最終話 魅力極振りしたら…
「……お願い、ボクに力をちょうだい……!
ボクはただモテたいだけでここまで来たけど……!
でも今は違う! この人を……絶対に失いたくないんだ!!」
涙がヴェールの下でぽろぽろこぼれた。
その時だった。
――ドクン。
胸の奥が熱く脈打った。
次の瞬間、ボクの唇から光があふれ出す。
ほんのりピンク色の、まるで恋心そのものみたいな輝き。
「な、なにこれ……!?」
システムボイス(?)が頭の中で響いた。
【新スキルを獲得しました】
【スキル名:フォーチュンキス】
――対象に、自身の魅力値を分け与えることができる。
「……っ!」
ボクは迷わず、倒れたカイトの唇にそっと口づけた。
ピュワァァァァァァァ――ッ!
光が弾け、カイトの全身を包み込む。
その体が震え、深く閉ざされていた瞼がゆっくりと開かれた。
「……未来……?」
「カイト! 戻ってきて!! ボクの……ボクの力をあげるから!」
彼の体から黄金のオーラがあふれ出す。
ただの剣士の枠を超え、無駄にキラキラ、背後に薔薇の幻影まで咲き乱れる。
まるで少女漫画から飛び出したみたいな光景。
「……俺は……未来の剣だ」
カイトはゆっくりと立ち上がり、剣を構えた。
その声は低く、力強く、そして不思議なほど優しい。
「愛の戦士だ」
「ちょ、ちょっとカイト!? セリフがキザすぎるよ!?」
「……文句は後で聞く」
魔王は思わず一歩退いた。
「ば、馬鹿な……! 何だその茶番じみた輝きは!?」
カイトの体からは、未来の魅力が変換された無敵のオーラが吹き荒れていた。
あまりのまぶしさに、魔王が顔をしかめる。
ボクは拳を握りしめ、涙を拭った。
「……やれる……! 今なら、絶対に!」
カイトが振り返り、一瞬だけ微笑んだ。
「未来。共に行くぞ」
「うんっ!」
二人の声が重なった瞬間、広間に新しい力が満ちていった。
◆◇◆
黄金に輝くカイトが一歩前へ踏み出す。
そのたびに床石が砕け、光の残滓が花びらみたいに舞い散る。
「……っ、まぶしっ!? なにこのビジュアル系のライブ!?」
ボクは思わず目を細めた。
カイトは剣を構え、静かに言い放つ。
「未来の愛を背に、俺は――絶対に倒す」
「か、カイト……やだ、なんかプロポーズみたいでキュンとしたぁ!」
(い、いけない! 今はそういう場面じゃない!)
魔王は声を震わせながら叫んだ。
「馬鹿な! 愛など力に変わるはずが――」
ズガァァァァァンッ!
言い終える前に、カイトの一閃が魔王の槍を弾き飛ばす。
黒鉄の穂先が宙を舞い、壁に突き刺さった。
「な……にぃ……!?」
魔王がよろめく。
「すごっ! 今の一撃、めちゃくちゃカッコよかった!」
ボクは思わず両手を合わせてキラキラした目で叫んだ。
「よぉぉし! だったらボクも全力でいくよ!」
両手を胸の前に組み、全魅力値を指先に集める。
頬が熱くなり、光がじわじわと体からあふれ出す。
(今のボクとカイトは繋がってるんだ。
だからボクが本気出せば出すほど強くなるはず。
なら、制御する必要はもうないっ!)
ボクはヴェールを脱ぎ捨て力を込める。
「必殺! 魅力値解放!! これがボクの魅力値10000の力だあああああっ!」
空間全体が甘い香りと光に包まれ、魔王の動きが一瞬止まる。
あまりに美しすぎて物質すらも動きを止めてしまう。
城全体が軋み、ボクに跪こうとしてしまう。
その隙にカイトが踏み込み、剣を高く掲げた。
「未来――合わせるぞ!」
「うんっ! ボクたちの……ラストアタック!」
二人の力が重なり合う。
光のハートが形を取り、剣にまとわりついた。
その剣は薔薇とハートに彩られた、ありえないくらいキラッキラの最終兵器に変わる。
「くらえぇぇぇっ! ビューティ・ラブスラッシュ!」
ズドォォォォォォォォォォンッッ!!
