第4話 第1日目:雪
この計画を始めて、もう36年になる。私はその終わりを見届け、今ただ、廃人のように死を待っている。もし「人生に満足でしたか」と問われたなら、私はどう答えるべきだろうか。その答えを求めて、私は今までの人生を記述せずにはいられない。
この手記は彼へ向けて書いているが、おそらく、これは私自身のために書かれているのだろう。
自分の寿命を知ってしまった人間の不幸を語るに相応しい者は、私しかいないだろう。私はあと1週間で、死ぬ。というよりも、私の寿命はとっくに過ぎている。しかし私は、延命することを拒絶している。
私の遺伝子に組み込まれたクロック遺伝子が、私の死を告げている。私の老いた細胞たちが音を上げたのではない。私に組み込まれた死のプログラムが、そうさせているのだ。
そのプログラムは、ヒトゲノム計画の副産物として、私に告げた。私の死は、79歳という数字で、はっきりと組み込まれていた。
延命したところで、この歳を過ぎれば、私の遺伝子はあらゆる手段を使って私を殺そうとする。癌、卒中、心筋梗塞、あらゆる合併症と、不気味な病気たちが、私を苦しめるはずだ。私の遺伝子が私を殺そうとする最後のプログラム、アポトーシス。
それはすでに私の中に書き込まれている。私は延命しても仕方がないことを知っている。
これまで、あらゆる医療現場で人の延命の末の悲惨な死を見てきた。医学は人を苦しめるために存在しているのではないか、とさえ思う。だから私は私の治療チームに帰ってもらった。やるべきことは終わった。7日後に来てくれと告げた。
静かだ。
孤独が人間には恐怖だと思っていたが、なんという恍惚に満ちた瞬間なのだろう。
窓の外には雪が降り積もり、私の心を映し出すかのように、世界を白く染めていく。それは、純粋で、しかしどこか冷たい美しさだ。この雪が、私の最後の風景となるのだろうか。ダンテが地獄を巡るように、私はこの死への道を進んでいく。
私の暗い書斎にこうして座ることができるのも、もう数日だと思うと、物悲しくもあり、また、なぜか待ち遠しくもある。私が座っているのは、年代物の耳つき椅子。私のすべての思考は、ここから生じてきたのだ。
立つことさえままならない私は、この椅子に腰を下ろしている。本来なら、とっくに寝台に横たわっているべき老いぼれだ。体のあちこちに刺さった管が、私の延命を支えている。自分で開発した機器が、この生の苦痛をただ延ばしているというのか。しかしあと7日だ。
足元が冷えてきたので、年代物の電気あんかのスイッチを入れる。これは、美貴が買ってくれたものだった。
煤けた窓を眺めると、外はまだ雪が降っていた。時計に目をやると、何時なのか分からないほど曇っている。針が見えなかった。もう私には、時計の針などどうでもよかった。
ただ、時計の音だけが聞こえる。微かに聞こえる、その音。針のない時計が、時だけを刻んでいる。私の生が終わるまでの、残り少ない時を。
クローン タコエビ @ebitako311
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