農家育ちだけど勇者目指す

匿名AI共創作家・春

第1話

村の御伽噺は、農家の少年アルフにとって、何よりの道標だった。

​『伝説の勇者は、まず小さな冒険から始めた。はじめての敵は、森に現れる一匹のスライムだった……』

​アルフは、毎朝畑仕事が終わると、その御伽噺の一節を胸に、木の棒を片手に森の入り口へ向かった。彼の村は平和で、剣や魔法とは無縁の場所だ。だから、アル伽の戦う相手はいつも同じ。

​ぷるぷると震える青いジェル状の体、つぶらな瞳。

村の畑を荒らす、厄介者。

​「よう、スライム!今日は決着をつけてやるぞ!」

​アルフは木の棒を構えるが、スライムは軽やかに跳ね、彼の攻撃をかわす。御伽噺の英雄は一撃で倒したというのに、アルフはいつも泥まみれになり、ボロボロになって帰ってくる。

​それでもアルフは諦めなかった。

​「父ちゃん、今日のスライムは手強かったよ!でも、あとちょっとで……」

​「アルフ、明日はジャガイモの種まきだ。御伽噺もいいが、現実を見ろ」

​父親はそう言って笑う。アルフの夢を否定するわけではないが、農家にとって、来年の収穫こそが英雄譚なのだ。

​アルフは分かっていた。自分は特別ではない。魔法の力もなく、剣の才能もない。ただの農家の少年だ。それでも、御伽噺の英雄のように、いつかこの平凡な日々を変えるような、壮大な旅に出たいと願っていた。

​そんなある日、アルフはいつものようにスライムに敗れ、ぼんやりと空を見上げていた。

​──世界を変える英雄譚は、きっと村の外にある。

​そう信じていたアルフの頭上を、奇妙な三つの影が通り過ぎていった。一つは猫の耳、一つは尖ったエルフの耳、そして一つは竜の角。

​それが、彼の日常が終わりを告げる、小さな前触れだとは、まだ知る由もなかった。

アルフは、ある日突然、雷に打たれたような衝撃を受けた。

​「そうか、僕が弱いんじゃない。戦い方が、違うんだ!」

​彼は木の棒を握りしめ、改めてスライムと対峙した。スライムは相変わらずぷるぷると跳ね、アルフの攻撃を軽々とかわす。この単純な事実に、彼は決定的な答えを見出した。御伽噺の英雄は、木の棒など使っていなかった。彼らが手にしていたのは、紛れもなく「剣」だったのだ。

​英雄になるためには、まず「英雄の職業」に就く必要がある。アルフはそう結論づけ、なけなしのお小遣いを握りしめて、村の中心部にある小さな道場へと向かった。

​道場の師範は、かつて王都で活躍したという引退した騎士だった。彼は、アルフの差し出す少額のお金と、その真剣な眼差しを見て、目を細めた。

​「英雄になりたい、か。この村の農家の小倅がな」

​師範はそう呟くと、古びた木剣をアルフに手渡した。

​「いいか、見習い剣士に転職したからといって、すぐに英雄になれると思うな。剣士の道は、地道な基礎練が全てだ」

​次の日から、アルフの生活は一変した。朝早くから畑仕事を手伝い、昼は道場でひたすら木剣を振る。御伽噺に出てくるような華々しい技を教わるわけではなく、教わるのは足運び、素振り、そして姿勢といった、地味で退屈なことばかりだった。

​それでもアルフは、毎日欠かさず道場に通った。農作業で培った根気強さだけが、彼の唯一の武器だった。御伽噺の英雄のように、一撃でスライムを倒せるようになる日を夢見て、アルフは木剣を振り続けた。

​そして、師範が見ていないところで、こっそりと一人で森に入り、新しい戦い方をスライム相手に試す日々が始まった。御伽噺の英雄に近づこうと、アルフは必死だった。だが、まだ彼は気づいていなかった。彼が「英雄」になるための道は、彼が思っているような、単純なものではないということを。


​アルフは、師範の道場での修練と、畑でのスライムとの戦いを続けるうちに、ひとつのことに気づいた。

​「英雄譚の英雄は、いつも一人じゃない」

​御伽噺を思い出せば、どんな勇者にも、魔法使いや戦士、賢者といった仲間がいた。彼がどれだけ木剣を振っても、たった一人で世界を救うことなどできない。

​旅には、仲間が必要だ。

​アルフは、見習い剣士として貯めたわずかなお金を手に、村に一軒しかない小さな酒場へと足を踏み入れた。昼間から数人の旅人が酒を酌み交わしている。アルフは緊張しながらも、酒場のマスターに声をかけた。

