第3話

「えっと、池崎和夫いけざきかずおさん、次どうぞ」


和夫はずっと面接官を見ていたのですぐに分かった。表情の変化が。

面倒だなと嫌そうな顔に変わったことが。


そりゃあ、こんなジジイだもんなぁ。


こうなると予想はできていたものの、実際に嫌がられると少し心が折れた。


「90歳ですか……。ご長寿でいらっしゃるのですね」


「いえいえ、まだまだですよ。ワシ、いえ、私の父は100歳まで生きましたので父を超えることが今の目標ですかね」


佐智子に一人称は私にすることと言われたのをうっかり忘れており、一瞬、間違ってワシと言ってしまった。


…………。

この間が怖い。

何も話すことがないこの間が。

なんでもいい、何か話さねば。


「私が御社を希望したのは、タケダフーズさんの野菜ジュースに惚れ込んでしまったためです。どうしても、自分の好きなものを作っていらっしゃる御社で働きたくなってしまって」


和夫の希望理由を聞いてコソコソと話し合い出す面接官たち。

和夫は、その時間がものすごく不安だった。


「あの、我が社では、その、野菜ジュース販売してないそうです。池崎さんのいう野菜ジュースは多分、我が社のライバル社であるヤナダフーズかと……」


へっ?

念のためにと持ってきていたその野菜ジュースを鞄の中から取り出し、販売者を見る。



うわぁお、やってしまった。

いや、紛らわしいのが悪いんだ。


それからの空気は最悪。

お互いに気まずかった。


最後に何故、その年齢になってまで働きたいのかを聞かれたが、もう頭の中真っ白でちゃんと答えられたかも分からない。


この面接絶対オワッタなと思う。

和夫は佐智子に「ほら、だから言ったじゃない」と言われそうで帰るのが嫌だった。



就活は厳しい__

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