Hiding in the rain.

音佐りんご。

土竜と案山子。

◇◇◇


  激しい雨の音、時々雷鳴。

  その中に泥濘を駆ける馬車の音が紛れている。

  深く広大な森を糸で縫うようなか細い道が通り、

  行商人風の男カインが荷馬車を走らせている。


男:……あぁ、まったく! 運が悪いにも程がある……! こんな森の中で雨に、それもこんな馬鹿げた大雨に降られるなんて! まるで俺達の未来を暗示しているみたいじゃぁないか! なぁ? お前もそう思うだろう、相棒殿?


  カイン、御者台から馬に声を掛けるが

  馬は答えることなく仕事を熟す。


男:はっ、お前さんは先生に似て仕事熱心なことだ。しかし、ただでさえ荒れている道にこの雨だ。走りにくくないかい? 俺はそろそろ体が冷えてきたし、震動で傷が痛むよ。ここは一つ、休息をとるべきだと、俺は思うけどな。


  馬は何も言わずに走る。


男:……どこで、か。まぁ、そんな都合よく、雨風を凌げるような場所なんて……。


  と、馬は何も言わずに足を止める。


男:ん? どうした相棒殿、急に止まって? もしかして腹でも――と、あれは……小屋か?


  カイン、御者台から降りると小屋を観察する。


男:人が住んでる気配はないが、手入れはされてるな。まぁでも生憎、床が抜けそうだから、お前さんには軒下で我慢してもらうが。……おいおい、そんな顔するな。積荷の野菜、少し食って良いからさ。良いのかって? どうせ儲けたいわけでもない。それらしくで十分だからな。役目さえ遂げられたら、それで。


  カインが野菜を与えると

  馬は軒下で食事を始める。


男:ふん、よしよし、俺も一休みするよ相棒殿? はっ、聞いちゃいないか。……さて。


  カイン、左右で違う足音を立てながら小屋の中に踏み込む。


男:へぇ、悪くない、か。……っくし! 服、乾かさないとな。暖炉も、ある。薪……いけるな。


  カイン、短剣で薪を削ると火打ち石で点火

  息を吹いて火を育てる。


男:ふー、ふーっ! …………よし。


  カイン、服を脱いで干す。


男:…………んっ。……ふぅ。

女:あの……。

男:うあぁっ!?


  と、小屋の隅に座っていた女ミリアーナに驚き

  カイン尻餅をつく。


男:うぐっ……!

女:あ、すみません、驚かせてしまいましたね。

男:な……? どうして……、いや。あ、あなたは……?

女:私……。

男:と、こちらから名乗るべきですね。……私は、行商人のカインと申します。

女:……カイン、行商人……そう、ですか……。

男:ええ、行商と、ある積み荷を届ける為、クレスト王国東部のオルディアから参りました。

女:オルディア……? 残念ながら。聞いたことありません。

男:そうでしたか、辺鄙なところですからね。ですが、いい街ですよ。

女:……そうなんですか。

男:あなたは?

女:私は……。ミリアーナ、と申します。

男:ミリアーナさん。……あ、もしやこちらの家主でしょうか? 勝手に入って申し訳ない。てっきり無人の小屋だと思い、少し雨宿りをと立ち寄らせていただいたのですが……。

女:突然の大雨ですものね。えぇ、そういうことならお気になさらず、ご自由に使ってください。

男:ありがたいお言葉ですが、よろしいのですか?

女:えぇ、構いません。この小屋は誰のものという訳ではなく、一時的に資材を置いたり、丁度今のように雨風を凌ぐのに使うことになっています。

男:そうなのですか?

女:……何年か前までは、エディンという腕の良い老狩人が住んでらしたのですが、……亡くなられて。それ以来、村で共有しています。

男:近くに村が?

女:……ドネルという小さな村です。一応私も、その村の者ですよ。

男:ドネル……。

女:……ところで、カインさん。その、よろしい、ですか……?

男:はい? 何でしょうか?

女:…………。

男:……ミリアーナさん?

女:…………その……服……。

男:服? ……あ。


  カイン、自身が半裸であることに気がつく。


男:す、すみません! 麗しきご婦人にお見苦しいものを! すぐに着ます!

女:あぁ、いえ、お気になさらず。私、何も見てませんので。

男:見てない?

女:というか、見えないのです。

男:え?

女:ほら。


  ミリアーナ、立ち上がると暖炉の前まで歩く。

  炎に照らされたミリアーナの目には布が巻いてある。


女:この通り、見る術がありません。

男:あ……。

女:残念ですが。

男:ざ、残念?

女:えぇ。随分鍛えられているものとお見受けしたので……と、見受けたのは言葉の綾ですが。

男:あ、いや、そんなに大したものでもありませんよ。

女:そんなことはありませんよ、カインさん。

男:え?

女:私の見立てでは並大抵ではありませんよ。その靭やかな肉体。あぁ見立て、てはいませんが。

男:……どうして、わかるんですか?

女:目が見えないのに?

男:……えぇ、失礼ですが。

女:不思議ですよね。或いは、不気味か。

男:そんなことは……。

女:いえ、お気になさらず。実際、村には私のことを魔女や悪魔憑きと呼んでいる人もいます。

男:悪魔憑き?

女:私、目はこの通りですが、他はちょっとすごいんですよ?

男:つまり?

女:見受けならぬ聴き受け、見立てならぬ嗅ぎ立て、といったところですか。芸術的な筋肉の躍動を聞き漏らさず、研ぎ澄まされた肉体特有の芳香も感じ取れます。

男:それはすごい。

女:もちろん、あなたの足のことも。

男:…………!

女:恐ろしいですか?

男:え……。

女:分かるんですよ、可笑しな話に聞こえるかも知れないですけど、小さい頃から。見えなくても、向けられる視線とその意味だけは感じられる。だから、慣れているんです。

男:ミリアーナさん……。

女:すみません、私、離れていますね。

男:あの!


  カイン、ミリアーナの手を掴む。


男:こちらで一緒に暖まりませんか?

女:カインさん。

男:もちろん、ミリアーナさんが良ければですが。

女:……えぇ、喜んで。

男:こちらこそ。

女:あの、カインさん。

男:なんですか?

女:触っても、良いですか?

男:…………。

女:…………。

男:……それは、ちょっと。

女:……ですよね。すみません。

男:いえ……。


  二人、何も言わず暖炉の前に座ると

  炎に顔を向ける。

  雨音と風音、薪の爆ぜる音

  二つの呼吸が小屋の空気を満たす。


女:……大変でしたか?

男:え?

女:雨。

男:あぁ、そうですね。視界も足も奪われて、相棒も参っていましたよ。

女:相棒? ……誰かと、ご一緒なんですか?

男:あぁ、いえ。馬です。

女:あら、お馬さん。

男:私よりも賢くて働き者で、何より、頼りになる相棒ですよ。

女:そうなんですね。

男:ここを見つけたのも彼女の手柄です。

女:まぁ。でしたら、私も相棒さんに感謝しないといけませんね。

男:感謝ですか?

女:素敵な巡り合わせをありがとう、と。

男:そ、そんな……! 大袈裟ですよミリアーナさん。

女:そう考えると、この雨にもお礼を言わなければならないのでしょうね。

男:……もしかして。

女:なんですか?

男:雨、お嫌いなんですか?


  少し静かに響く雨の音。


女:……えぇ、好きではありません。

男:やはり。

女:でも、どうして?

男:そういう表情をされていたので。

女:表情。

男:実は、私も苦手なんですよ、雨。

女:旅をされている方はそうなのでしょうね。

男:村では?

女:作物の出来にも関わりますから、恵みであるのは確かでしょうね。

男:あなたにとっては違う?