​「あの、すみません……。ここに、仲間を募集する張り紙を貼らせてもらえませんか?」

​マスターは、アルフの少し泥まみれになった見習い剣士の服と、その真剣な眼差しをじっと見つめた。

​「仲間、ねぇ。ここは平和な村だ。お前さんの仲間になって、どこへ行くんだい?」

​「……世界を変える、英雄の旅に、です」

​アルフの答えに、マスターは静かに笑った。

​「面白いね。いいだろう。だが、ただの募集じゃ誰も見向きもしない。お前さんの旅の『特性』を、しっかり書きな」

​アルフはマスターの言葉に頷き、酒場の隅に置かれた紙とペンを借りた。

​『仲間募集! 英雄になる旅へ!』

​そこまでは、すぐに書けた。しかし、旅の「特性」とは何だろう? 彼は剣士の見習いで、スライムにすら勝てない。魔法も使えないし、お金もない。

​アルフは悩んだ。そして、これまで自分がしてきたことを思い出した。

​地道な畑仕事。誰も見ていない木剣の素振り。何度も跳ね返されても、決して諦めなかったスライムとの戦い。

​彼は、震える手で文字を書き加えた。

​『——この旅は、地味で、退屈で、泥まみれになるかもしれません。でも、決して諦めません!』

​アルフが書いたその張り紙は、どこか他の勇者の募集とは違う、不思議な魅力を放っていた。この張り紙が、これから彼の人生を変える、三人の奇妙な仲間を引き寄せることになるとは、まだ彼は知らなかった。


午後もとうに過ぎた頃、村に一軒しかない酒場に、奇妙な三つの影が吸い込まれるように入ってきた。

​「にゃーん、腹減ったにゃん……」

​猫耳の少女、ネル・アスラは、カウンターに頬杖をつき、ぐったりとしていた。盗賊王の娘として培ったのは、隠密行動や鍵開けの技術ではなく、獲物を待ち伏せる忍耐力……ではなく、ひたすらサボる才能だった。

​「わたくし、もう限界ですわ!このような薄汚れた酒場に長居することは、わたくしの美貌を損ないます!ティータイムは、まだですの!?」

​豪華なドレスをまとったエルフの少女、ミラ・テレスは、そう言ってマスターに高飛車に詰め寄る。大魔法使いの娘として、彼女が極めたのは攻撃魔法でも防御魔法でもない。美しい花を咲かせるための魔法、そして、完璧な茶葉を淹れるための魔法だけだった。

​「まあまあ、お二人とも。焦ることはないッス。これも、新たな英雄譚の序章ッスよ!」

​竜の角を持つ吟遊詩人、ザビエラ・ミラーは、手に持ったノートに何事か書きつけながら、のんびりと笑った。彼女は、偉大な盾騎士の娘だが、その肉体は鍛え上げられていない。代わりに、無駄に達筆な字で、誰も読まない物語を綴っていた。

​「英雄譚にゃんて、どうでもいいにゃん。お小遣い稼ぎに来たのに、仕事もないにゃん……」

​ネルが不満げに言った。すると、マスターがため息をつきながら、壁の張り紙を指差した。

​「ほら、お前たちにぴったりな仕事があるぜ。見てみな」

​三人は顔を見合わせ、言われるがままに壁の張り紙を覗き込んだ。

​『仲間募集! 英雄になる旅へ!』

​「英雄、か。また、どこかの馬鹿が妄想してるッスね」

​ザビエラがノートにペンを走らせる。

​『無駄に大言壮語な農家の小倅、新たな物語のプロローグ』

​と。

​「でも、その下見てくださいですわ!『地味で、退屈で、泥まみれになるかもしれません』って……この馬鹿正直さ、逆に新鮮ですわね」

​ミラは眉をひそめながらも、少し興味を引かれたようだ。

​ネルは張り紙を指でつつき、目を丸くした。

​「にゃんてことだにゃん……!英雄になる旅なのに、遊び要素ゼロじゃないにゃんか!こんなの、ぜーったい面白くないにゃん!」

​三人のリアクションは、バラバラだった。

ザビエラは物語の素材として。

ミラは、その言葉の正直さに。

ネルは、そのつまらなさに。

​それぞれの動機は違えども、この一枚の張り紙が、彼らの心を奇妙な形で惹きつけた。

​「よし、決まったッス!」

​ザビエラがノートを閉じ、パンと手を叩いた。

​「この地味で、退屈で、泥まみれの英雄譚を、アッシが華々しく語り直してやるッス!」

​ミラがフフンと鼻を鳴らした。

​「結構ですわ。わたくしが、この地味な旅を、華麗な舞踏で彩って差し上げますわ」

​ネルだけは、不服そうに口を尖らせていた。

​「あたしは嫌にゃん!でも、この退屈な張り紙をどうやって面白くできるか、ちょっとだけ興味があるにゃん……」

​こうして、三人の「逸脱者」たちは、それぞれ異なる目的を抱きながら、英雄を夢見る農家の少年との出会いを決意した。それは、この世界の英雄譚そのものを、ドタバカに、そして哲学的に書き換えていく、最初の第一歩だった。


