第2話 畜生、こいつ魅力を自在に操りやがる!!
あれから数日。
村の広場に突然できた「神殿」を背に、ボクは一目散に逃げ出した。
「……やっば……ほんとやっば……」
人のいない林の中で、ボクはヴェールを握りしめながら肩で息をしていた。
だってあのとき、ちょっと顔を見せただけで、村が“宗教施設”に早変わりしたんだよ?
村人全員、女神女神って拝んでくるし……もうどう考えても、恋どころじゃない。
「……これでわかった。絶対、ヴェールは外しちゃだめだ」
心に固く誓った。
顔を晒せば、普通の会話すらできない。そんなの、ボクが一番よく知ってる。
でも——冒険者になる夢は譲れない。ハーレムを作るためにはまず、冒険者として名を上げなきゃ。
だからボクは、しっかりヴェールを被ったまま村を出て、次の町へ向かった。
そこには冒険者ギルドがあるらしい。登録すれば、正式に冒険者になれる。
ボクの「モテモテ異世界ライフ」計画は、そこから始まるんだ!
大通りに面した石造りの建物。扉を押し開けると、酒と革の匂いが入り混じった空気が広がる。
中には鎧やローブに身を包んだ人々がざわざわと集まっていて、いかにも「冒険者の集会場」って雰囲気。
「わぁ……本物の冒険者ギルドだ!」
ボクは胸を高鳴らせながら、カウンターに向かった。
ここからボクの冒険者デビューが始まるんだ——そう信じて。
◆◇◆
カウンターの奥に座っていたのは、ちょっと眠たそうな顔をした受付嬢だった。
髪を後ろで束ね、帳簿をめくっている。ボクが近づくと、ぱっと顔を上げてにこやかに笑った。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。新規登録ですね?」
「は、はいっ! ボク、未来っていいます!」
名前を書き込み、手続きを進める。
受付嬢が差し出したのは、薄い石板みたいなカード。そこにボクが手をかざすと、光が走って自動的に情報が刻まれていく。
「では、スキルを確認しますね……」
受付嬢の目が、途中で止まった。まばたきが増える。
それから、ほんの少し言いにくそうな声で。
「……ええと、確認できるスキルは一つだけのようです」
「へぇ、そうなんだ。どんなの?」
石板を覗き込むと、そこに浮かび上がっていたのは——
《Goddess of Beauty》
「ゴッデス……オブ……ビューティ……?」
ボクがつぶやいた瞬間、背後で笑い声が弾けた。
「おいおい、聞いたか? “美の女神”だってよ!」
「ぷははっ! 冒険者志望が色気でどうする!」
「しかもスキル一個だけとか終わってんな!」
酒場のような雰囲気のギルドホールに、ざわざわと失笑が広がっていく。
ボクは思わず耳まで真っ赤にした。
「ち、違うし! 別に変なスキルじゃないもん!」
だけど、笑いは止まらない。
「顔隠してるくせに、美の女神って……自虐か?」
「せめて剣術とか魔法に振っとけばよかったのになぁ!」
——カチン、と来た。
「……言ったね」
ボクはぎゅっと拳を握った。
胸の奥に、さっきまでのワクワクとは違う熱が湧いてくる。
「じゃあ、見せてあげる。ボクのスキルの力を」
受付嬢が慌てて声を上げる。
「ちょっ、ちょっと! ギルド内での私闘は禁止されてます!」
「心配いらないよ。ちょっと実演するだけだから!」
ボクは、ボクを馬鹿にした先輩冒険者の一人を指差した。
鎧姿で腕組みして笑っている、いかにも「ベテラン」って顔の男だ。
「そこのキミ、付き合ってよ。広場に出よう」
「はぁ? 面白ぇじゃねぇか。後で泣くなよ?」
野次馬をぞろぞろ引き連れ、ボクたちはギルドを出て広場へ向かった。
◆◇◆
広場に着くと、すでに周囲は野次馬でいっぱいになっていた。
「なんだなんだ」「喧嘩か?」「いや、スキル実演だってよ」
好奇心に駆られた冒険者や町人たちがぞろぞろ集まり、ちょっとした見世物みたいになっている。
ボクは深呼吸して、ヴェールの位置をしっかり直した。
——絶対に外さない。これだけは肝に銘じる。
でも、力を見せるぐらいならヴェールを被ったままでも大丈夫。数日間の“自主練”で、それはもう確認済みだ。
「……見せてあげる。ボクのビューティパワーを!」
人差し指と中指を額に当て、意識を集中する。
指先に光が集まり始めた。胸の奥からあふれ出すのは、確かに「魅力」という力。理屈はわからないけど、直感で理解できる。これは数値でコントロールできるんだ。
「10……20……30……」
地面に亀裂が走り、空気が甘く震える。見ている人々の頬が赤く染まり、野次馬のひとりは思わず両手を合わせて拝みかけた。
——そうそう! ボクの好きなバトル漫画にもこういうシーンあったんだ。
指先に集中して力を溜めるやつ!
「……50……70……90……」
先輩冒険者が一歩下がる。
「な、なんだこの圧……!」
周囲はざわつき、誰もがごくりと息を飲む。
ボクは口元をゆるめた。いいね、ここであのセリフを言われれば完璧。
「畜生! こいつ力を自在に操りやがる!」
ってね。
「くらえっ! 魅力値100っ! 投げキッスッ!!」
勢いよく指先で唇を弾き、空にキスを飛ばす。
その瞬間、巨大なハート型の光弾が実体化し、ふわりと飛んで先輩冒険者の胸に直撃した。
「ぐっ……うぉぉ……」
先輩冒険者は必死に耐えようとしたけれど、数秒後に膝から崩れ落ち、真っ赤な顔で意識を失う。
広場は一瞬の静寂ののち、爆発したみたいにどよめいた。
「うそだろ……!」「気絶したぞ!」「ただの投げキッスで!?」
ボクは胸を張り、どや顔で宣言する。
「どーんなもんだい!」
その瞬間——。
体の奥から、ズズズ……といやな感覚が広がった。
あ、やば……さっきの反動だ!
制御しきれなかった魅力があふれ出し、ヴェールの隙間から漏れ出す。
広場にいた野次馬たちの視線が一斉に揺らぎ、次々と気絶して地面に倒れていった。
「ちょ、ちょっと待って! みんな!?」
誰も答えない。広場は、またもや死屍累々の光景。
ボクは額に手を当てて、小さくため息をつく。
「……またやっちゃった」
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