女:……私、狩人なんです。

男:そうでしたか。

女:意外ではありませんでしたか? 私のような者が獲物を捕れるのか、と。

男:驚きはあります。けれど先程、エディン氏のことを話される様子が親しげに見えたので、深い交流があった。或いは師事されていたのかと推測することは出来ます。

女:遠からずですが、師事という程のものでもありません。エディンさんは寡黙な方でしたから、いつも、技を盗むといった具合でした。

男:なるほど。

女:それに、私のような者と関わろうとする方は、村にいませんでしたから。

男:それは……。

女:だから、お世話になったのは確かですね。

男:恩返しにこの小屋の手入れをしている、と。

女:そういう面もあります。ただ実際のところ、私は言い訳として便利に使っているだけかも知れません。この場所も含めて。

男:と言うと?

女:生き方を、志を受け継ぐことで、私は私でない誰かになれるような気がしたのかも。

男:なれましたか?

女:どうでしょう。変わったとも、変わらなかったとも。少なくとも、雨は相変わらず嫌いです。

男:ふふっ、同じですね。

女:え?

男:いえ、私の仕事も、故あって人から引き継いだものでして。

女:そうだったんですね。

男:相棒ともその時に出会ったのですが、彼と、先生と出会うことが無ければ、このような生き方は知らず、ここで濡れた服を乾かすことも無かったでしょう。

女:私に裸を見られることも?

男:見てはいないのでは?

女:嗅ぎましたが。

男:ははは。

女:ふふふ、全ては巡り合わせ、ですね。

男:ええ。


  雨の音が強くなる。

女:少しだけ、強まりましたか。

男:……そうですね。

女:いっそこのまま、止まなければ良いのに。

男:え?

女:今、そう思いました?

男:あ、いや、それは……。

女:私は、思いました。

男:……そう、なんですか?

女:えぇ、そうなんです。雨、嫌いなのに。


  風で小屋が軋む音。


女:風も出て来ましたね。

男:そう、ですね……。

女:けれど、この匂いなら、そう長くは続かないと思います。

男:分かるんですか?

女:これで一応、狩人などしておりますから。カインさんもでは?

男:まさか。一晩は降るものと思ってましたよ。

女:一夜をともに過ごしたかったですか?

男:あぁ、それはとても魅力的なお話ですね。

女:えぇ、きっと旅のお話をたくさんしていただけることでしょう。

男:高くつきますよ?

女:まぁ、それは大変。どうやって払いましょう?

男:それは……。

女:それは?


  雨の音と、暖炉の音

  二つの呼吸が静寂を埋める。


男:…………雨が、止んだら。

女:止んだら?

男:ミリアーナさんは、お仕事に戻られるんですか?

女:えぇ。今日はまだ、鳥の一羽も仕留められていませんからね。

男:鳥を。それはすごい。どうやって?

女:音と臭いと、あとは想像ですね。

男:想像?

女:えぇ。彼らが何を食べ、何の為にどこへ向かうのか。私に自由に飛ぶための翼はありませんが、もしあったとしたら何をしたいのか。何ができるのか。想像するんです。

男:獲物の気持ちになるということですか?

女:そういうことですね。彼らの姿を、飛び方を思い描いて、向かう先に矢を射る。

男:そんなことができるものなのですね。

女:えぇ、雨にさえ降られなければ。

男:雨が降ったら?

女:耳も鼻も鈍ってしまいますし、それに。

男:それに?

女:雨の中、外に出たくないのは私も同じですから。

男:ははっ、なるほど。それで雨が苦手なんですね。

女:それだけでもありませんが、多くはそうですね。

男:ふむ。でもそれはよく分かる考え方ですね。

女:分かるんですか?

男:商売も通ずるところがあります。

女:あら、ほんとですか?

男:えぇ。お客様が何を食べ、何の為にどこへ向かうのか。私に自由にできる金はありませんが、もしあったとしたら何が欲しいのか。何ができるのか。想像するという訳です。

女:獲物の気持ちになるということですね。

男:えぇ。彼らの姿を、歩き方を思い描いて、向かう先に上手い話を置いておく。全てはお客様に心から満足してもらえるように。

女:ふふっ、カインさん。今とても悪い顔をしていらっしゃいますね?

男:おや、分かるんですか?