まばゆい光が一直線に魔王を貫き、背後の玉座ごと広間を吹き飛ばす。
轟音と共に衝撃波が走り、城壁が一瞬で崩壊していった。
「ぐわあああああああああっ!!」
魔王の絶叫が響き渡り、その姿は光の奔流に飲み込まれて――消えた。
◆◇◆
崩れゆく城の中、ボクとカイトは瓦礫の隙間から外へ飛び出した。
背後でドォォォンと大爆発が響き、魔王城は跡形もなく消えていく。
ボクは地面に膝をつき、荒い呼吸を繰り返した。
「はぁっ……はぁっ……や、やった……? 勝った……の?」
カイトが隣で剣を突き立て、静かにうなずく。
「……ああ。終わった」
ボクはその言葉を聞いて、涙が止まらなくなった。
「うぅ……カイトぉ……よかったぁぁぁ!」
感極まって飛びついたら、彼は一瞬驚いた顔をしたあと、ぎこちなく微笑んだ。
「……未来。よくやったな」
その笑顔に、また心臓がドキンと跳ねた。
(やば……これ、完全に恋に落ちてるやつじゃん!?)
でも――世界は救えた。
ボクとカイトの力で。
◆◇◆
魔王城が崩れ落ちたあと。
空を覆っていた黒雲は嘘みたいに晴れて、久しぶりに青空が広がった。
あの不気味な瘴気も消え去り、風は澄んで、草花がいっせいに芽吹き始める。
「……終わったんだね」
地面に腰を下ろして、ボクは空を見上げた。
体はピンピンしてるけど、精神的にはもう限界。
あんな大バトルのあとだもん、普通に泣き笑いしちゃうよね。
カイトは剣を鞘に収め、いつもと変わらない調子で言った。
「ああ。世界は救われた」
その声にちょっと安心して、胸がじんわり温かくなった。
(うん……ボク、やっぱりこの人がそばにいてくれてよかった……)
◆◇◆
数日後。
街に戻ったボクたちは、またしても大歓迎を受けた。
「女神さまだー!」
「魔王を倒した英雄だ!」
「ばんざーい!」
子どもから大人までわらわら集まってきて、道の両脇で旗を振ってる。
花びらが舞って、パレードみたいな騒ぎだ。
「ひぃぃ……また視線がぁぁ!」
慌ててヴェールを押さえながら、ボクは人の波をかき分ける。
「未来さん! 英雄譚は後世に語り継がれますよ!」
「女神のご加護で世界は救われました!」
「いや女神じゃないから! ただのモテたいボクだから!」
……でも誰も聞いてくれない。
カイトは無言で隣を歩いていたけど、口元がほんの少しだけ緩んでた。
(あ……この人、実はこういう大騒ぎちょっと嬉しいんじゃない?)
◆◇◆
ギルドに戻ると、受付嬢が涙目で迎えてくれた。
「未来さん……カイトさん……本当に、お疲れ様でした……!」
「うん、ありがと! でもね……」
ボクは胸を張って高らかに宣言する。
「これでボクは世界を救った大英雄! モテモテ人生まったなし!」
――と、思ったんだけど。
……なぜか。
女の子たちからは「未来ちゃん可愛い~!」と抱きつかれ、男冒険者たちからは「未来さんマジでやべぇ……」と引き気味に見られる。
「……あれ? なんで? なんで恋人ができないの!?」
「……当然だろう」
カイトが隣で淡々と突っ込む。
「ぐはっ! 世界を救ってもモテないとかそんなバカなぁぁぁ!」
空に向かって絶叫するボク。
その横で、カイトは小さくため息をついた――でもどこか優しげに。
こうして。
ただモテたいだけだったボクは、世界を救ったのに結局恋人はできず。
でも――隣には、あのストイックで頼れる剣士がいる。
それだけで。
ほんの少しだけ、満たされた気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
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この物語はこれにて完結となります。
またどこかでお会いできるのを楽しみにしております。
魅力極振りしたらモテるどころの騒ぎじゃなくなった ニイ @nii0714
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