秘密の森の赤ずきん

白蓮

赤ずきん

昔々、ある所に赤ずきんという少女がいました。

おばあさんが作ってくれた赤いずきんをいつもかぶっていたので、村の人たちから赤ずきんと呼ばれていました。

ある日赤ずきんはお母さんに頼まれて、おばあさんにワインとパンを届けに行くことになりました。

家を出る時、お母さんが赤ずきんに言いました。

「気をつけて行っておいで。近頃、森に悪い狼が出るって話を、村の人から聞いたからね。」

赤ずきんは答えます。

「分かってるわ。大丈夫。行ってきます。」

おばあさんの家は、森を抜けた先を少し行ったところ。村からは離れた所にありました。

村を出てしばらくたつと、赤ずきんは頭巾を脱いで手に持っていたカゴに突っ込みました。

それから、首元まできっちり止めていたボタンを外し、胸元まで開きました。

長すぎるスカートも腰の部分をクルクルと折って、パンツがギリギリ見えないくらいまで短くしました。

ふぅ、と一つ息を吐いて赤ずきんは再び歩き出し、少しスッキリしたので独りでおしゃべりをはじめました。

「狼が出るのを知っているなら、お母さんが自分で行けばいいじゃない。自分がおばあさんに会うのが嫌だからって私を危険な目に晒すなんて、酷い母親だわ。でもあんな息苦しい村に一日中いるよりは、ずっとマシ。私だっておばあさんの話し相手をするのは面倒だけど。まぁいいわ。」

そう言いながら歩いていると、森に着きました。

森は、薄暗く少し怖い雰囲気だけど、赤ずきんはなんだかドキドキするので森に来るのが好きでした。

森には珍しいキノコや花が沢山咲いていて、歩いていても全然退屈しません。

村では会えない森の動物たちも大好きです。

リスやキツネに挨拶しながら進んでいた時、木の影から突然声を掛けられました。

「可愛らしいお嬢さん、一人で森を歩くのは危ないよ。どこへ行くんだい?」

声のした方を見ると、知らない狼がいました。

赤ずきんは答えます。

「森を抜けた先のおばあさんの家へ行くの。ワインとパンを届けるのよ。」

狼が答えます。

「なんて優しい子なんだろう。そうだ、おばあさんの家へ行くなら、お土産に花束なんかどうだい?ちょうどここから少し行った所に、綺麗な花畑があるんだよ。案内してあげるよ。」

赤ずきんは喜んで答えました。

「本当?素敵!連れて行って。」

そして赤ずきんは狼に連れられて、見たこともない美しい花畑へ到着しました。

色とりどりの花が咲き、変なキノコもあちこちに生えています。

赤ずきんは夢中になって、花の匂いを嗅いだり、蜜を吸ったりしました。

とても楽しそうにしている赤ずきんに、親切な狼が言いました。

「このキノコは飛びきり美味しいキノコなんだ。とっても珍しくて滅多に手に入らない。でも君はとっても可愛いから特別にこれをあげるよ。どうぞ、食べてごらん。」

「まぁ、ありがとう。あなたって優しいのね。」

赤ずきんは狼の大きな手からキノコを一つ、つまみ上げると、ぱくりとソレを食べました。

するとどうでしょう。

今まで味わったことのない恍惚感が赤ずきんを包み込みました。

フワフワと夢の中にいるみたい。

色とりどりの花畑もキラキラと輝いて赤ずきんの周りををクルクル回り始めます。

お花の影からキノコの妖精が現れて、赤ずきんの手を取り一緒にダンスを踊ります。

ひっついたり離れたり。

みんなで輪になってくるくる、くるくる。

上になったり下になったり。

みんなで輪になってくるくる、くるくる。

赤ずきんは楽しくて気持ちよくて、次から次へ美味しいキノコを食べました。

たくさん動いて汗をかいて、喉が渇いたら綺麗な色の花の蜜を飲みました。

ピンクに黄色、水色に紫。

どれも甘くてとても美味しいです。

どれくらい時間が経ったでしょう。

赤ずきんは、おばあさんの家へワインとパンを届けないといけないことを思い出しました。

服を整えて頭巾を被り、慌てておばあさんの家へ走ります。

もう辺りは薄暗くなり始めた頃、赤ずきんはやっとおばあさんの家にたどり着きました。

でも何か、様子がおかしいです。

外はもう暗くなってきているのに、おばあさんの家の中に灯りがついていません。

心配した赤ずきんはドアをノックしておばあさんを呼びました。

トントン

「おばあさん、赤ずきんです。ワインとパンを持ってきました。」

けれども返事はありません。

もう一度、赤ずきんは扉をノックしてみます。

今度はさっきより少し強くノックしてみました。

すると、ドアが少し開きました。

「おばあさん、いないの?」

開いたドアのすき間から家の中を覗いてみると、なぜかそこにはさっきの狼がいました。

「やあ、赤ずきん。また会ったね。おばあさんは留守みたいだよ。」

赤ずきんはたずねます。

「どうしてあなたがここにいるの?」

狼が答えます。

「僕はおばあさんと友達だからだよ。」

「おばあさんは、どこへ行ったの?」

「僕がここへ着いた時には、おばあさんがいなかったから分からないな。鍵が開きっぱなしで不用心だからおばあさんが帰るまで留守番をしていたんだ。」

「そうだったのね、親切にありがとう。」

「おばあさんが戻るまで一緒に留守番をしていよう。さっきのキノコもまだあるよ。」

「まあ、素敵。ちょうどお腹が空いていたの。ありがとう。」

「それじゃあこっちへおいで、赤ずきん。一緒に美味しいキノコを食べよう。」

そして赤ずきんはベッドに腰掛け、狼と一緒に美味しいキノコを食べました。


翌朝目が覚めた赤ずきんは、まだ隣でいびきをかいて寝ている狼を起こさないように、そっとベッドから出ました。

そしてキッチンの戸棚の中で冷たくなったおばあさんを見つけました。

面倒なことになったな、と思った赤ずきんは、洋服を着て頭巾を被り、外に出て猟師に声をかけました。

「助けて、おばあさんの家で狼が寝ているの。」

猟師は大慌てでおばあさんの家へ走って行きました。

家の外で様子を見ていた赤ずきんはズドン!という銃声を聞くとほっと胸を撫で下ろし、村へ帰る道を歩き出しました。



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