入学式流華視点
(あっ……ぶつかっちゃった……)
校門をくぐった瞬間の喧騒と熱気に、ちょっとだけ圧倒されていた。
知らない人ばかり。新しい制服、新しい校舎、新しい空気。
胸の奥がぎゅっとして、思わずうつむいて歩いてしまっていたら――
(……ごめんなさい…!)
声は震えそうだったけど、ちゃんと出せた。
ぶつかったのは、同じ新入生らしき男の子。
目が合った瞬間、少しドキッとした。
無愛想でもなく、馴れ馴れしくもない。
なのに、どこか――安心する雰囲気。
彼の目はちょっと眠たそうで、でも静かにこっちを見ていた。
(あ、全然大丈夫だよ)
……それだけだったのに、なぜだろう。
その言葉が、やけに優しく響いた気がした。
(……名前、聞いてもいいかな)
自分でも驚いた。
こんなふうに人に話しかけるなんて、普段の私じゃ絶対にできない。
だけど、聞いてみたくなった
(……乾政宗くん、って言うんだ)
初めて名前を聞いた時、ちょっと意外だった。
静かな声、そっけない受け答え。
でも、その裏に何か隠してるような、不思議な感じがした。
(目、綺麗だったな……)
パッと見たときは、ちょっと眠たそうな目つきに見えたけど、よく見ると…まつ毛、長い。
二重のラインもきれいで、あれ? もしかして顔、かなり整ってる……?
(でも全然、自分がカッコいいって思ってなさそう)
気取った感じもないし、話し方も普通。
むしろ、ちょっと不器用そう。
(なんでこんな人、誰にも気づかれてなの?)
新入生たちが集まってる中でも、彼はどこか空気に溶け込むように静かで、
目立つわけじゃないのに、妙に視線が引き寄せられる。
ちょっと猫背気味の姿勢、無造作な髪、しれっとした表情。
でも、歩き方も手の仕草もどこか“品”がある。
(たぶん……本気出したら、絶対モテる人)
それなのに、自覚ゼロっぽいのがまた腹立たしい。
あんな顔して、こっちは名前聞くのに勇気出してるのに……
(……ばか)
流華は思わず、自分の頬を両手で触れた。
あの一瞬。名前を教えてくれたときの、少し困ったような笑顔が、頭から離れない。
「よろしく」って言ったあの声。
(……これって、もしかして……“一目惚れ”ってやつ?)
胸の奥が、ぽん、と跳ねた気がした。
流華は思わず俯いて、ひとり小さく息を吐いた。
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