第17話: LIVIERA·YOKOHAMA ·COLLECTION(横浜編 前編)

慶彦は、東京・品川のLIVIERA本社で、再び香月と向かい合っていた。


秋の陽射しが、ビルの窓越しに柔らかく差し込んでいた。


「 LIVIERA·YOKOHAMA·COLLECTION(LYC)ですが、テーマは“灯りの記憶”を予定してます」


香月がテーブルに資料を並べながら言う。そこには、冬の港町、横浜を背景にした仮デザインと構成案が綴られていた。


「港町の空気、街に射す光、そしてそこにいる人の佇まい……。


あなたの写真を見ていると、日常の延長線にふっと浮かぶ、一瞬の輝きみたいなものを感じるのよ」


彼女の言葉に、慶彦は軽く頷いた。


「今回予定している、LYCって、ステージの上じゃなくて、街全体がセットになるようなものだと思う。

だから、写真も、服も、日常の中で自然に生まれる美しさを引き出したいんだ。」


香月は微笑む。  


「その通りね。私たちがショーでやりたいこと、だんだん形になってきたわ。」


******


その後、社内でのミーティングが始まった。


若手スタッフやパターンナーたちが集まり、慶彦が撮りためた港町の写真を壁に映し出す。


ある者は海辺に立つ少女の背中に目を奪われ、またある者は、朝焼けに照らされた市場の光景に見入っていた。


「今回のLYCのショーは、単なる服の発表じゃない」  


慶彦は前に立ち、静かに語り始める。


「僕たち、LIVIERAが届けたいのは、日常の中の“ほんの一瞬の輝き”です。


作り込まれた幻想より、生活の中にあるリアルな美しさを信じたい。その空気感を服で伝えたいし、それを観る人の記憶にも焼き付けたい」


その言葉に、香月がそっと視線を重ねる。


ミーティングが終わると、慶彦は机に戻り、一通の手紙を書き始めた。


宛先は、横浜の中学校に通う娘・美佳だった。


—————————


美佳へ


──もうすぐ、横浜で大きなショーがあり、パパもサポートする事になったよ。


──美佳が、この春にくれた言葉が、今回のきっかけになった。


──会場に来てくれたら、とても嬉しいよ。是非、美佳にパパの仕事を見せたいと思っている。

             

             パパより


—————————


文章の端々に、これまでの旅路と、伝えきれなかった想いを織り込む。


手紙と一緒に、LIVIERAの招待状を封筒にそっと入れた。


横浜の街に、冬の灯りがともる頃──


またひとつ、父と娘の“記憶”が、生まれようとしていた。

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