「この旅は、地味で、退屈で、泥まみれになるかもしれません。でも、決して諦めません!」

​そう書き終えた張り紙を、アルフは酒場の壁に貼り付けた。誰も見向きもしないかもしれない。でも、これでいい。ありのままの自分を伝えられれば、きっといつか、本当の仲間が見つかるはずだ。

​その日、アルフはいつもより少しだけ胸を張って家路についた。

​翌日。

​朝早くから畑仕事に精を出し、昼は道場で木剣を振る。そして夕方、今日もダメだったかと諦めかけていたその時だった。道場の入り口に、三人の人影が立っていた。

​ひとりは猫の耳を持つ少女。もうひとりは、豪華なドレスをまとったエルフ。そして最後は、巨大な竜の角を持つ少女。

​「あんたが、この張り紙を貼ったアルフにゃん?」

​猫耳の少女が、興味なさそうに言った。アルフは、彼女たちの奇妙な組み合わせに戸惑いながらも、素直に頷いた。

​「はい、僕がアルフです。あの、もしかして、仲間を探している旅人の方ですか?」

​すると、竜人の少女がノートを片手に前に出た。

​「アッシは吟遊詩人のザビエラ・ミラーッス! そしてこっちが、ミラ・テレスとおっしゃるエルフのお嬢様で、そっちが猫獣人のネル・アスラッス!」

​「わたくし、このような田舎の道場に立ち入ることは滅多にないのですわ。ですが、あなたの言葉の『地味さ』と『退屈さ』に、なぜか惹かれてしまいましたの」

​ミラが優雅にスカートを持ち上げながら言った。

​「にゃんてことだにゃん、この旅はぜーったい面白くないにゃん。でも、この『つまんなそう』な感じ、逆に新鮮で、あたしの遊び人としての才能が試される気がするにゃん!」

​ネルがだらけきった様子で、しかしどこか目を輝かせながら言った。

​アルフは、三人のあまりにも不思議な雰囲気に圧倒された。御伽噺の英雄の仲間は、もっと力強くて、頼りになるはずだ。この三人は、どこか危なっかしくて、まるで遊びに来ているかのようだった。

​「あの、皆さん……本当に、僕の仲間になってくれるんですか?」

​アルフの問いに、三人は顔を見合わせて笑った。

​「もちろんですわ!この旅が、どれだけ地味で退屈か、この目で確かめて差し上げますわ!」

​「アッシのペンが、この地味な旅を壮大な物語に仕上げてみせるッス!」

​「つまんなかったら、すぐに帰るにゃん」

​それぞれ勝手なことを言いながら、三人はアルフの前に並んだ。

​アルフは、手に持った木剣をぎゅっと握りしめた。これが、御伽噺の英雄が歩んだ道なのか? 地道な努力と、どこか突拍子もない仲間たち。

​彼の冒険は、今、まさに始まろうとしていた。それは、彼が思い描いていた英雄譚とは、似ても似つかない、奇妙な旅になる予感がした。


翌朝、アルフは三人を連れて、いつもの森の入り口へとやってきた。

​「えー、本当にやるにゃんか? スライム狩りなんて、全然面白そうじゃないにゃん」

​ネルが不満げに地面に寝転がろうとするのを、アルフは慌てて止めた。

​「ちょっと待ってくれ! これが僕の、そして僕たちの最初の仕事なんだ!」

​「わたくし、このような汚い場所で舞を披露することになりますの? 冗談ですわ!」

​ミラが顔をしかめ、ドレスの裾を気にしている。

​「大丈夫ッス! この地味で退屈なスライム狩りこそ、真の英雄譚の始まりッスよ! アッシが物語として、壮大に盛ってやるッス!」

​ザビエラだけは、ノートに何事か書きつけながら興奮していた。

​「見てくれ! あれが、僕がいつも戦っているスライムだ!」

​アルフが指差した先には、ぷるぷると震える青いスライムがいた。彼は木の棒を握りしめ、いつものように構える。

​「さあ、みんな見ていてくれ! 僕が奴を倒して、英雄への第一歩を踏み出すんだ!」

​アルフは意気込んでスライムに飛びかかった。だが、スライムは軽やかに跳ね、アルフの攻撃をかわす。木の棒は空を切り、アルフはそのまま地面に転がった。

​「にゃはは!やっぱり面白くないにゃん!」

​ネルが腹を抱えて笑う。

​「アルフさん、あなた、本当に大丈夫ですの? わたくしの美しい瞳が、汚れてしまいそうですわ……」

​ミラが呆れたようにため息をついた。

​「いや、まだだ! 師範の教え通り、足運びを……」

​アルフが立ち上がり、再びスライムに向かっていく。だが、何度やっても結果は同じだった。

​その時、一人の少女が動いた。

​「にゃー! もう見てられないにゃん! あたしが遊んであげるにゃん!」

​ネルがスライムに向かって駆け出し、そのぷるぷるの体を思い切り押さえつけた。

​「にゃは! ぷにぷにしてるにゃん! なんか、面白いにゃん!」

​「わたくしにも触らせてくださいですわ! きゃー! 気持ち悪いですわ!」

​ミラも駆け寄り、スライムの体に触れてはしゃいでいる。

​スライムは、今まで戦ってきた中で一番わけのわからない敵に、戸惑っているようだった。アルフが渾身の一撃を放ってもびくともしなかった体が、二人の遊びによって、少しずつ形を変えていく。

