第32話 連携?


 俺たちはいま、恐ろしい場所にいる。

 血のような赤い大地はひび割れ、空は炎に染まっているようだ。

 

 遠くまで見渡しても黒と赤ばかりで、まるで生命の息吹を感じられない。

 俺は普段の光景が、どれだけ綺麗に満ち溢れているか分かった。


 ここは色すら殺されている恐ろしい場所だ。

 

「蒼真君、大丈夫? 怖くない?」


 六紋さんが話しかけてきてくれた。

 心配してくれているのだろう。さっきから少し息苦しいのは否定できないが……。


「ありがとう。大丈夫だよ」

「そう? 少し顔色が悪かったから。蒼真君は少し普通じゃないみたいだし、無理そうなら言ってね」


 六紋さんは優しく笑った。

 自分も慣れてない光景だろうに気丈な子である。 


「二条楓はこの場所があまり好きではないわ。聞いてはいたけど陰気な場所だし」


 二条さんは小さくため息をついた。

 こんな恐ろしい場所なのに、大して動揺している様子もない。この子、やはりメンタル強いな……。


『怖いにゃー』

『帰りたいにゃー』

「猫たちが喜びに震えている」

「どう見ても怯えてると思うのだけれど」

「肝試し」


 そして猫飼さんはいつもの感じだ。

 彼女の周りにいる猫や、頭に乗った猫たちは震えているが。


「ここは等活とうかつ地獄。殺生を行った者が落ちる地獄だ。ここでは死んでもすぐ蘇るから、罪人たちが殺し合いを続ける場所だな」


 なにその地獄の無限ループみたいな場所は……いや地獄なんだけども。


「ほら見てみろ」


 アゴヒゲ教師が指さした先では、二匹の餓鬼が戦っていた。

 餓鬼の一匹が、もう一方の餓鬼の首をへし折ってしまう。


 首が折られた餓鬼は倒れた……のだが、なんと首が自然に元の向きに戻っていく。


「首が折れたならすぐに癒えるだろうよ。首と胴が泣き別れしても一時間もあれば再生するからな」


 つまり死んでも戦わされると。確かに地獄だあ……。

 と思っていると周囲に気配が漂い始めた。


 見れば大量の餓鬼が、俺たちを包囲しているではないか。

 い、いつの間に現れたんだ!?


「生者だ。生きている魂だ!」

「美味そう……!」

「女ァ……女ァァァァァァ!!!!」


 餓鬼たちは興奮して叫んでいる。

 お、多すぎてどれだけいるか数え切れない。おそらく五十は下らないだろう。


 誰も武器を持っていないのが唯一の救いか。


「さっそく来なさったな。お前らはこの餓鬼たちを祓い続けてもらう」

「あ、あの。彼らは祓ってもいい妖怪なのですか?」


 俺は思わず質問していた。

 以前の塗り壁のようなのだと嫌だからだ。


「安心しろ。こいつらは地獄に落ちた奴ら。つまり悪い奴らだからな。ここでは殺したって蘇るし……そもそも、そんなこと気にしてる余裕はないぜ?」


 アゴヒゲがニヤリと笑った。

 その瞬間、餓鬼たちが一斉に俺たちに襲い掛かってきた!?


 飢えている鬼だけあって、俺たちの肉でも食べるつもりか!?


「女ァ!」

「女ァァ!!」

「女ァァァァァァァ!!!」


 あ、肉じゃなくて身体が目当てなのね。飢えてるってそういう……。

 そうなると俺はあまり狙われなさそうだな。


 俺は防御には全く自信がないし、正直そちらの方が助かる。

 六紋さんたちには申し訳ないが、俺は狙われない分だけ攻撃に集中して……。


「男の子ォ!」

「男の子ォォ!」

「男の子ォォォォォォォォ!!!!!」


 明らかに俺の方を狙ってる餓鬼もいるんだけど!?

 なんか腐女子みたいな叫びなんだが!?


「ほらほら。ちゃんと連携して戦わないと勝てねえぞ。安心しろ、最悪でも死んで蘇る。こんな天国みたいな場所はないだろ? あー、楽」


 アゴヒゲは大きな徳利とっくりを取り出して、酒を飲み始めた。

 地獄で極楽をしてるんじゃねえよ!


