第4話 圧倒的っ!!な初任務
市場での大騒ぎから数日後。
ボクはまたギルドのカウンター前に立っていた。
「……ミライさん。今度は、軽めの依頼にしましょうか」
受付嬢のお姉さんが、ちょっと引きつった笑顔で紙を差し出す。
内容は——近くの森に巣食ったゴブリン退治。
「えっ、ゴブリン? めっちゃ初心者向けじゃん!」
ボクは即座に受け取って、胸を張った。
本来なら駆け出し冒険者が仲間を募って挑むような、訓練兼実戦の依頼。
でも受付嬢の目は「お願いだから無茶だけはしないで……」と強く訴えていた。
「安心して! ボク、前よりずっとコントロールできるから!」
——もちろん自信満々なのはボクだけだ。
◆◇◆
森へ向かう道は緑が濃くて、日差しが木々の間からきらきら差し込んでいる。
小鳥の声、風のざわめき。いい感じのファンタジー散歩コースだ。
「これで依頼達成したら……ギルドでの評価も上がるよね! いや、もうボクの人気は止まらない〜」
そんな能天気な妄想をしながら歩いていくと、やがて前方にざわざわとした気配が漂ってきた。
木の陰から覗くと、そこには——
「うわ……めっちゃいる!」
小さな体で武器を振り回すゴブリンたち。十体、二十体……数えるのも面倒なくらい。
しかもその群れの中心には、一際大きな影があった。
筋肉で盛り上がった巨体、粗末な王冠を頭に載せたやつまで。
「……え、なんか大物まで混じってない!?」
普通なら緊急依頼級の大物だろう。
でもボクは数秒後にはにやりと笑っていた。
「ま、いっか。むしろ株が上がるチャンス!」
ヴェールをきゅっと直して、一歩前へ。
いよいよ、ボクの初・実戦ショータイムの始まりだ。
◆◇◆
ゴブリンの群れが、こちらに気づいた。
ぎゃあぎゃあと下品に笑いながら、粗末な槍や棍棒を振り回す。
その奥で、キングゴブリンが唸り声を上げた。
「グゴォォ……!」
森が揺れるほどの咆哮に、普通の冒険者なら腰を抜かすところだろう。
けどボクは——。
「ふふん。見せてあげる……ボクの新技を!」
ヴェールがはがれる恐れのない技を思いついたのだ。
ボクくらいの魅力値なら決めポーズを決めるだけで悩殺できるんじゃないかと。
相手は魔物だ。遠慮なんかいらないよね。
両足を軽く広げ、腰に手を当てる。
もう片方の手はゆるりと髪をかき上げ、斜めに視線を落とす。
うっふん。
現実世界では少し痛々しいポーズだろう。
けれど――
「ッ——!」
次の瞬間、空気が震えた。
森中の木々がざわめき、地面がびりびりと痺れる。
眩い光がボクの周囲から放射状に広がり、あたり一帯を白く染めていく。
「グギャアアアアア!?」
ゴブリンたちは次々と武器を落とし、悲鳴を上げながら地面に転げ回る。
その中心にいたキングゴブリンでさえ、必死に耐えようとしたが——。
「グッ……グゴゴ……」
数秒後には白目を剥き、どしんと大地に崩れ落ちた。
どおおおんっ!
衝撃波が広がり、森の木々が次々と倒れていく。
葉が吹き飛び、獣たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
気がつけば、さっきまで鬱蒼と茂っていた森は——。
まるで神殿前の広場みたいに、一面すっからかん。
その中心には、光の余波で自然と形作られた虹がかかっている。
「……よしっ!完璧っ!」
腰に手を当てたまま、にんまり笑うボク。
ゴブリンの死体もなく、全部きれいに気絶。
依頼は達成、しかも“おまけ”つきだ。
「どーんなもんだい!」
満足げに胸を張るボクの足元には、気絶したゴブリンと崩れ落ちたキング。
そして周囲には、もう森の面影すらなかった。
◆◇◆
森からの帰り道。
ヴェールを直しながら、ボクは鼻歌まじりに歩いていた。
「いや〜、完璧だったね! あんなにゴブリンがいたのに、ボクの決めポーズ一撃で全員沈黙!
はぁ〜、やっぱりビューティパワーは最強だなぁ〜」
……ただ、ちょっと気になるのは森がほとんど更地になったことくらいだ。
まぁ依頼には「ゴブリンを退治」としか書いてないし、「森を守れ」とは一言も書いてなかった。セーフセーフ。
◆◇◆
ボクはちょっと寄り道して帰ると
ざわっ……と空気が揺れた。
さっきまで酒を飲んでいた冒険者たちが、みんなボクを見て口をぽかんと開けている。
「あれが……一人でゴブリンの群れを潰した新人か……」
「キングゴブリンまで居たって話だぞ」
「森が消えたってのは本当か?」
「どこまでが本当か?」
あっという間に噂が駆け巡っていたようで、視線が集まる。
ボクは胸を張って、カウンターにドンと依頼書を置いた。
「ゴブリン退治、完了しましたっ!」
受付嬢のお姉さんは、硬直した顔で紙を受け取り、震える声で確認する。
「……え、ええと……本当なんですね……?」
「もちろん! ほら、証拠の耳!」
ボクはポーチを開け、ゴブリンの耳をぞろぞろと机に積み上げた。
キングの分はやたらでかくて、机からはみ出すほどだ。
「……間違いなく、達成ですね」
その瞬間——。
「「「おおおおおおっ!!」」」
広間が歓声で沸き立った。
「すげぇぞ!」「さすが女神様だぜ!」
気がつけば、冒険者たちがわらわらと寄ってきて、肩を叩かれたり手を握られたり。
「す、すごいよ未来さん!」「一緒に組んでくれ!」
「ボクのパーティにぜひ!」
わーっ、囲まれてる……!
いやいや、そんなことよりボクがほしいのは友達や恋人!
でもこれ、方向性がなんか違う……?
でもまあ、貰えるもんはもらっとくか。
胸を張って決め台詞を叫ぶ。
「ボクの名前は未来! このビューティパワーで、みんなを守っちゃうぞ☆」
……数秒後、魅力がちょっと漏れ出してしまい、広間にいた男冒険者の半分が同時に鼻血を噴いて倒れた。
「……またやっちゃった」
未来の嘆きは、今日もギルドの床に響き渡った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
もしよろしければ、「応援」や「コメント」などいただけると励みになります。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます