我慢大会

数日後の放課後。


俺は流華に呼び出され、生徒がほとんどいなくなった視聴覚室に連れてこられていた。


「ここ、ちょうど人いなくて静かでしょ? ……今日、試してみたいことがあるの」


「試すって……例の“我慢チャレンジ”か?」


「うん。禁欲って、結局どこまで我慢できるかってことだよね? だったら、限界ギリギリまでいってみようよ。乾くんがどこまで耐えられるか、私……知りたい」


お、女の子がそんなこと言うか?

視聴覚室のカーテンが閉められ、室内はほんのりと薄暗い。プロジェクターのライトだけがぼんやり灯っていて、俺たちを包んでいる。


「じゃあ、ルールを決めようか」


流華は、にっこり笑って言った。


「私がいろんな“誘惑”をするから、乾くんは一切、変なことを考えない。目のやり場に困っても、心を乱さない。とにかく、“健全男子”でい続けてみて?」


「そ、それは……鬼畜すぎないか?」


「禁欲って、そういうものじゃないの?」


流華はそう言って、制服のブレザーをスルッと脱ぎ、椅子に腰かけた。

……え?


「ちょっと暑いから、上だけ脱いだよ? 変な意味じゃないよ?」

その下にあったのは、ぴったりと身体のラインにフィットした白いシャツ。しかもボタンが

一つ、外れていた。


「ちょ、ちょっと待て、それはもう反則じゃ――」


「ほら、目逸らさないで。ちゃんと私を見て。これは訓練なんだから」

くっ……!


“禁欲ゲージ”が、静かに震えている……いや、むしろ小刻みに脈動している!!

(ヤバい……これ、あと2発も食らったら、ゲージの制御が……!)


「ねえ、乾くん。私、前から気になってたんだけど……」

流華は、脚を組み替えながら、わざとらしくシャツの襟を引っ張った。


「男の子って……こういうの、やっぱり……好きなんでしょ?」


「ぐっ……」


「ふふっ、顔赤くなってる」


「当たり前だろっ! どんな訓練だよこれは!!」


その時――

ピキィッ


俺の手の甲の“禁欲ゲージ”が、甲高い音を立てて、小さなヒビを入れた。


「っ!? 今、なんか鳴った?」


「や、やばい……限界が近い……!」


「ふふっ……じゃあ、ラストチャレンジいくよ」

そう言って流華は、俺の目の前に立った。距離、わずか10センチ。そして、彼女は――

そっと、俺の耳元で囁いた。


「……我慢できたら、ご褒美あげるね?」


「うあああああああああああ!!!」


――禁欲ゲージ、点滅状態。


その日、俺は視聴覚室でひたすら己と戦い、汗と理性にまみれて倒れ込んだ。

……けど、なぜかスッキリしていた。

(俺はまだ……戦える)


一方その頃――


流華は、誰もいなくなった視聴覚室で、ポツリと呟いた。


「ふふっ……やっぱり、ちょっと面白い人だね。乾くんって」




一体流華はなにを考えてるのだろうか?

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