死者からの伝言

ポンポン帝国

死者からの伝言

 俺は子供の頃からよく予知夢を見ていた。


 些細なことから大きなことまで。


 些細なことは、階段から落ちてケガする。


 大きなことは、地震や人の生き死に。


 そんな俺は霊感も強いらしく橋で亡くなった人や、仕事現場に行くと過労死でその場で亡くなった人がそのまま居憑いてしまったらしき人とかにあったり、まぁ幼い頃から色々体験してきた。


 幽霊も生きている人間と一緒で、良い人もいれば悪い人もいる。




 俺の親父は霊感というものに興味が全くなく、母さんは興味がありすぎるくらいだった。


 母さんは俺の霊感がどんな形で使ったり出来るのとかも試してみてきたことがある。


 例えば、外出中の道端で突然少し離れた所から心の中で俺に聞こえるかどうかとか試してみたり。


 まぁ実際俺は呼ばれた気がして振り返って母さんの所に行き


「なんか呼んだ?」


と聞く。すると母さんは


「声を出して呼んではいないけど、心の中で呼んでみた。聞こえるかなぁ? って思って」


『なんだそりゃ』と思いながら


「用が無いなら行くよ」


と言いながら向きを変えようとしたら


「いやぁ、喉が湧いたからここでコーヒー缶でも買おうかと思って。飲む?」


 何故かその時の母さんはへらへらしてる様に見えたから、俺はぶっきらぼうに


「おごりなら飲む。」


と答えた。





 それから10年ほど経ち。


 俺は家を出て自分の家族を持つようになった。


 年のせいか霊感は少し弱くなり、予知夢は昔ほど見なくなった。



 が、とある年のお正月の三が日、久しぶりに嫌な予知夢を見た。いや、見てしまった。


 内容をまとめて言ってしまえば




【兄の所に子供が産まれたら、母親が死ぬ】




 正直言ってどうしたら正解なのか判らなくて、パートナーに思わず直ぐに話した。


 まぁ話をしたところで結局の所、前半の夢が当たって、後半の夢が外れる事を祈るしかないけど、それも様子をみるしかないと判断した。




 そしてその半年後に事態が動いた。


 祖父が亡くなり通夜だけでも来てほしいと頼まれ、通夜に参加している最中に。

 


【兄さんの奥さんが身籠って安定期になった】



と報告された。


「あんた驚いてないね、また夢で知ってた?」


と母さんは聞いてきた。


俺は素直に


「うん、三が日の夢で兄さんに子供が産まれるって夢をみたよ。」

と答えた。


けど、その先の事は言えなかった。



【産まれたら、あなた死にますよ】



なんて言えるはずもない。





 俺に出来ることは、もう夢が現実にならないよう祈るしかなかった、、、。




 けれど、そんな願いも虚しく更に半年後に事態がまた動いてしまう。


 珍しく親父からの電話だった。


「母さんの心臓が急に悪くなって入院することになった。〇〇日に説明聞かなきゃいけないけど、誰も来れないから悪いが付き添いで来てほしい。」


とのことだった。


『午前中は普通にL◯NEしてたのに』と思っていた。


 そして俺は実家からは遠くに住んでいるから普段なら「嫌だ」と答えて終わりにするところだったが、無意識に


「分かった、パートナーに時間の相談とかしてみる。」


と直ぐに答えて、パートナーに説明をして一緒にその日行ってもらうことにした。



 病院に行く日まで3日あった。


 パートナーに、こう言われて気が付いた。


「普段なら即答で嫌だって答えるのに、急に行くだなんて言うの珍しいね?」


「あ、確かに。」


 その直後、親父から再び電話があった。


「そういえば、お兄ちゃんのところに赤ちゃんが無事産まれたよ。母さんね、支えながらだけど抱っこ出来たんだ。」


「そっか、それはよかったね。」



 兄とは疎遠になってたし、親父も母さんも産まれたことをその時になるまで教えてくれなかったから、嬉しさより驚きの方がその時勝った。


 俺は3日間、不安でしょうがなかった。



【産まれたら、死ぬ】



 それがどうしても離れなかった。



 俺の予知夢が実際に起こるのに大体1年以内だから、あと2週間もってくれれば予知夢は半分外れることになるから、母さんあと2週間耐えてくれと祈った。


 ただそんな祈りも虚しく、予定だった日の前日の夜中に



【母さんが亡くなった】



と知らせが入った。


 出来るだけ早く実家に向かった。ただ知っていたせいか落ち込みはしたものの、知らせを受けてから全部終わっても泣くことが出来なかった。


 葬式が終わり、自宅に帰ってから2日目の夜中、夢を見た。


それは



【母さんが実家(祖母の居る家)に帰りたがっている】



という内容のものだった。


 俺にテレパシーが通じると知っていたからか、おそらく母さんが俺の夢を渡ってきたのだろう。


 けど親父がなんて思うか分からないし、俺には墓を用意してあげられるお金も無ければ、母方の人間に話す勇気も無い。


 俺は実家に置かれた母さんの遺骨に向かって


『最後の願い叶えてやれなくて、ごめん。』


とだけ伝えた。

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