 というかアゴヒゲはなんで餓鬼に狙われないの?

 オッサンだから需要がないのか?


「お前ら、ここで連携の重要さを痛感していけ。天文院に戻ったら連携練習を開始するからなー」


 あとさ。そもそも連携って最初に練習するものじゃない?

 なんで班での実戦や地獄で実地訓練した後に、ようやく連携の練習をし始めるのか。

 

 いや余計なことを考えている暇はない。

 大量の餓鬼が俺たちに襲い掛かってきてるのだから。


「ファイアアロー!」


 俺は火の矢を放って、餓鬼を一匹蒸発させた。

 だが焼け石に水というか、大量の餓鬼相手だと手が足りない!?


 いやこれ一撃の火力が必殺でも一発一殺だとダメだ!?

 範囲攻撃的なのが欲しいな!? 

 

 そんなこと考えている間にも餓鬼たちが迫ってきてる!?


「ぐへへへ! 覚悟しろやぁ!」

「セイントウォール!!!!」


 俺は焦ってセイントウォールを発動し、俺の前に光の陣盾を出現させた。

 ……あ、しまった!? 霊的な壁だから、妖怪相手には効かないのでは……。


「げへへへ馬鹿め! 霊力のない壁で防げるわけがっ……ん? 霊障が消えた?」

「ど、どうなってやがる?」


 ……餓鬼たちは自分からセイントウォールに突っ込むと、身体がすり抜ける。

 だが困惑したように自分の身体を確認し始める。


 セイントウォールは霊的なモノには干渉するから、妖怪の霊障も消せはするのか。身体にはダメージがないから結局微妙だが。


 しかしミスったな。

 防御魔法を手に入れたと思っていたが、霊的なモノしか防げないのではダメじゃん。


 ……いや待てよ? いいことを思いついたぞ。


 すると餓鬼たちは気を取り直したようで、俺たちに襲い掛かって来る。

 俺はまた陣盾を出現させようとする。だが今度は先ほどとは違う。 


「ええい! 同じ理屈なら出来るだろ! ウォール!」


 俺は今度は『炎の陣盾』を出現させた。

 簡単な理屈だ。俺がセイントウォールを発動するのは、セイントアローを引き延ばす感覚でやっている。


 なら同じ魔法の矢である、ファイアアローでやれない道理はない!

 試してみたら行けた!


《フレイムウォールを習得しました。ウインドウォールを習得しました。プラズマウォールを習得しました》


 ステータス君がウォール系習得の報告をしてくれる!

 よし! ぶっつけ本番過ぎるが新たな魔法を手に入れたぞ!


 そして肝心のフレイムウォールが餓鬼を防ぐかだが。


「霊力のない炎? そんなもので俺たちを防げるわけぐわあああああ!?!?!?」

「ぎやああああ!?」


 餓鬼たちは自らフレイムウォールに突っ込んでいき、蒸発していく。

 あれだ。火に飛び込む蛾みたいな感じ。

 

 さっきのセイントウォールが効かなかったのもあったのか、餓鬼たちは躊躇なく突撃して燃え散っていく。

 そうして俺を襲おうとしていた餓鬼たちは全滅した。


 ふー。とりあえず一息つけそうだ。他の皆は大丈夫だろうか?


「神楽舞!」


 六紋さんは餓鬼たち相手に大立ち回りを演じていた。

 餓鬼の攻撃をずっと防ぎ続けてる。完全に防御の構えで、無理に倒そうとしてないようだ。


 入学試験では餓鬼一体相手に負けていたが、倒そうとしなければ負けないのかな。


「汚らわしいわね! 死なないなら吹き飛ばしてやるわ!」


 二条さんは周囲に竜巻を発生させて、餓鬼たちを空高く吹っ飛ばしていく。

 餓鬼たちは哀れ地面に落ちてグチャッと潰れる。グロイ倒し方……。


「すぅすぅ……」


 そして猫飼さんは爆睡していた。

 こんな地獄みたいな、いや地獄でスヤスヤ居眠りしてる……。


 ついでに周囲の餓鬼たちも顔を真っ赤にして眠っていた。

 ……あの子が一番意味不明だな? 


 とりあえず全員無事っぽいな。よし。

 俺は六紋さんの周囲にいる餓鬼を魔法で吹き飛ばすのだった。

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