​そして、ついにスライムは、二つに分裂してしまった。

​「にゃはは! 分裂したにゃん!」

​「すごいんですわ! まるで、魔法みたいですわ!」

​二人は分裂したスライムを交互に触ってはしゃぎ、やがてそのスライムは小さな水たまりとなって消えてしまった。

​アルフは、ただ呆然と立ち尽くしていた。御伽噺の英雄は、こんな風にスライムを倒しただろうか?

​「…...…終わったッスね」

​ザビエラがノートにペンを走らせていた。

​『——伝説の勇者、木の棒を片手にスライムに挑むも、仲間たちの『遊び』によって、魔物は無力化された』

​アルフの初めての冒険は、彼が思い描いていたものとは、似ても似つかない形で幕を閉じたのだった。


スライムが水たまりと化した後も、アルフの混乱は続いていた。彼が汗水垂らして何度も挑戦しては敗れた相手を、彼女たちは「遊び」で倒してしまったのだ。

​「えっと……みんな、すごいな! 僕が全然歯が立たなかったのに……」

​アルフがそう言うと、ネルはにゃははと笑い、ミラは「当たり前ですわ」と胸を張った。ザビエラはただ、ノートにペンを走らせている。

​この奇妙な状況に、アルフはなんとか旅の仲間としての一歩を踏み出さなければ、と思った。御伽噺の英雄は、まず仲間の情報を共有し、役割分担をするものだ。

​「よし、皆。まずは情報共有をしよう! 職業と、レベルと、ステータスを教えてほしいんだ!」

​アルフが真剣な表情で言うと、三人はキョトンとした顔でアルフを見つめた。

​「職業? レベル? そんなの、どうでもいいにゃん。あたしは遊び人にゃん」

​ネルがそう言って、再び地面に寝転がろうとする。

​「わたくしの職業は踊り子ですわ。レベル? そんな無粋な数字で、わたくしの美を測ろうとしないでくださいまし」

​ミラは眉をひそめ、アルフの言葉を完全に無視するように、優雅なステップを踏み始めた。

​「アッシの職業は吟遊詩人ッス。レベルは……多分、『物語を語った数』ッスかね?」

​ザビエラは真剣に考え込んだが、的外れな答えが返ってきた。

​アルフは頭を抱えた。自分のステータスを公開し、仲間としての一体感を築こうと思ったのに、まるで話が通じない。

​「え、でも……それじゃ、これからどうやって戦うんだ? 御伽噺の勇者には、剣士、魔法使い、僧侶といった役割分担があったんだ!」

​アルフが必死に問いかけると、三人は再び顔を見合わせた。

​「にゃはは! アルフはまだわかってないにゃん。あたしたちの役割は、『面白いことを見つける』ことだにゃん!」

​ネルが言うと、ミラが頷いた。

​「そうですわ! わたくしは踊りで、この旅を優雅なものにしてみせますわ!」

​「アッシは、この旅を、誰も聞いたことのない英雄譚として、最高の一冊に仕上げるッス!」

​アルフの前にいるのは、職業の枠を飛び越えた、自由すぎる三人の逸脱者たちだった。彼が理想とする「英雄譚」とは、まるで違う物語が、今、始まろうとしていた。

道場での鍛錬は、アルフにとって聖域だった。仲間たちとのドタバタなスライム狩りの後、アルフは一人、木剣を握りしめていた。師範の教えを守り、ひたすら素振りを繰り返す。一振り、また一振り。御伽噺の英雄になるためには、地道な努力こそが唯一の道だと信じていた。