女:さぁ、どうでしょう。私には分かりません。

男:なら想像してみてください。

女:カインさんの生き方を?

男:えぇ。

女:…………。


  二人の呼吸と暖炉の音。


女:想像も、つきません。

男:……まぁ、そうですよね。

女:すみません。

男:いえ。私こそおかしなことを言って申し訳ない。

女:そんな……。


  薪が甲高く弾ける。


女:カインさんは……。

男:はい。

女:行ってしまうんですか? 雨が、止んだら。

男:……えぇ、そうですね。

女:どちらまで?

男:森を抜けてレノクスへ。

女:レノクス……それはまた。クレスト王国のオルディア? から来られたと話していましたが、遠いのですか?

男:いくつかの町を経由して、今日で二十日程でしょうか。

女:まぁ、そんなに?

男:慣れたものです。毛皮を運び、花を運び、果物を運び、今は毛皮の残りと野菜を運んでいますよ。

女:すごいですね。

男:えぇ、雨にさえ降られなければ。

女:ふふっ。

男:ですが、雨に降られてみるのも悪くは無いのかも知れないですね。

女:私もそう思います。

男:……ミリアーナさん。

女:なんですか?

男:踊りませんか?

女:……え?

男:私と一緒に、踊りませんか?

女:ど、どうして?

男:突然、踊りたくなったんです。

女:…………。

男:駄目、ですか?

女:…………。

男:あの……。

女:……くふ。

男:ミリアーナさん?

女:ふふっ、あはははっ!

男:あ、あの……?

女:突然踊りたくなった? ふふふふふっ! カインさんって案外、女性を口説くのに慣れていないんですね。

男:いや、そんなことは……!

女:口説き慣れている?

男:無いですが……。

女:こんな誘われ方、私、初めてですよ。

男:…………っ!

女:こんな穏やかな時間も。

男:え?

女:良いですよ。踊りましょう。

男:良いんですか?

女:そう言ってるじゃないですか。

男:あ……。


  ミリアーナ、カインの手を取り身体を寄せる。


女:……半裸で踊りに誘ったんですか?

男:いや、乾いてきたから、そろそろ着ようと思っていたのですが……。

女:良いですよ、まだ生乾きでしょうし、それに。

男:それに?

女:汗をかきますから。

男:……激しいのがお好きなんですか?

女:とびっきり。

男:…………。

女:意外でしたか?

男:いいえ? 私もそうですから。

女:ふふっ、お誘いは下手なのに?

男:踊りの方は、満足させますよ。

女:まぁ。お手柔らかに?


  二人、激しくステップを踏む。

  異なる二つの足音と

  一定のリズムを刻む足音が雨音の中で重なっていく。


女:ふふっ。

男:どうですか? お姫様?

女:お姫様、という柄でもありませんが。

男:お気に召しませんか?

女:いいえ、楽しいですよ王子様?

男:それは光栄です。

女:おかしな人。

男:そうですか?

女:そうですよ。

男:どうして?

女:誘いますか? こんな女。

男:素敵な淑女を誘わない男がいますか?

女:あなたの方がよっぽど目が悪いようで。

男:そうかも知れません。

女:まぁ、ひどい。

男:ですがその代わり鼻が利くもので。

女:私、そんなに臭います?

男:ええ。

女:失礼しちゃいますね。

男:別段、良い匂いでもない。

女:お互い様です。

男:けれど。

女:けれど?

男:惹かれてしまう。どうしょうもなく。

女:……ええ。

男:一緒なんだと思います。

女:……一緒、ですか?

男:そうです。生まれも、

女:育ちも、

男:仕事も、

女:生き方も、

男:考え方も、

女:世界の見え方も、

男:世界の歩き方も、

女:違う筈なのに?

男:私とあなたは、

女:あなたと私は、

男:一緒なんです。

女:一緒……。


  ミリアーナ、カインから離れる。


女:私、捨て子なんですよ。

男:そうでしたか。

女:手に負えないからと捨てられた。

男:ミリアーナさんは、親を恨んでいますか?

