第6話 初めての共同作業♡
カイトが仲間になってから一日。
ボクたちは早速、ギルドで「二人での初依頼」を受けることになった。
受付嬢のお姉さんが差し出した紙にはこう書かれている。
「街道に現れる群れ狼の退治」
「……狼? なんか、めっちゃ普通じゃない?」
ボクは首をかしげる。もっとドラゴン退治とか、魔王軍幹部をやっつけるとか、そういう派手な依頼を想像してたんだけど。
「新人パーティはこういう依頼からだ」
カイトは淡々と答える。
「大物を狩るより、人を守るほうが大事だ」
「うぅ~ん……まあ確かにそうかもだけど。
でもボクのビューティパワーなら、狼なんて秒でノックアウトだよ?」
「……問題はその“秒”の後だ」
「へ?」
「お前の場合、周囲がどうなるか読めん」
ぐっ……図星だった。
確かに、これまでの依頼は成功してるけど、毎回市場半壊とか森消滅とか副作用がデカすぎるんだよなぁ。
「ま、まぁ大丈夫! だって今日からはボク一人じゃなくて、カイトも一緒でしょ?」
「……俺の役目は被害を最小限に抑えることになりそうだな」
というわけで。
こうして、ボクとカイトの初めての共同冒険がスタートした。
◆◇◆
森へ向かう街道を歩きながら、ボクはテンション高めでカイトに質問をぶつけまくっていた。
「ねぇねぇ、カイトって目見えてないのにどうやって歩いてるの?
ボクなんか段差ですぐコケちゃうのに」
「……気配を読むだけだ」
「気配読むって……レーダーみたいな? ピコーン!って感じ?
それとも第六感? いや、まさかエスパー……?」
「説明しても理解できまい」
「ひどっ!? バカ扱いされた!?」
カイトは無言で前を進む。
……無表情、無口、無愛想。三拍子そろったクールガイだ。
でも余計に質問したくなるんだよね。
「じゃあさ、恋人とかいたりした? 盲目の剣士ってけっこうモテそうじゃん?」
「いない」
「即答ぅ!?」
「俺は魔王を討つために剣を研いできた。色恋にかまける暇などなかった」
「えぇぇ……人生損してるよ! ボクなんて恋がしたくて転生してきたのに!」
「……世界を救うより恋が優先なのか」
「もちろん! だって世界は誰かがどうにかしてくれるけど、恋はボクがしないとできないもん!」
「……災害の自覚はあるのか?」
「ないし! 歩く美少女って呼んで!」
カイトは小さくため息をつきながらも、ほんのわずか口元が緩んだ気がした。
(あ、今笑った? 絶対笑ったでしょ!? ねぇねぇ!)
……もちろん、本人は最後まで無表情を貫いていたけど。
こうしてボクたちはわちゃわちゃ言い合いながら、目的の森へとたどり着いた。
◆◇◆
森の奥で、低い唸り声が響いた。
「グルルルル……!」
木々の間から黄色い目がぞろぞろ。
数えるのも面倒なくらいの狼の群れが、牙をむいてこっちを取り囲んでいた。
「よし、きた! 依頼モンスター登場!」
ボクは勢いよく一歩前に出る。
「ここはボクに任せて!」
「……やりすぎるな」
背後からカイトの低い声。
「だいじょーぶ! 狼なんて秒でノックアウトだよ!」
そう言って、ボクは腕を高々と掲げて――。
「必殺! ビューティ・ウルフクラッシャー!!」
ビシッとポーズを決める。
その瞬間、衝撃波みたいな光が弾けて、何匹かの狼は白目を剥いて吹っ飛んだ。
「ふふん、どうよ! さすがボク!」
そう、ドヤ顔したその時だった。
「――ッ!」
横合いから一匹、飛びかかってきてた!
他の奴に気を取られて、完全に死角から!
「きゃっ!?」
思わず尻もち。牙がすぐそこまで迫ってくる。
(や、やば……! 食べられる!?)
ズシャァッ!
次の瞬間、狼の首筋に閃光が走った。
カイトが間に割って入り、見事な一閃で狼を地面に沈めたのだ。
残りの群れも、彼が迷いなく斬り払う。
目が見えてないなんて信じられない。動きは無駄ひとつなくて、狼たちは次々と地に伏していく。
ボクは地面に座り込んだまま、その背中をぽかーんと見上げてしまった。
「は?……かっこよ……」
思わず声が漏れちゃって、自分で慌てて口を押さえる。
な、なに言ってんのボク!? これは惚れたとかじゃなくて!えっと……ただ、演出がかっこよかったっていうか……!
カイトは振り返り、無表情のまま手を差し伸べてきた。
「立てるか」
「……っ、う、うん!」
顔が熱いのを隠しながら、その手を掴んで立ち上がる。
彼の掌は固くて、剣を握り続けてきた人の手だった。
「……自分の力に溺れるな」
「う……うん……」
そう言われただけなのに、なんか心臓がドキドキ止まらなくて。
――ちょっと待って、これって。
ボク……ほんとに惚れてないよね!?
◆◇◆
「ふぅ~~、依頼達成っと!」
狼の耳を袋に詰め込みながら、ボクは胸を張った。
カイトは横で淡々と剣を拭いている。汗ひとつかいてない。……いや、ボクなんて転びかけて助けられたんだけど。うぅ、格好つけ損ねた。
ギルドに戻ると、受付嬢のお姉さんが目をまん丸にした。
「えっ……無事に、依頼を達成されたんですか?」
「もちのロン! ほら!」
ボクは耳入りの袋をドンとカウンターに置いた。
「……本当に……成功……」
周囲の冒険者たちもざわめく。
「マジかよ、未来ちゃんが依頼こなした!?」
「いや、こなすのはいつもだけど……今回は被害報告がない……?」
ボクは胸を張ってドヤ顔。
「でしょでしょ? 今日のボクは一味違うんだよ!」
……そのとき、受付嬢の視線がカイトに移った。
「カイトさん……ありがとうございます。本当にあなたのおかげです」
「……俺は当然のことをしたまでだ」
淡々と答えるカイト。
でも受付嬢は真剣そのものだった。
「これからも未来さんを……どうか見張ってください」
「ちょっとぉ!? 見張るって言い方ひどくない!?」
ボクは慌てて割り込む。
「ボクだって本気出せば、やれるときはやれるんだからね!?」
「……転んで助けられたのは誰だ」
「うっ……!」
図星すぎて反論できなかった。
ギルド職員も周囲の冒険者も、みんなカイトに「頼んだぞ」って目を向けてる。
……なんで!? 主役はボクなのに!?
「ま、まぁいいけどね!仲間の手柄はボクの手柄だから」
胸を張ってそう言ったら、カイトが小さくため息をついた。
「……仲間というより、保護対象だな」
「失礼な! こんな美少女捕まえて!」
ギルドに笑い声が広がる中、ボクはちょっとだけ頬をふくらませていた。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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