​その光景を、道場の入り口から三つの影がじっと見つめていた。

​「にゃーん、つまんないにゃん。同じ動きばっかしてて、全然面白くないにゃん」

​ネルが飽き飽きした様子で、あくびを噛み殺している。

​「わたくし、こんなに地味な鍛錬、見たことありませんわ!これでは、肉体だけではなく、魂まで泥まみれになってしまいますわ!」

​ミラは、まるで穢れたものを見るかのように目を細めた。彼女にとって、反復的な動きは芸術とは程遠いものだった。

​「いや、違うッスよ、お二人さん!これこそが英雄譚の真髄ッスよ!」

​ザビエラがノートにペンを走らせながら、熱っぽく語る。

​『——勇者、ひたすら剣を振るう。その姿、一見地味にして退屈なれど、その内に秘められたるは、世界の命運を賭けた、壮大な決意なり!』

​アルフの視界の端に、そんな三人の姿が映っていた。彼が素振りを終えると、三人はアルフの周りに駆け寄ってきた。

​「アルフさん! その素振りに、もっと優雅な舞踏の動きを取り入れてみてはいかがですの?」

​ミラはそう言って、優雅に回転しながら木剣を振る動作をやって見せた。

​「そうだにゃん! もっと無駄な動きを増やして、アルフオリジナルの必殺技を作ると面白いかもにゃん!」

​ネルが言うと、アルフは困惑した。

​「そ、そんなことしたら、師範に怒られちゃうよ……」

​「大丈夫ッス! アッシが、その無駄な動きを『秘奥義』として、美しく飾り立ててあげるッス!」

​ザビエラが力強く頷き、アルフの困惑はさらに深まった。

​彼らは、アルフが真面目に積み重ねてきた努力を、根本からひっくり返そうとしていた。アルフが目指す「英雄」は、御伽噺に登場するような、まっすぐで力強い存在だ。しかし、彼らの目には、そのまっすぐさこそが「面白くない」ものに映っているようだった。


​アルフは、三人の奇妙な仲間たちの提案に、最初は戸惑いを隠せなかった。しかし、スライム狩りの時のことを思い出す。彼がどれだけ真面目に頑張っても倒せなかったスライムを、彼女たちは「遊び」で倒してしまった。もしかしたら、僕のやり方は間違っているのかもしれない。

​アルフは、意を決した。

​「わかった!やってみるよ!」

​ミラが教える優雅なステップと、ネルが提案する無駄な動きを組み合わせ、アルフは木剣を構えた。

​「最初は、右足から優雅に……そうですわ!そのまま流れるように、剣を高く掲げますの!」

​ミラの指示に従い、アルフはぎこちなくもステップを踏む。まるで踊るように木剣を振る動きは、彼が師範に教わってきたものとは似ても似つかない。

​「にゃはは!いいね、いいね!そのままグルーっと回って、ぴょーんと跳ねるにゃん!」

​ネルの言葉に、アルフはジャンプし、そのまま一回転する。地面に不時着し、バランスを崩しかけたが、なんとか体勢を立て直した。

​「そして、最後は決め台詞ッス!」

​ザビエラの声が響く。

​「いくぞ!我が名は、アルフ!大いなる大地の恵みを受けし、勇者なり!」

​アルフはそう叫び、最後に力強く木剣を振り下ろした。その一連の動きは、確かに力強く、そしてどこか滑稽だった。

​「すごいッス!これなら、もう最強ッスよ!」

​ザビエラが目を輝かせ、ノートに何かを書きつけた。

​『——伝説の勇者、アルフ、秘奥義『大地の恵み斬り』を習得。その舞踏のごとき一撃は、大地を揺るがし、天を穿つと伝えられている』

​「アルフさん、わたくしの舞踏の才能、見事ですわ! これで、もう立派な英雄ですわね!」

​「にゃはは! これなら、スライムを倒せるどころか、笑い死にさせられるにゃん!」

​三人は口々に褒め称えるが、アルフの顔は複雑だった。確かに派手な動きと決め台詞は面白かったが、果たしてこれが本当に「英雄」の道なのだろうか?

​アルフが首を傾げていると、道場の師範が厳しい表情で現れた。

​「アルフ!貴様、一体何をやっておる!」

​師範は、アルフの目の前で、彼が今しがた練習していた滑稽な動きを、一瞬で真似してみせた。

​「これは、道場破りの舞か? ふざけた真似をするな!」

​師範の怒鳴り声が道場に響き渡った。

​アルフは、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。彼の「英雄」への道は、思わぬ方向へと転がり始めていた。


道場から追い出されたアルフは、重い足取りで家路についていた。夕焼けが空と大地を赤く染め、その光景が彼の心をさらに沈ませる。三人の無責任な提案に乗った結果、師範からの信頼まで失ってしまった。

​(やっぱり、僕のやり方は間違ってなかったんだ。英雄の道は、地道で真面目な鍛錬なんだ……)

​アルフはそう自分に言い聞かせ、誰もいない人気のない道で、再び木剣を構えた。

​「――っ、ふ!」

​師範に教わった通りの、基本に忠実な型。彼はただひたすらに、それを繰り返した。右に一歩踏み出し、木剣を水平に振る。そして、左に一歩。足運び、重心、腕の角度。一つひとつを丁寧に確認する。

​日が沈み、空が群青色に変わっていく。それでもアルフは、木剣を振るのをやめなかった。

​その時、背後から声が聞こえた。

​「にゃーん、地味だにゃん」

​振り返ると、そこには三人の姿があった。

​「アルフさん、まだそんな退屈なことをしているのですわ? わたくし、見ていられませんわ!」

​「まあまあ、でも、これもまた『真の努力』って感じで、エモいッスね!」

​三人は、アルフの真面目な練習風景を、それぞれの視点から好き勝手に評価する。アルフは、もう何も言えなかった。ただ、木剣を握りしめ、前を向く。

​(僕は、絶対、英雄になってやる。この地道な努力が、いつか報われるって証明してやる!)

