第5話 見えなければどうということはない

あれからボクはいくつかの依頼をこなしながら生活をしている。

失敗は一度もない。ないけど……毎回、周りは大惨事だ。

倒れてる冒険者やら町人やらを見て、ギルドの人は「結果オーライだから……」と無理やり笑顔を浮かべてた。


「はぁ……ボクにも必要なのかもしれない」


そう、仲間!

一緒に冒険できる仲間がいれば、ボクの暴走も少しはマシになるかもしれない。


「どっかに魅了完全無効の人とかいないかな~」


半分冗談、半分本気でつぶやいたその時。


「――ここにいる」


背後から、低く落ち着いた声が響いた。

振り返ると、そこに立っていたのは黒い布で両目を覆った青年。年の頃は20代後半くらい。

体中に刻まれた無数の傷跡が、彼の人生がただの冒険者ではないことを雄弁に物語っていた。


「え、誰!? ってかいきなり背後に立つのやめてよ!ボク心臓飛び出すかと思ったんだから!」


「俺の名はカイト。……剣士だ」


「名前より肩書のほうが雑ぅ!?」


ボクがジタバタするのをよそに、彼は静かにボクの方へ歩み寄る。

その目は見えていないはずなのに、まっすぐボクを射抜いてくるみたいだった。


「お前の力……噂は聞いた。人ならざる美で敵をなぎ倒す、と」


「え、なにそれ恥ずかしい!」


カイトは無表情のまま、続ける。


「俺はかつて、戦いで目を失った。だがその代わり、力の気配を読む術を得た。……お前の力は、俺が感じた中で最も異質で強大だ」


「ふ、ふぉぉ……!なんか真剣に褒められてる……!」


「未来。俺と共にいかないか」


「えぇ!? ボクそんないきなり誘われても困るんですけど」


カイトは動じない。

まるでボクの抗議なんて初めから想定済み、って顔。


「お前の力は、俺の剣と合わされば必ず魔王を討てる」


「……なにそれカッコイイ。ボク、こういうシリアスな口説き文句に弱いんだよね……」


気づけば、ボクは頬を赤らめていた。

いやいや違う違う!これは恋とかじゃなくて!ただカイトさんがクールすぎるだけだから!


「決まりだな」


「ちょ、勝手に決めないで!」


そのやり取りをしながら二人で街を歩き始める。

会話に夢中になってテンションが上がると周囲に花が咲いてしまう。

ボクが歩いた道はお花畑だ。


「……お前、歩く災害か」


「失礼な!歩く美少女って呼んで!」


カイトの口元が、ほんの一瞬だけわずかに動いた気がした。

……あれ?今、笑った?



◆◇◆


といってもボクの相棒枠はそんなに安くはない。

勿論テストはするよ。


ギルド裏の模擬戦場。

ぐるっと石畳に囲まれた円形広場は、まさに「決闘どうぞ!」って雰囲気。

観客もちゃっかり集まってきちゃってるし。


カイトさんは静かに剣を構えてた。目は閉じてるのに、なんか全身からピリピリする圧が伝わってくるんだよね。


「ここなら安全だ。さぁ……君の実力を見せてもらおう」


「ふっふーん! 言っとくけどボク、この体美しすぎて普通の攻撃じゃ傷一つつかないんだからね!」


……って、かっこよく言ったつもりだったんだけど、観客席から「また壊れるぞ……」「修理費どうすんだ」って声がして、一瞬だけ心がズキッとした。縁起でもないこと言わないでよ!



◆◇◆



「始めッ!」


合図と同時に、カイトさんがすごい速さで踏み込んできた。


シャキンッ! 剣の風圧が頬をかすめて髪がぶわっと舞い上がる。

「ひぃっ!? ちょ、ちょっと普通に強いんだけど!?」


「……見えていなくても、力は感じられる。君ほど大きな力であれば容易だ」


って、めちゃくちゃ落ち着いて言ってるし!


