かった。

騒然とするオフィスの中、影山は、周囲の社員たちに紛れ、情報収集を始めた。

「何があったんですか?」「一体、どうなっているんですか?」

矢継ぎ早に質問を浴びせる影山に、社員たちは、口々に答えた。

「外部からの不正アクセスがあったらしい…」「顧客情報が漏洩したかもしれない…」「数百万件の顧客情報が危険に晒されているって、今、大騒ぎになっている!」

影山は、内心、ほくそ笑んだ。

(…計画通り…)

しかし、すぐに表情を引き締め、心配そうな顔で、

「それは、まずい…。…何か、私にできることは?」

と、協力を申し出た。

その時、

「全員、落ち着け!!」

上司の黒川が、怒鳴り声を上げた。

社員たちは、一瞬、静まり返った。

黒川は、険しい表情で、社員たちを見渡した。

「システムがダウンした原因は、今、調査中だ。…しかし、顧客情報が漏洩した可能性が高い。…先ほどシステム管理部から報告があった。顧客データベースへの不正アクセスが確認され、数百万件に及ぶ顧客情報が漏洩した可能性が極めて高い!これは、一大事だ!」

黒川は、そこで言葉を切り、鋭い視線を、影山に向けた。

「影山、お前は、セキュリティ担当だろう。…何か、意見はあるか?」

影山は、一瞬、動揺したが、すぐに平静を装い、答えた。

「…現時点では、何とも言えません。…しかし、これだけの規模の顧客情報漏洩の可能性もあるとなると、外部からの組織的な犯行も考えられます。…ログを詳しく調べれば、何かわかるかもしれません」

影山は、わざと、「外部からの攻撃」という言葉を強調した。

黒川は、不満そうに、鼻を鳴らした。

「…とにかく、原因を究明し、早急に復旧させろ!!そして、直ちに警察に連絡する!…これは、最優先事項だ!いいか、最優先だ!」

黒川は、そう言い放つと、足早に、会議室へと向かった。

影山は、黒川の後ろ姿を、見送りながら、心の中で呟いた。

(…せいぜい、慌てるがいい)

黒川が去った後も、オフィス内の混乱は収まらなかった。

社員たちは、それぞれPCに向かい、情報収集や復旧作業を試みているが、皆、顔色は悪い。

システム管理部の五十嵐を中心として、数名の社員が、サーバー室に籠り、必死にログの解析を行っていた。

しかし、10時を過ぎても、システムダウンの原因は特定できず、復旧の目処は全く立っていなかった。

影山は、自分のデスクに戻り、PCを操作するふりをしながら、周囲の様子を観察していた。

午前10時半を過ぎた頃、重苦しい空気が漂うオフィスに、黒川の怒鳴り声が響いた。

「一体、何をやっているんだ!まだ、原因すら特定できないのか!」

社員の一人が、憔悴した表情で、黒川に報告する。

「申し訳ありません、部長。ログの解析を進めていますが、今回のシステムダウンは、やはり通常のシステム障害とは異なり、外部からの意図的な攻撃である可能性が高いことが判明しました。」

「外部からの意図的な攻撃だと!?」

黒川の声が、さらに大きくなった。

「顧客情報の漏洩は防げたのか!?」

「…現時点では、まだ、断定できません。しかし、サーバーへの不正アクセスが確認されており、最悪の事態も覚悟しなければならないかもしれません。」

その報告を受け、黒川は、すぐに社長に連絡を取り、事態を報告した。

影山は、周囲の様子を窺いながら、自分のデスクに戻った。

彼は、PCを操作し、システムの状態を確認した。

素早く社内ネットワークの状況を確認する。

…と、あるサーバーへのアクセスが集中していることを示すグラフが、目に飛び込んできた。

(…大丈夫だ…、全て、計画通り…)

そう自分に言い聞かせながらも、彼の心臓は、まだ、激しく鼓動していた。

「皆さん、少しよろしいですか?」

影山は、周囲の社員たちに、声をかけた。

社員たちは、一斉に、影山の方を見た。

その表情は、疲労と、不安に満ちている。

「このまま、個別に作業しても、埒が明かないと思います。システムの復旧作業にあたっている方はそのままで、…残りの者で、情報を共有しませんか? …何か、小さなことでも、思い当たることがあれば、教えてほしいんです」

影山は、そう言いながら、会議室の方を指差した。

彼の提案に、社員たちは、頷き合った。

「そうだな…」「情報共有は必要だ…」「何か、手がかりが見つかるかもしれない…」

影山は、社員たちを会議室に誘導した。

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