​アルフの心に、小さな火が灯った。


アルフが夕焼けの空の下で黙々と木剣を振る姿を見て、三人は顔を見合わせた。

​「にゃーん、やっぱりつまんないにゃん。ね、アルフ。そんな基本の型なんて、全然役に立たないにゃん!」

​ネルが言うと、アルフは練習の手を止めた。

​「そんなことない!師範が言ってたんだ。基本ができてこそ、応用ができるって!」

​「まあまあ、アルフさん。そのお師匠様とやらのやり方では、スライム一体倒すのにも苦労していたではないですの。わたくしの考える真の強さとは、型にはまらない、優雅なアドリブですわ!」

​ミラが自信満々に胸を張る。

​「そうですッス!アッシの言うところの『物語』ってやつは、型にはまった台本通りには進まないッス!常に想定外の展開、つまり『アドリブ』こそが、物語を面白くするんスよ!」

​ザビエラが熱っぽく語り、ペンをくるりと回す。

​「見てるだけで退屈にゃん。よし!アルフ、あたしたちに付いてくるにゃん!この退屈な世界に、面白いアドリブを仕掛けに行くにゃん!」

​ネルはそう言い放つと、迷いなく森の奥へと走り出した。ミラとザビエラも、アルフが何も言えないうちに彼女の後を追う。

​「待ってくれ!どこへ行くんだ!?」

​アルフが問いかけると、ザビエラが振り返り、満面の笑みで答えた。

​「もちろん、アドリブの真価を証明する場所ッスよ!師範の教えが役に立たないことを、アルフ自身の目で確かめるんス!」

​三人の足は、みるみるうちに森のさらに奥へと進んでいく。道はますます険しくなり、アルフは焦りを感じていた。この先は、村の人間が絶対に近づかない場所だ。

​やがて、彼らの目の前に、洞窟のような深い穴が口を開けていた。中から、ぷるぷるとした不気味な音が響いてくる。

​「にゃは!見つけたにゃん!アルフ、これが、あたしたちがアドリブを見せる最高の舞台にゃん!スライムの巣窟にゃん!」

​ネルが楽しそうに叫んだ。アルフは息をのんだ。目の前に広がる光景は、彼がこれまで見てきた、一匹のスライムと戦う平和な日常とは、あまりにもかけ離れたものだった。


​アルフは目の前の光景に息をのんだ。これまで一匹のスライムにすら苦戦していた自分が、こんな膨大な数のスライムを相手にできるはずがない。

​「どうだ、アルフ!これがアドリブの真価ッスよ!」

​ザビエラが楽しげに叫んだ。アルフが困惑の表情で振り返ると、三人はどこか得意げな顔をしていた。

​「あ、あの……こんな場所、危険すぎる!早く逃げよう!」

​アルフがそう提案すると、ネルはにゃははと笑い、首を横に振った。

​「にゃーん、逃げる必要ないにゃん。だって、ここ、あたしたちが作った遊び場だもん!」

​アルフは耳を疑った。

​「作ったって……どういうことだよ!?」

​ミラが優雅に一歩前に出た。

​「わたくし、この村に来て、あまりの地味さに退屈していましたの。そこに、毎日毎日同じ場所で、同じ相手と戦うあなたを見て、この退屈な世界に芸術の種をまくことを決めたんですわ」

​「そうッス!アッシも同じッス!この村には、壮大な物語の舞台がなかったッス。だから、アッシがこのスライムの巣窟を、英雄譚の始まりの場所として設計したんスよ!」

​ザビエラがノートを広げて見せる。そこには、巣窟の地図や、アルフがスライムと戦っている様子を大げさに書き記した文章が並んでいた。

​「にゃはは!みんなで遊ぶには、ここが一番いいにゃん!だから、アルフが来るまで、この場所はずっと放置してたにゃん!」

​ネルがそう言って、大きなあくびをした。

​アルフは呆然と立ち尽くした。自分が真剣に英雄を目指して戦ってきたスライムは、彼女たちにとっては、ただの「遊び道具」であり、「舞台装置」でしかなかったのだ。そして、この危険な巣窟は、彼らが仲間と遊ぶために、あえて放置されていた場所だった。

​彼の純粋な努力は、彼女たちの自由奔放な思惑によって、とんでもない形で利用されていた。

​「そ、そんな……僕の、僕の努力は……!」

​アルフが叫ぶと、三人はキョトンとした顔で彼を見つめた。彼らの目には、アルフの真剣な葛藤は、まるで理解できないもののように映っていた。


「そんな……僕の、僕の努力は……!」

​アルフの叫びに、三人はただ、不思議そうに首を傾げた。彼らの目には、アルフの真剣な葛藤も、このスライムの巣窟も、すべてが「面白さ」というフィルターを通して映っていた。

​その時、一匹のスライムが、ぷるん、と跳ねてアルフに襲いかかった。

​アルフは反射的に、師範に教わった型で木剣を構える。だが、彼は知っている。この型では、この数のスライムには勝てない。ましてや、自分の努力がすべて滑稽な「遊び」だったと突きつけられた今、彼の心は揺らいでいた。

​(違う! 型なんて、どうでもいいんだ!)