(や、やばいやば……! 今までみたいに無双できない感じ!?)


観客たちも「すげぇ!」「未来ちゃんと互角だ!」ってざわついてるし……。え、ちょっと待って? ボク、そんな真剣勝負する気なかったんだけど!?



◆◇◆



「くぅ~~~っ、もうっ! いいよ! 本気出すからね!」


ボクはくるりとターンして、人差し指と中指を唇にセットする。


「見せてあげるよ! ボクの――

 魅力値500投げキッスを!!」


この投げキッスは目が見えていようと見えてなかろうと関係ない。

一瞬で虜だ。


バシュウウウッ!

指先から光があふれ出して、キラキラ花びらみたいなエフェクトが空中を舞う。

放たれたハートは以前のモノとは比べ物にならないほど大きくそして輝いていた。

その瞬間、光に当てられた観客席がドミノ倒しのように崩れていった。


「うわ、まぶしっ!」「ぐわあああ! ありがたやぁぁ……!」


鼻血を噴いて倒れていく冒険者たち。

ギルド職員が「やめろォォォ!」って叫んでるけど、もう遅い!



◆◇◆



模擬戦場は見るも無残な有様だった。

石畳はバキバキ、壁はボロボロ、観客は半分以上失神。ギルド職員は白目むきながら「修理費……修理費……」ってつぶやいてる。


ボクはと言えば、へたり込みながらもまだどや顔をキープしていた。

「ど、どうよ? ボクの投げキッス……! 世界最強だよね!」


……でもその場に立ってたのは、カイトさんだけだった。


「……とんでもない力だな」

カイトさんは息を整えながらも、真剣な顔でボクを見てきた。


「普通なら……こんな破壊力、持て余すだけで終わる。けど君は違う。制御は甘いが……確かに世界を揺るがせる力を持っている」


「えへへ~、そう? やっぱりわかっちゃった?」


って、素直に喜んだ瞬間。


「だが金銭感覚は皆無だな」


と冷静に突っ込まれた。


うっ……ギルドの職員に修理費を請求されてる今言われると、グサッとくるんだけど。



◆◇◆



「さっきも言ったが俺は魔王を討つために旅をしている」

「え、魔王? まだ生きてたの?」

「……魔王がこの世界を脅かしていることすら知らないのか」

「え、ボクこの間が買い物デビューだったんだよ? 世界情勢なんてわかるわけないじゃん!」


カイトさんは額に手を当ててため息をついた。


「……俺一人では届かぬ相手だ。だが、君となら、あるいは……」


「ちょ、ちょっと待って!」


ボクは慌てて手を振る。


「やっぱり仲間にしたいとかそういう流れ!? いやボクもね、仲間欲しいなぁとは思ってたけどさ、ボクの力、わりと人類に迷惑かけちゃうんだよ!?」


「俺は迷惑など受けん」


カイトさんは剣を軽く振り、舞った石片を正確に切り落とした。


「目は見えんが、余計な幻惑には惑わされない。君の“魅了”も通じない」


……え、それ、最強の相性じゃない!?



◆◇◆



「えっと……じゃあ、カイトさん」


「カイトでいい」


「じゃあカイト! 今日からボクと一緒に世界を救う仲間になってよ!」


「……承知した」


カイトが頷いた瞬間、観客席から「おおおおお!」と歓声があがった。

……いや、まだ半分くらい失神してるけど。


ギルド職員が頭を抱えながら「修理費……修理費どうするんだ……」って泣いてたけど、それは後で考えよう。


とにかく、ボクに初めての仲間ができたんだ!


「やったぁ! これでパーティ名は『ビューティ&ビースト』だね!」


「……どちらがビーストだ」


「もちろんカイト!」


「……」


無言で剣を肩に担いで歩き出すカイト。

あ、これちょっと怒ってるかも?


でもいいんだ。だってこれからは、ボク一人じゃないんだもん!






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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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