女:どうでしょうね。知らない人間を恨めるほど、私の世界は広くありません。

男:そして、拾い育ててくれたエディン氏だけがあなたの全てだった。

女:そこまで気がついていたんですね。

男:分かりますよ。全部。

女:……カインさんは?

男:私ですか? 私は、戦災孤児です。

女:……オルディアの悲劇。

男:知らないフリしてたんですね。悪い人だ。

女:敢えて言葉にしなかっただけです。

男:優しさですか?

女:自分可愛さです。

男:……父も、母も、妹も、私にはいました。

女:家族の仲は良かったですか?

男:ええ。でもみんな死んだ。私を遺して。

女:その時に右足を?

男:……妹は踊りが好きでね。だから子供の頃は、この足でもいつか一緒に踊れたらと、練習したものです。

女:カインさん……。

男:妹はもういないのに。この足がその証明だというのに。

女:そうやって歩いてきたんですね。

男:ええ。

女:無駄にはなりませんでしたね。

男:ありがとうございます。

女:こちらこそ。

男:このまま、雨が止まなければ良いのに。

女:そうですね、でも……。


  雨の音は止んでいる。


男:……上がったみたい、ですね。

女:まだ曇りですよ? 服も乾いていません。

男:ええ、それでも行かないと。

女:戻れなくなる?

男:相棒も待たせています。


  外から馬が鼻を鳴らす音。


男:ほら。

女:ふふっ。

男:……ミリアーナさん。

女:なんですか?

男:夢のようなひとときでした。

女:もう、目を覚まさなければいけませんか?

男:ええ、お互いに。

女:……そうですね。


  二人、身体に忍ばせていた短剣を抜く。


男:へぇ、流石は狩人だ。サマになってる。

女:行商人は短剣なんて構えないのでは?

男:旅ってのは物騒だからよ。

女:いつから、気付いていたんですか?

男:お前さんが同類だってことか?

女:はい。

男:最初から。

女:そうですか。

男:そっちは?

女:森に入った時からです。

男:ははぁ、この小屋は罠か、どおりで。

女:いえ、森そのものが先代から引き継いだネズミ捕りです。

男:なるほど……。はは、こりゃ参ったな。

女:逃がすつもりは、ありません。

男:そうだろうな、残念ながら。

女:機会はいくらでもあったのに。

男:そっちこそ、小屋に潜んでいることにも、俺は気付いていなかった。

女:驚いて尻もちをついていましたものね。

男:……隙だらけだった、なのに。

女:……それはあなたが。

男:俺が?

女:……突然、脱いだからですよ。

男:……くっ。

女:ふふふっ。

男:はははっ。


  二人、笑い合う。


男:失礼、お名前を伺っても?

女:ミリアーナ・タルパ。フレーヴィア帝国の『土竜』です。

男:もぐら?

女:先代の『庭師』エディン・ガーデナーがそう名付けたんですよ。

男:一緒だな。俺は、クレスト王国の暗殺者『案山子』のカイン。カイン・スケアクロウ。

女:いい名前ですね。

男:本気で言ってる?

女:ええ、可愛らしくて素敵です。

男:お前もな。

女:……呼んでは、くれないんですね。

男:えぇ?

女:これで最後になるのに。どちらが生き残っても。

男:ふふっ、甘えん坊のもぐらちゃんか。

女:悪いですか?

男:いいや。可愛いよ。

女:意地悪な人ですね。

男:踊ってくれてありがとな、ミリアーナ。

女:お話できて楽しかったです、カイン。


  二人、改めて向かい合う。

  薪が弾けると、二人踏み込む。


男:それじゃ、

女:さようなら、


  床を強く蹴る足音。


男:ミリアーナ!

女:カイン!


  静寂。

  暫くの間。

  水溜まりを踏む規則正しい足音。

  馬の息遣いと低いいななき。

  御者台に足をかける音。

  荷馬車が走り出す。

  森の木々を風が揺らす音が全てを包み込んでいく。


◇◇◇

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Hiding in the rain. 音佐りんご。 @ringo_otosa

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