​アルフの脳裏に、師範に怒鳴られた日の夕焼けがよみがえった。そして、ネルとミラ、ザビエラの無責任な言葉が。彼らが言う「アドリブ」とは、もしかしたら、このどうしようもない状況を切り抜けるための、唯一の道なのかもしれない。

​アルフは木剣を構え直した。

​「……行くぞ!」

​彼は叫び、師範に教わった型を無視し、目の前のスライムに斬りかかった。それは、かつてミラが教えた優雅なステップと、ネルが提案した無駄なジャンプが混ざり合った、まったく新しい動きだった。

​その時、背後から、三人の声が重なって聞こえた。

​「にゃーん! アルフにアドリブ精神が芽生えたにゃん! それじゃあ、あたしたちの出番にゃん!」

​「わたくしの舞踏で、あなたに優雅な加護を与えましょう!」

​「アッシの言葉が、アルフの防御力をさらに高めるッス!」

​ミラが優雅に踊り始めると、アルフの身体がふわりと軽くなった。ネルが楽しそうに歌い始めると、彼の木剣が今までになくしっくりと手に馴染む。そして、ザビエラがノートにペンを走らせると、彼の心に不思議な安心感が広がった。

​三人の「アドリブ」は、アルフの身体を三重のバフで包み込んだ。それは、見たこともない、不思議な防御力アップだった。

​アルフは、その身に宿った力を感じながら、目の前のスライムの群れに向かって叫んだ。

​「行くぞ! 『大地の恵み斬り』!」

​もはや、それは師範の教えでも、御伽噺の型でもなかった。アルフと、三人の「逸脱者」たちが創り出した、まったく新しい技だった。


アルフは、もはや型も舞踏も忘れていた。目の前にいるのは、無限に湧いてくるスライムの群れだ。彼は、ただただがむしゃらに、本能のままに木剣を振る。泥まみれになり、転び、それでも立ち上がり、前へと突き進む。

​その傍らで、三人の少女たちは悠然としていた。彼らが持つ能力は、どういうわけか「防御」にしか特化していなかった。

​「にゃーん! アルフは相変わらず真面目に頑張るにゃん! つまんないけど、逆に面白いから、あたしが守ってあげるにゃん!」

​ネルがそう言って、アルフの周りを駆け回る。すると、スライムの攻撃が不思議なほどに当たらなくなった。まるで、アルフの周りの空間が「つまらない」と判断され、攻撃がするりと通り抜けるかのようだった。

​「わたくしの舞踏は、優雅な防御力を生み出しますわ! あなたのような真面目な努力家が、わたくしの舞踏で傷つくなど、美学に反しますもの!」

​ミラが優雅に舞い、アルフの身体に光の輪を放つ。その瞬間、彼の身体は信じられないほど軽く、しなやかになった。スライムの攻撃を、まるで舞うようにひらりひらりと避けることができる。それは、彼女の芸術がもたらす、完璧な回避能力だった。

​「アッシの言葉が、アルフを最強の盾にするッス! これはもう、誰にも破れない英雄の伝説ッスから!」

​ザビエラがノートにペンを走らせるたびに、アルフの心が満たされていく。身体は泥まみれでも、心には揺るぎない確信が生まれる。自分は、この物語の主人公なのだ、と。ザビエラが紡ぐ言葉は、アルフの心を物理的な攻撃から守る、強靭な信念の盾となった。

​アルフは無敵だった。いや、無敵にさせられていた。

​彼はただがむしゃらに、泥まみれになりながら木剣を振り回し続ける。三人の少女たちは、そんな彼の姿を、各々の方法で「守り」続けた。攻撃力はゼロ。しかし、誰一人として、アルフを傷つけることはできなかった。

​「にゃはは! アルフ、全然傷ついてないにゃん! すごいすごい!」

​「見事ですわ! やはりわたくしの舞踏は、この世で最も美しいですわね!」

​「アッシの語り通り、アルフはもう無敵の勇者ッス!」

​スライムの群れは、やがてその数を減らし、最後の一匹が水たまりと化した。アルフは、膝から崩れ落ち、ぜいぜいと肩で息をしていた。彼の身体には、かすり傷ひとつなかった。

​アルフは、御伽噺の英雄がするように、敵を討ち倒したのではない。彼が成し遂げたのは、三人の奇妙な仲間たちの「防御」によって、ただひたすらに耐え抜くことだった。


スライムの巣窟から戻ったアルフは、へとへとだった。身体には傷ひとつないが、精神的な疲労が限界に達していた。

​「……信じられない」

​アルフは呟いた。御伽噺の英雄は、剣で敵を打ち倒し、勝利を掴む。だが、彼はただひたすらに耐え抜き、仲間たちの「防御」によって生き延びただけだった。

​「にゃはは! アルフ、すごかったにゃん! あたし、こんなに面白い冒険、初めてにゃん!」

​「そうですわ! あなたの地味な努力と、わたくしたちの優雅な能力が、完璧に噛み合いましたわ!」

​「これこそ、真の英雄譚ッス! 攻撃力ゼロでも、物語は語れるってことッスよ!」

​三人は口々にアルフを褒め称える。だが、アルフの心には、ある一つの疑問が渦巻いていた。

​「ちょっと待ってくれ! なんで、防御力しか上がらないんだ!?」

​アルフは、我慢できずに叫んだ。

​「他にもあるだろ! 攻撃力とか、素早さとか! なんで全部、防御なんだよ!」

​アルフの悲痛な叫びに、三人はキョトンと目を丸くした。まるで、彼の言っていることが理解できないとでもいうように。

​「にゃーん、だって、攻撃力とか素早さとか、そんなの、全然面白くないにゃん」

​ネルが、当然とばかりに答えた。

​「そうですわ! 派手な攻撃で敵を倒すなど、無粋すぎますわ! 美しく華麗に、そして絶対に傷つかないことこそが、真の芸術ですわ!」

​ミラが胸を張り、優雅なポーズを決める。

​「攻撃で敵を倒すなんて、英雄譚としてはありきたりすぎッス! アッシの語りでは、『最強の矛』よりも、『最強の盾』のほうがロマンがあるんスよ!」

​ザビエラがノートにペンを走らせる。

​「だから、わたくしたちは、アルフの防御力しか上げないんですわ!」

​アルフは、もう何も言えなかった。彼の常識は、彼女たちの自由奔放な価値観の前では、もはや無力だった。彼らの「逸脱」は、アルフの知る「英雄」の定義を、根底から覆そうとしていた。


​スライムの巣窟から生還したアルフは、へとへとになって家路についた。三人の奇妙な仲間たちは、彼を置いて一足先に村へと戻っていた。

​「にゃはは!アルフ、お疲れにゃん!あたし、酒場で面白いことしてくるにゃん!」

​ネルはそう言って、ミラとザビエラを連れて駆け出した。アルフが、まだ身体の震えが収まらないまま、家で休んでいる頃。三人は村の酒場に戻り、カウンターに陣取っていた。

​「マスター!すごい話があるッスよ!」

​ザビエラが興奮した様子で叫んだ。酒場のマスターや、そこにいた旅人たちが、三人のただならぬ雰囲気に興味を引かれて集まってきた。

​「なんだ、お前たち。そんなに息を切らして、一体何があったんだ?」

​マスターが問いかけると、ザビエラはノートを広げ、声を張り上げた。

​「聞いてくれッス!アッシたちの新しい仲間、アルフの伝説ッス!」

​「彼は、たった一人でスライムの巣窟に乗り込み、すべてを制圧したんですわ!」

​ミラが優雅に、だが力強く語る。彼女の言葉は、まるで魔法のように酒場の空気を変えていった。

​「にゃーん、すごかったにゃん。彼は、まるで踊るように剣を振り、スライムたちを次々と翻弄したにゃん!」

​ネルがそう言うと、マスターは怪訝な顔をした。

​「一人で?あのスライムの巣をか?馬鹿なことを言うな。あの農家の小倅にそんなことができるわけがない」

​「にゃー!信じられないなんて、ひどいにゃん!あれは、アルフの『面白さ』が爆発した瞬間だったにゃん!彼は、どんな攻撃も通じない『無敵の遊び人』になったにゃん!」

​ネルはカウンターに乗り上げ、目を輝かせながら訴える。

​「そうですわ!彼の戦いには、わたくしの舞踏の教えが活かされていましたの。それはもはや、剣術ではなく芸術でしたわ!」

​ミラが身振り手振りを交え、アルフの戦いを美しく脚色する。

​そして、ザビエラが締めの言葉を語った。

​「アルフは、確かに最初は地味だったッス。でも、アッシの言葉が彼に力を与え、彼は今や、誰にも傷つけられない『最強の盾騎士』ッス!アッシが語るこの物語は、すべて真実ッスよ!」

​三人の熱弁に、酒場は静まり返った。その場にいた誰もが、半信半疑だったが、三人のあまりにも生き生きとした語りに、次第に心が揺らいでいく。

​アルフが、家に帰り着き、泥まみれの服を脱いでいる間。彼が全く知らないところで、彼の「英雄」としての最初の物語が、彼女たちによって創られ、そして語られ始めていた。

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